1.魔女の噂
最近、ラインハルト王国周辺にある村が襲われる事件が発生している。今のところ死人は出ていないものの重軽傷合わせて怪我人がかなり出ている。
それと同時に一つの噂も出回っている。それは魔女が村を襲いまわっていると。
「んで、この噂の心当たりはあるか?魔女さん」
「逆に聞くけどあると思う?」
「いや、ないな」
お互い苦笑を浮かべながら、クオリアは紅茶をマコトはコーヒーを一口飲む。
「お前をよく知る者なら今回の事件がお前じゃないってことはすぐにわかる。だけど、大部分の奴は魔女とくればお前を連想するだろうな」
噂の原因は村を襲われた一人の男が証言だった。
曰く「黒いローブを羽織った女が村を燃やした」と。
その村を燃やした女はフードを被っていて顔が見えなかったそうだが、魔法を使っていてその際に呪文を唱えた声が女だったと証言している。
もちろん、その男は魔女だなんて一言も言ってない。
だが、噂とは尾ひれがつくもの。村を襲った火の魔法師がどういった曲解を経たのかは分からないが紅蓮の炎を操る魔女が村を襲いまわっているとなった。
「火なんて操れないわよ‼」
「いや、お前さん、俺と最初に出会ったときに黒い炎を出してたよな?」
「あれは地獄に存在する炎を一時顕現させているだけ。放つ方向を定めることは出来ても操るなんてことは出来ないわ」
「普通の人が見たらそれは十分操る域だよ」
残念なことにクオリアは火属性持ちではないが火は出せる上に村を燃やすとなるとそれなりに魔力が必要になる。そして、魔女の話が出たせいで噂に踊らされている貴族連中が苦言を申し、現在屋敷には監視の目が存在する。
「ただ、監視があるせいでお姉さまに手紙の返事をしたいのだけど届けることが出来ないわ」
「国内でなんで文通なんてしてんだよ、というかお前の持っているペンは何だ?魔道具?」
「あぁ、これはね"魔法の羽ペン"といってマジカルゴで買ったの。ペン自体に溜まっている魔力で文字を書くことが出来るの。面白そうだから書いた文字が浮くように魔法をかけてみるつもり」
クオリアはペンをくるくる回しながら説明する。
お土産の中にそんなものがあったとは。それを使えば魔力のない人でも術式魔法ぐらいなら使えるそうだ。
「そもそもお嬢様が本気で魔法を使えば村が燃えるどころか滅びますし、怪我人どころか生き残れる人など存在しないでしょうに」
「そこらへんには脳みそが腐っている貴族では頭が回らないってことで諦めなよ。魔女の血縁者ってだけで姫さんも大変だね」
エリカはため息をコルナは肩をすくめつつ文句を言う。
この噂がクオリアたちの耳に届き、ほどなくして監視が付いた。そしてその時から屋敷にいるクオリア達は余計な動きをしないでおこうと考えた。
事件を起こしている奴はかなりのペースで村を燃やしまわっている。その時にクオリアが屋敷から出ていなければ犯人ではないという証明になる。
マジカルゴで起きた誘拐事件よりも証明が楽で助かる。
「あの~今まで疑問だったんですけど、王女様は魔女の血縁者のなのにどうして王女様のお姉さん方やお母さんは魔女の血縁者って言われないんですか?」
ティナはお菓子をつまみつつ首傾げている。
「あぁ~、知らない人からしてみれば当然の疑問だよね」
「詳しく説明しても理解できる人が少ないですからね」
「えっとね、魔女の血縁者ってのは実際に魔女と血がつながっているわけじゃないのよ。魔女が死ぬ際に一つの魔法を発動したの。それは魔女が生み出した転生魔法。けど理論上は完璧だったけどその魔法は不完全だった。だって魔女本人ですら初めてやったのだから当然と言えば当然なんだけどね。本来、これから生まれてくる子供に自らの人格や魔力を引き継いで新たに生まれ変わる魔法だったのだけど不完全に発動した魔法は膨大な魔力と魔女の赤い瞳だけを残した。そして、その魔法は一度だけなく何年、もしくは何十年かに一度発動して私みたいなのが生まれてくるの」
理解できたとクオリアは聞き返したがティナは頭から煙を上げて今にもパンクしそうだった。
「要するに魔女が死んでから今に至るまでランダムに魔女の呪いを受けた子供が生まれて、そいつ等が一様に魔女の血縁者って呼ばれてんだ」
「なるほど、そういうことですか」
マコトの簡略化した説明に理解ができたティナ。
「生まれてすぐにはわからないけど少なくとも十歳になるころには膨大な魔力が発現して、瞳が赤くなるの」
