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異世界だろうが教師の在り方は変わらない  作者: 物語 紡
1時間目 異世界教師
7/160

7.罪人

 マコトの言葉に辺りは騒がしくなった。

「おい、あいつ・・・なんで声なんかかけたんだ?」

「まさか、貴族に歯向かう気なのか?」

「命知らずにもほどがあるだろ・・・」

 そして、言葉をかけられた張本人はあからさまに不機嫌な顔していた。



「なんだ、お前?貴族の俺に声をかけるとはいい度胸してんじゃねぇか」

「話しかけるのに度胸なんていらんだろ。それよりもその汚れた服貸してくれよ」

「はぁ?なんで俺がお前に服を貸さなきゃならないんだよ」

「いいからいいから」

 そういって無理やり服を脱がせる。

 抵抗するかと思ったが思ったよりも簡単に脱がせられた。おそらく、脱がせられると思ってなくて油断していたんだろ。



「おい、食器用洗剤とタオルを二つ持ってきてくれ。片方のタオルは濡らしてな」

 近くにいた店員に頼むといぶかしげな顔をしながらも持ってきてくれた。

 マコトはもらったタオルの一つをテーブルに広げそこに服を置いた。もう一つの濡れたタオルを汚れた部分に軽くたたき始める。

 後ろでは貴族が何か言っているようだがどうせくだらないことなので無視する。

 ある程度汚れが落ちたところで洗剤を汚れの周りに円を描くように垂らす。そして、また汚れた部分をたたき、やがて汚れが落ち元の状態に戻った。

「はい、これで汚れは落ちたぞ。もうその店員を家に連れ込む必要はなくなっただろうから返してもらうぜ」



 そういって借りた服を返し店員を男の手から引っぺがした。

 そして、俺は元の場所に戻り食事を再開した。いや、再開しようとした。

「おい、待て。何普通に食事を再開しようとしてやがる。まだ何も解決してねぇんだよ!」

 男は机をたたき、唾を飛ばしながら文句を言ってくる。マコトも当然このまま終わるとは思ってもいなかったので一つため息をつき、その男に顔を向ける。

「いや、解決したろ?服の汚れはきれいさっぱりと落ちたし、店員はちゃんと謝罪した。問題ないだろ」

「問題大有りだ!俺は貴族だぞ!こんなことされて許すわけないだろ!」

「器の小さい男だなぁ、汚れはもう落ちてんだから許してやれよ」

 男はまた文句を言おうとしたがそれよりも早くマコトが口を開いた。

「大体、お前。その肩の汚れ自分でつけたんだろ?」

「っ‼」



 男は顔をこわばらせてた。反論をしようとしているのだろうが図星を突かれたせいか口を動かしているだけで声が出てない。

「ここは酒場だぞ?肩だけ汚れるなんておかしいだろ。しかも、汚れはほとんど目立ってなくてよく見たらわかる程度なんて酒場でそんなことになるわけないだろ」

 男は反論できずに下唇をかんでいた。



「もとから、難癖付けて店員を屋敷に連れ込む魂胆だったんだろ?じゃなきゃわざわざ貴族が酒場なんて来るわけねぇし」

「貴様・・・!黙っていれば好きかって言いやがって!俺に歯向かってどうなっても知らないぞ‼親父に言いつければお前の首なんてすぐにとぶんだからな」

「黙っていたのは事実だから反論できなかっただけだろ。それに、親父に言いつけるってお前歳いくつだよ?いつまでも親の威光に頼ってんじゃねぇよ」

「いわせておけば・・・‼」



 男は腰に下げていた剣を引き抜いて襲い掛かってきた。

 奴が剣を真上から振り抜くよりも早く俺は懐に潜り込み拳をみぞおちに入れた。殴られたことにより男は膝から崩れ落ち顔を突っ伏していた。

 若い頃、喧嘩に明け暮れていたマコトにとって剣をただ振り回す男なんてナイフを持って襲い掛かってくる不良と大して変わらないのだ。

「俺はお前みたいな自分じゃあ何もできないくせに偉そうにしている奴が大っ嫌いなんだよ!」

 そういって、飯の代金を置いて酒場を出た。



 次の日、マコトは午前にレオンの修行に付き合い、午後からは街を歩いていた。

 ここに来てから一週間弱、そろそろ仕事を探したほうがいいと考えていた。金はまだ心配する必要はないのだが、いかんせん何もせずに過ごすのは性に合ってなかった。

(いや、まぁ、何もしてなかったわけではないんだけどね?レオンの修行や街の探索とかしていたし)



「そこの君、止まりたまえ」

 ただ、自分の金でもないのに好き勝手使ってるのはどうにもいたたまれない。ヒモという言葉が頭に浮かび慌てて頭を振る。

「聞こえてないのか?そこの黒い変な服を着た黒髪の男、止まりたまえ」

(しかし、こんなところに教職はあるのか?いまだに学校だの塾だのを見たことはないんだが・・・というか、身元を表すものを持ってない俺を雇ってくれるところなんてあるのだろうか?)

「止まれって言ってるのが分からんのか!」

「うおっ!?」



 考え事をしているといきなり後ろから肩をつかまれた。どうやらずっと声を掛けられていたのに無視してしまったようだ。

 振り返るとそこには騎士が一人と兵士が十人ほどいた。先頭の騎士は三十代半ばぐらいでがっちりした肉体をしており着ている鎧もかなり質がいいみたいだ。

 『識別』で見てみるとレオンの数倍は強いことがわかる。

(なるほど、これは確かに簡単になれるものじゃねぇなぁ)



 レオンがどういう存在になろうとしているのかが知れただけでも今日は意味がある日だと思えた。

「いやぁ~悪い悪い、ちぃーとばかし考えことしてて気づかなかったわ。それで騎士さんが俺に何の御用で?あいにくと話しかけられる覚えがないんだが」

「昨日、カリオス家のご子息に暴行を働いたな?」

「カリオス?誰だ、そいつは?」

「この国の貴族の中でも爵位が高い一家だ。決してそいつ呼ばわりしてはいけない方々だ」

(かなり偉いやつってことはわかったがなんでそんなのに俺が暴力したことになってんだ?まず、会うことさえできないと思うんだが・・・)

 俺の疑問が伝わったのか目の前の騎士は説明は補足する。



「昨日、カリオス家のご子息であるラルク卿が酒場にいらっしゃったそうだがその際、見慣れない黒い服を着た男に殴られたのだ」

(もしかして、昨日、不貞を働こうとした貴族様のことか?あいつ、かなりいいところの人間だったんだな)

「その表情から察するに思い出したようだな。わかっていると思うがこの国では貴族を傷つけたら罪に問われる。無駄な抵抗せず我々についてきてくれるかな?」

「いやだって言ったら?」



 騎士が片手をあげると後ろにいた兵士が俺の周りを取り囲んだ。

 なかなか統率が取れてて、マコトのスキルが戦闘系でも簡単に逃げられないのではないかと思う。

 両手を上げて降参の意を示す。

「ハイハイ、わかりましたよ。抵抗せずあんたらについていきます」

「賢明な判断だ」

 騎士は少しだけ笑ってそうつぶやいた。

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