8.戦意喪失
ガシャン!
兵士に囲まれたマコトは抵抗せず、騎士についていきそして牢屋に入れられた。
(まさか、一生のうちに牢屋に入ることがあるとは。人生何があるかわかんねぇなぁ。でも、まぁ、あの野郎を殴ったことは軽率だとは認めるが後悔は微塵もしていないがね。あんなのが爵位が高い貴族の息子だと思うとこの国の未来が不安だな。貴族が全員あんなのではないことを祈るとしよう)
その場に寝転がり、静かに寝息を立てる。
そうこうしてるうちに三日が過ぎた。
牢屋に入って分かったことが二つある。
一つ目、この牢屋自体に魔法陣が描かれていること。『識別』を使うとどうやら魔法を封じる力と身体能力を著しく下げる効果を持つらしい。見える範囲で他の牢屋も見てみると全部に同じ魔法陣が書かれている。ちなみに、スキルは魔法扱いにはならなかった。
もう一つは、マコトが殴った貴族はあまり好かれてないこと。どうやら、貴族の権威を使って色々と横暴なことをしていたらしい。爵位の高い貴族は横暴なことが多く、しかしそれを咎めることができずにいたので今回の騒動は大いに喜ばれた。見張りの兵士が殴ったことを称賛してくれたほどだ。
そして、今回の逮捕は形だけのものらしく、もう少ししたら釈放されるらしい。すぐにとはいかないのはそれがばれた場合色々とめんどくさいことがあるからだ。
そして、さらに三日たったころ俺は釈放された。
牢屋から出て外に出るとそこには俺を逮捕した騎士がいた。
その騎士はマコトのことを視界に入れると笑顔で声をかけてきた。
「やぁ、元気そうで何よりだ。六日ぶりの外はどうかね?」
「最高の気分だよ。貴重な体験をさせてくれたあんたには感謝の念しかないね」
マコトは皮肉をぶつけたが笑いながら流された。
「私の名はヴァイオス・フリード。立場上、君を拘束しなければいけなかったことを謝罪させてほしい」
「マコト・アラキだ。謝ることはねぇよ。あんたは自分の職務を全うしただけなんだからな。それに俺の命があるのはあんたのお陰なんだし」
兵士が教えてくれたことだがこの男は事件を知るや否やすぐにマコトのこと探していた。なんでも貴族派の騎士につかまると間違いなく処刑されるのでそれを阻止すべく動いてくれそうだ。
「ところで、これから何か予定でもあるかな?」
「特には無いな」
「それならば、私と一緒に訓練所に行かないか?君のことをもう少し知りたいのとぜひとも私たちの仲間になってほしいのだ。君のような胆力のある者が仲間にいるとありがたい」
マコトは目を見開いた。まさかそんな提案されるとは思ってもみなかったからだ。
少し思案した後にすぐに答えは出た。
「悪いけど、俺は騎士って柄ではないんでね。お誘いはうれしいが断らしてもらうよ」
「そうか、それは実に残念だ」
「ただ、騎士がどんな訓練を行っているかは興味があるから行ってみたい」
「あぁ、もちろんいいとも」
「レオン、そろそろ学校に行く時間でしょ?準備は整ってるのかい?」
「え?あっ、ほんとだ!」
レオンは急いで準備を整え宿を出た。
「おばさん、行ってきます!」
今日は訓練所で実戦形式のトレーニングがありその教官はかなり厳しく特にレオンにだけ当たりが強いのだ。なのでいらぬことで反感を食うわけにはいかない。
しかし、レオンはここ六日間心ここにあらずだった。
理由は自分の先生であるマコトが貴族を殴り、投獄されているからだ。
貴族に歯向かうのは罪に問われる。ましてや殴ったりなんかしたら処刑は免れないだろう。
先生がどうなってしまうのか?そのことが気になってしまいレオンは生きた心地がしなかった。
そうこうしているうちに目的の場所についた。訓練所はかなりでかく闘技場といわれたほうがしっくりくる建物だった。
急いで中に入り広場に行くとそこにはすでに教官と生徒がそろっていた。