「だから、魔女の血縁者が発覚したって言い方だったんですね」
マコトも今までティナと同じようにその言い方が気になっていたが先天的に発現したのではなく、生まれて時間が経ってから発現、つまり後天的に備わったというならその言い方も納得だ。
実際にクオリアの瞳は青かったが、膨大な魔力が発現したとともに赤くなっていた。
「なら、なおのこと理不尽じゃないですか。偶々王女様に選ばれただけなのに」
「それが人ってもんだよ、ティナ。自分よりもすごい力を持っている人がいたら尊敬するか嫉妬するか、恐怖するかのどれかさ」
「魔女の力は一度世界を滅ぼしかけているからね。その力を持った人が出てきたら、それは怖いもの。もし、私に魔女の力がなくて別の人が持っていた場合、私も怖がっていたかもしれないし」
「もしの話をしても意味ないだろ。力を持ったのはお前、理不尽だと嘆くのは諦めた人の言葉。お前はまだ前を向いているんだから他の奴の言葉なんて気にすんな」
暗い雰囲気になりつつあったがどうにか持ち直す。
雰囲気が暗くなっても良いことなどないのだから、出来る限り明るくなっていたほうがいい。
「そういえば、姫さん。魔女の血縁者って皆が皆、姫さんみたいに闇属性なの?」
「そんなことはないわ。私の知る限り闇属性の魔法師は今まで数人しか存在しないわよ。膨大な魔力を持ったからって魔法属性まで特殊になるわけじゃないしね、せいぜい複合属性がいいところじゃないかしら?」
「複合属性って何ですか?」
また魔法の新しい言葉が出たためティナが質問する。
クオリアはマコトに視線を向ける。その目には「私よりもマコトの方が説明得意でしょ」と語っている。
仕方ないので説明を始めた。
「基本の魔法属性は火、水、風、土の四種類で大概一人一属性だ。だがたまに複数の魔法属性を操る魔法師が存在する。そして、その中には属性が合わさってさっき言った四つの属性とは別の属性が出てくる。これを複合属性という。参考までにいうと火と水の属性を持つ奴は氷属性を火と風の属性を持つ奴は炎属性を持つ」
他にも複合属性は存在するがそれなりに珍しいので使い手がいるかどうかはわからない。
「はい、ご主人様。氷属性を持つ場合、火と水の属性は使えるのですか?」
「いい質問だ、ティナ。答えはイエス、複合属性のほかに基本属性も使える。というか基本属性を使えるからこそ複合属性が使えるって考え方だな」
頭に?マークが浮かんでいるのでもう少し説明を加える。
「二つの属性を持つ者がそれらを組み合わせることで複合属性は生まれる。つまり二つの属性を同時に使っているようなものだな。二つの属性を持つからって複合属性を使えるとは限らない」
「複合属性にも特性はあるのですか?」
「ない。つうか、基本属性の特性に加えてさらに特性持っていたらヤバすぎる」
なるほどと言って、ティナは拍手する。その横ではコルナやティナも拍手していた。
「さすが先生、教えるのが上手いね」
「私もマコトのような先生を持ちたかったわ」
「教師を名乗るだけのことはありますね」
それぞれ賞賛を口にする。それがどうにもむず痒く感じたマコトは話題を変えることにする。
「今回の犯人は一体何が目的なのかね~」
当たり前と言えば当たり前だが犯人の狙いがわからない。
ただ、村を燃やしまわっても国に与える損害はそこまで大きいものではない。
どこかの貴族の領地と言うならまだやる価値はあるかもしれないが、今のところ関係ないし、これから狙うにしても今回の事件によって騎士団が各地の領に派兵されて警備が強化されているのだ。
「レオンさんは大丈夫でしょうか・・・」
ティナが今この場にいないもう一人を思う浮かべる。
「確か調査隊として事件現場付近に向かっているのよね」
「はい。北方面の村が狙われていたのでそちらに向かっているはずです。構成は五人小隊が二組、内レオン様を含めた六人が新人だそうです」
「新人がそれだけいるならもう少し小隊を増やした方がいい気がするがな」
「各地の警備にも騎士団からもそれなりの人数が動員されているので、これが限界だったのでしょう」
王都を守っても各地の領がやられてしまっては国としての機能は失ってしまう。
かといって新人を全員警備にまわしても使えるかは分からない。だからこそ、新人の半数を調査隊の方に組み込んだのだろう。
対応としては間違ってはいないと思う。
だが、何故だろうか。
「なんか、嫌な予感がするな・・・」




