9.教官vsレオン
時を遡ること数十分前
「ここが訓練所かぁ~。でっけぇなぁ~」
ヴァイオスに連れられてマコトは訓練所に来ていた。
外観はローマのコロッセオに酷似していて正直ここが本当に訓練所かどうか怪しく思えてくる。
闘技場といわれたほうがまだ納得する。
「驚いただろ?私も最初、ここに連れてこられたときはびっくりしたものさ。この訓練所はこの国が建国された時からあるらしく最も古い建物だ。年に一度ここでは大会が開かれていて各国の強者たちが集まって試合を行ったりもする」
「へぇ~そりゃ見てみたいものだな」
使い方もコロッセオと似たようなものらしい。まさに闘技場だ。
「さ、こっちだ。観客席の方に案内しよう」
おまけに観客席があるのだから、ホントに訓練所かと疑いたくなるのは仕方ないだろう。
『識別』で見るとかなり頑丈に作られていること頑丈に作られていることがわかるし、魔法によるバリアみたいなもんも張られている。
よほどことがない限り、この訓練所もどきが壊れることはなさそうだ。
「この時間帯は騎士見習たちが使ってるはずだ」
ていうことは、レオンもここにいることになる。六日間いなかったのでレオンのことだから、かなり心配してたと思う。
(会ったら謝っとくか)
訓練所の中は色々と施設がありその中央の広場が訓練するための場所みたいだ。
周りを眺めているとヴァイオスは二階に上がっていた。
二階がさっき言っていた観客席で中央の広場を見下ろすことができるらしい。
俺たちは適当な場所に腰をおいて中央を見た。
ちょうど、騎士見習と教官が一対一をの模擬戦を始めるらしい。よく見てみると騎士見習の方はレオンだった。
レオンは一気に間合いを詰めて斬りかかった。なかなかいい踏み込みだとは思うが少々単純だ。あれでは簡単に躱されるだろう。予想通り、教官は躱したがそれはレオンも想定内らしくすぐに切り上げ行っていた。
素人目にはなかなかいい攻撃だと思ったが相手はその攻撃を簡単に躱していた。
その時、相手から何やらオーラ的なもの出るのを見た。
『識別』の解析によるとどうやら相手は身体強化魔法で知覚速度を上げているらしい。
「おいおい、騎士見習に魔法使ってんのかよ」
「何?・・・確かにわずかながら魔力の波動を感じるな。しかし、よく気づいたな。あれほど微弱だとしっかりと感知しなければわからないというのに」
「まぁ、才能ってやつだよ」
神様が才能をスキルに昇華させたと言っていたのだから嘘にはならないだろう。
マコトたちが話している間にも勝負は進んでいきレオンが突きを入れる瞬間に急激に魔法の出力を上げ知覚速度だけでなく身体能力も上げてレオンの攻撃をかわしカウンターを入れていた。レオンは地面に這いつくばる結果となった。
(相手が魔法を使ってくるなら魔法の使えないレオンでは勝ち目は薄いだろうが、これは実戦形式なのだから魔法もありなのだろうが仮にも教官があそこまで全力を出すものだろうか?)
レオンの実力をしっかりと評価しての行動なのだとしたら言うことはないのだが相手の顔からは弱者をいたぶることに快感を覚えている表情をしていた。
「ほら、さっさと立てよ。まだ試合は終わってねぇっぞ‼」
倒れているレオンに向かって容赦なく蹴りを入れていた。
「いくら何でもやりすぎだ!すぐに止めねば・・・!」
血管を浮き出してヴァイオスは立ち上がろうとしたのをマコトは手で制した。
「これはあいつらの戦いだ。俺たちが割り込んでいいもんじゃねよ」
「しかし、あいつの行動は訓練の枠から外れてる!奴のやってることはただのいじめだ‼」
「実践ならば、魔法使われるのも強者にいたぶられるのもあり得るからな。ギリギリ訓練の範疇だろ」
そういいながらマコトは静かに立ち上がる。
これはあいつの戦いなんだ。それならば俺たちが割り込むわけにはいかない。
「ずいぶん腑抜けた戦いしてんなぁ」
この戦いはあいつ自身がけりをつけるべきだ。
聞き覚えのある声の方向を見てみるとそこには先生がいた。
「先生⁈どうしてこんなところに?先生は確か捕まったはずじゃ・・・」
「んなことは今はどうでもいいだろ、それよりもいつまで倒れてるつもりだ?」
先生はめんどくさそうな態度をしながら問いかけてくる。
「立派な騎士になるんだろ?だったらさっさと立ち上がれ」
「僕じゃあ、・・・教官には勝てないんです。僕なんかじゃ勝ち目がないんです。」
「なら、あきらめるのか?」
うつむいていた自分にそんな言葉が投げかけられる。
「お前が目指していたものはその程度のことで諦められるものだったのか?魔力がないだとか、教官に勝てないだとかその程度のことであきらめがつくものだったのか?」
相変わらずめんどくさそうに問いかけてくるのにその言葉にはどこか重みがあった。
「おい、貴様‼何もんだ!部外者が口出ししてんじゃねぇ‼」
「部外者じゃない。俺はそいつの教師だ」