「遅いぞ!貴様は時間を守ることもできんのか!」
「はい!遅刻をしてしまい申し訳ございません!」
「全く・・・これだから低俗な平民は好かんのだ」
この教官は大の平民嫌いで有名なのだ。そのため平民出身のレオンはことあるごとに目の敵にされている。
「それでは、前回言った通り実戦形式の試合を行ってもらう!ルールは負けを認めるか俺が止めるかの二つだけだ。それでは二人一組なれ!」
レオンはどの人と組もうかとあたりを見渡していた。先生に修行に付き合ってもらったので強くなっている自信がある。しかし、いきなりこの学校トップと戦うにはまだまだ実力が足りない。ここは中間ぐらいの実力の相手を選ぼうか・・・、そんなこと考えていると教官が
「レオン、貴様は今日遅刻した罰として俺と組んでもらう」
そんなこと言ってきた。
またか・・・っと思った。
入学当初からそうなのだ。普段は色々と嫌味を言われ、機嫌が悪いときは理由をつけて戦いそして気が済むまでいたぶる。平民とは所詮貴族の道具でしかないのだ。
「罰とはいえ教官である俺自ら指導してやるんだ、何か言うことがあるんじゃないか?」
「・・・ありがとうございます、精一杯、学ばせていただきます・・・」
そして、最初の組の試合が行われ始めた。どちらもパワーを重視した戦い方なので相手の攻撃を真っ向から受け反撃をしていたので迫力のある試合だった。二試合目は先ほどとは打って変わり回避やフェイントなどを交えた戦いでレオンにとって参考になる部分もあった。
それから着々と試合が行われ、ついに自分の順番が回ってきた。
「さぁ、さっさとかかってくるといい」
教官は余裕綽々といった態度でいってきた。
レオンはその言葉に耳を貸さず剣を正眼に構えて一つ深呼吸した。
(大丈夫、僕は強くなってる。自信を持っていけ)
そう心の中で唱え、教官に向かって攻撃を開始した。
一気に間合いを詰めて剣を真上から振り下ろし、間髪入れずに切り上げを行う。教官はそれを足運びのみでかわし横なぎに一閃する。とっさに剣の腹で受け止めるが筋力の差があり吹っ飛ばされてしまう。
すぐに体勢を立て直そうと立ち上がる時には教官は完全に間合いを詰めていた。そして、顔面に拳が飛んでくる。よけると考える間もなくしっかりと入り、地面に倒れてしまう。
「どうした、早く立ち上がれよ。まだ、試合は終わってねぇぞ」
鼻から血を垂らしながらもなんとかレオンは立ち上がる。しかし、きれいに顔面に入れられてしまったせいか足元がふらつく。
教官は立ち上がるのを確認すると一足飛びで近づき、剣を振り下ろす。なんとか力をそらしたものの手に衝撃がジンジンと伝わってくる。教官は再び剣を振り下ろす。それは技術ではなく力のみで剣を叩きつけてくる。
その攻撃にも耐えながら懐に入り込む。教官は距離を開けるためバックステップで下がるがそれは無防備な腹が見えていた。そこに向かって全力で突きを放つ。確実に当たったとレオンは確信した。しかし、当たる瞬間、教官が霞み突きは当たることなく、そして背中を痛みがはしる。
突きを放っていたため顔面から地面にダイブした。
やられながら疑問に思っていた。いくら何でも早すぎると。
「おいおい、これは実践と言ったろ?拳や蹴り、魔法を使うのは当然だろ」
その言葉でレオンは察した。身体強化の魔法を使ったのだと。
自分には魔力がないため魔法を使われるといった選択肢がなかった。また、まさか見習いごときに使うわけがないと思っていた。
「ほら、さっさと立てって。まだ試合は終わってねぇっぞ‼」
地面にはいつくばってる僕に向かって蹴りを入れてきた。
立ち上がろうにも立ち上がれなかった。最早、心は折れていた。どんなに頑張っても魔法を使える人には勝てないのだと思った。
あきらめて、意識を手放そうとしたとき
「ずいぶん腑抜けた戦いをしてんなぁ」
聞き覚えのある声が飛んできた。