「教師だぁ~?だったらそいつに言ってやれよ、身の丈に合わない夢は諦めろって。低俗な平民で魔力も持たねぇ奴が騎士なんかになれるわけねぇだろ!」
教官の言葉に胸がえぐられたような思いだった。どんなに頑張っても魔力が発現するわけでもない。鍛えたところで身体強化魔法を使われれば身体能力では勝ち目がない。剣の才能があるわけでもない。教官の言う通り不相応な夢は諦めるべきなのだ。
「なんで、てめぇがそいつのことを決めてんだ」
そんな言葉が広場に響いた。
「そいつが何になるのか決めるのはそいつが決めることだ。てめぇが決めていいことなんて一つもねぇ」
レオンは顔を上げマコトの顔を見た。いつの間にかめんどくさそうな態度は鳴りを潜め、真剣な口調で話していた。
「それに俺はお前に話しかけてねぇ。レオン!お前がなりたいのはなんだ‼」
僕のなりたいものそれは・・・
「立派な騎士になることです!」
「だったらいつまでも地面に座り込んでないで立ち上がれ!」
「はい!」
よろけそうになりながらもしっかりと立ち、対戦相手である教官を見据える。
「俺との修行を思い出せ。そうすりゃ勝てる」
そういうと先生は席に戻っていった。
レオンはゆっくりと深呼吸して修行の時に言われたとおり肩の力を抜き重心を前にした。
「はっはっは!俺に勝てる?あいつは何を馬鹿なことを言ってんだ。俺がこんなガキに負けるわけねぇだろ‼」
そういうと、教官は身体強化魔法を使って一気に間合いを詰めてきた。
「死ねぇぇぇぇぇぇ‼」
上段から思いっきり剣を振り下ろしてくる攻撃を教官の動きをしっかりと見て体を少しずらすことで回避する。
そのあともを教官は大ぶりな攻撃を繰り出し続けたが僕はそれらをギリギリのところで躱していた。
「ちょこまかとめんどくせぇ‼」
教官はそういうと魔法の出力を上げて横なぎに一閃した。
それを二歩下がることで回避する。
魔法の出力を上げたせいで剣閃で土埃が立ち、レオンの姿を見失う。
「くそっ!どこへ行った‼」
土埃が上がって僕の姿を見失った瞬間、レオンはジャンプしていた。
「うおぉぉぉぉぉぉ‼」
そして、教官の頭を思いっきり剣の腹でたたいた。
魔法の出力を上げすぎたせいか頭は強化されておらずそのまま教官は倒れた。
「はぁ・・・はぁ・・・、やったぁ、勝ったぁぁぁ!」
レオンはうれしさから声を上げる。ほかの生徒は僕が勝ったことが信じられず棒然としていた。
「よくやったじゃねぇか、お疲れさん」
いつの間にか、下りていたのか先生は僕のそばに立っており頭に手を置いていた。
レオンはそれが嬉しくもあり、むず痒い気持ちになる。
「ふざけんなよぉ・・・!」
レオンはハッとして声の方向を見てみると教官は顔を赤くして立ち上がっていた。
「俺が、お前みたいな才能のかけらもないやつに負けるはずがねぇ‼」
教官は僕たちに剣を振り上げていた。
(まずい!もう体力が残ってないから防ぐことができない!)
レオンはとっさに目をつぶった。
しかし、いくら待てど痛みが到来してこない。目を開けてみるとそこには屈強な騎士が教官の振り上げた手をつかんでいた。
「勝負はもう着いたはずだ。それ以上やるというならこの私が相手になるが?」
「おまっ、いやあなた様はヴァイオス卿・・・!なんでこんなところに・・・」
教官はその場でへたり込んでしまった。
「ヴァイオス、もうちょい早く出てきてくれよ。ひやひやしたぞ」
「はっはっは、すまんすまん。しかし、騎士とは危ない場面で助けに来るものだろ?」
「いや、知らんし。ていうか、危険になる前に助けろよ」
みんなが驚いているなか、二人は何事もなかったかのように話していた。
「せっ、先生、この方とお知り合いなんですか?」
「あぁ、そうだけど。なんだ?こいつは有名人だったのか?」
「有名人なんてもんじゃありません!この方はこの国の騎士団長であり”剣聖”と各国に名をとどろかせた方です!」
「そこまで言われることしてないよ。ただこの国のために剣をふるっていたらそのような呼称を得てしまっただけさ」
まさか、自分にとって遠い存在と思っていて方が目の前にいてしかも先生と話している。
レオンは改めて自分はすごい人の生徒になったもんだと実感していた。
「とりあえず、レオンはもうボロボロだし帰っていいよな?」
「あぁ、問題ない。あとはこちらで何とかしよう」
マコトはそういうとレオンのことを抱えて訓練所を出た。
「うふふふふ、面白いわね。彼」
それは訓練所の席の最上段にいた。
「エリカはどう思う?」
少女は後ろに立つ人物に話しかけた。
「騎士見習の実力を見抜く慧眼、そしてそれを発揮させる指導。また、先日の貴族を殴り飛ばす豪胆さ。味方にできればお嬢様のお力になってくれるでしょう」
女は表情を変えずに淡々と言葉を紡いだ。
「うふふ、エリカがそこまで言うんだから間違いないわね」
少女は笑いながらその場を去り、付き人と思われる女性も後をついていく。