8.社交界デビュー2
今日は王家主催の夜会。
王城のホールで行っており、そこに続々と人が入ってくる。
今回の集まりは王家主催のために国の貴族たちが集まっており、皆一様に着飾っている。
ある程度つながりのある者同士で談笑している者もいればコウモリのごとくいたるところのグループに入り込み情報を収集する者、はたまた後ろ盾やつながりが少ない者は積極的に自身を売り込みにいっている。
この夜会でこれからの自身の立ち位置が決まることもありえるため、個人差はあれど皆一様に緊張感をにじませている。
「あの噂は本当だろうか?」
「大貴族様から回ってきた情報だ。まず、間違いないだろう」
今、貴族たちの間で話題となっている話は王選に魔女の血縁者に当たる王女、クオリア・ラインハルトが出てくる、そして今回の夜会にその王女が参加しているということだ。
クオリア・ラインハルトは今まで夜会や貴族たちが開くパーティーなどに一切出席しておらず、大貴族と爵位が高い貴族の一部しか顔を知らないのだ。
外交や政治にも関わっておらず、王家でありながら情報が全くないのだ。
本来こんな噂を聞いても一笑しているだろう。
だが、この間の魔法大国マジカルゴの外交の際、王太子が誘拐されるという事件が発生。
それをクオリアが先頭に立ち、王太子を救出し、犯人を捕らえ、見事に事件を解決したとの情報が入ってきている。
外交に参加していたことも驚きだが、他国の事件を解決するという実績を生んだのだ。
他国に貸しを作るということは外交上ではとても有利に働くものだ。そのため、今回の噂が根の葉もない噂だと断じることできなく真実味を帯びているのだ。
集まっている者たちはクオリアがどの程度の人物が計れていない。
現在支持率トップのミランダを上回る傑物なのか、それとも一部でささやかれている家臣におんぶにだっこの無能なのか。
そのことを考えているのはここに集まっている半数、爵位の高い者たちだ。
では、もう半数、つまり爵位の高くない下級貴族たちは何を考えているのか。
それはいかにつながりを持てるかどうか。
王家の者とのつながりを持てるだけでも今後の立場が変わってくることもある。さらに言うと陣営に加わることが出来れば今後の勢力圏でも多少の幅を利かせることが出来る。
そして、一部の者たち、中立派の貴族はクオリアが参戦することでの派閥争いの激化を憂いており、どの様にバランスをとるかと考える。
各々が思惑が持ち、思考を巡らせている中、扉が開かれる。
王家の登場だ。
最初に登場するのは現女王陛下であるシャーロット・ラインハルト。漆黒のドレスに身を包み、頭にはいつもつけている王の証たる金のティアラではなく小ぶりな銀色の小さなティアラをつけている。
周りは色とりどりのドレスが多いため漆黒のドレスは存在感があった。
その後に続くのはミランダ・ラインハルト。薄紫を基調としたゆったりとしたドレスに着ており、胸元や背中は大胆に切り開かれていて妖艶さを醸し出している。
クレハ・ラインハルトはミランダとは対照的に肌に張り付くような真紅のドレスで耳や首にも同じように赤いを基調としたアクセサリーが付けられている。
シェリー・ラインハルトは全体的に深めの緑を構成されたドレスを身にまとっている。首元にはネックレスをつけているがその他の装飾類は一切つけておらず、キリっとした表情で歩みを進める。
最後に登場したのが噂の人物であるクオリア・ラインハルト。女王陛下とは対照的な全体的に白が基調で所々水色のラインが入っている。シェリーと同じく装飾類はほとんど身に付けておらず、初めて夜会なのに緊張した様子もなく堂々と歩いている。
周りの人たちは歩みを止めないように道を譲り始める。
壇上に登りここにいる人の視線が集まる。
「皆さん、遠路はるばるありがとうございます。食事やお酒は王家の者が用意した選りすぐりのものですので是非とも楽しんでいってください」
シャーロットは簡単に挨拶を述べて壇上から降りる。
王女たちも壇上から下り思い思いに散らばる。
そして、すぐに囲まれるミランダたちを見ながらクオリアは思案する。
(お姉さま方と違って私につながりはないし、ここは爵位の高い者から挨拶しに行く感じがいいのかしら・・・)
しかし、シェリーには事前に決して下手に出るなと言われている。自分から挨拶しに行くことは下手に出ることになるのだろうか。
ワインを片手に持ちつつ周りを見渡す。
こちらに視線を向けつつもこちらに話しかけてくる人はいない。やはり、魔女の血縁者というレッテルが邪魔しているのだろう。
このままだと来た意味がなくなるので自分から話しかけに行こうかと考えていると一部からどよめきが聞こえる。
何事かと視線をそちらに向けてみるとこちらに歩み寄ってくる人物がいる。
「お初にお目にかかります、クオリア様。私はガングス・レイブンと申します。以後お見知りおきを」
「クオリア・ラインハルトです。よろしくお願いします」
初老の男性がお辞儀してきたので、こちらもスカートをつまみお辞儀を行う。
(ガングス・レイブンと言えば中立派貴族で最も爵位が高くて、普段はレイブン領内で実務を行っているとか。どこかの陣営に入った場合、その陣営が圧倒的に有利になるってお姉さまが言ってた)
事前準備の際に言っていたことを思い出しつつ相手を見る。
スラリとした体型で髪を上げている。眼光は鋭いが威圧的ではなくどことなく優しめな感じがする。
「お噂はお聞きしています。なんでも盗賊団捕縛やマジカルゴの王太子誘拐の際に御自ら解決へと導いたとか」
「いえいえ、あれは私だけの力でなく他の者たちが力を貸してくれたからこそ結果ですよ」
「他の者というとあなたの仕えている家臣でしょうか。そちらの話も聞き及んでいますよ。一騎当千級の剣士に軍師も顔負けの知恵者がいるようですね」
「あらあら、レイブン殿はずいぶん大きいお耳をお持ちの様ですね、ふふふ」
内心では「なんでそんなことまで知っているの!?」と思うが顔には出さないように精一杯努める。
あと、マコトが聞いたら否定するだろうなとも考える。
レイブンは薄く微笑みながらこちらから視線を外さない。
「レイブン殿のお話はお姉様方お聞きしております。他の領主よりも優れた統治を行い、どの領内よりも繁栄されているそうですね」
「なに、立地と運が良かっただけですよ。領民たちも私の願いを聞いて頑張ってくれましたからね」
「いえいえ、ご謙遜を。他国との貿易にも力を入れていて珍しい物がたくさんに入っていると聞きました」
東にある国とは今まで交易がほとんどなかったがそれを東に位置するレイブン領の現領主であるガングス・レイブンが自ら現地に赴き交渉をして貿易を成功したそうだ。
そのため他の領主よりも発言力が高い。
「よろしければ今度、我がレイブン領に来てください。領を上げて歓迎いたします」
「機会があれば是非」
お互い当たり障りのないやり取りをしながら、その後も少し会話してレイブンは去っていく。
社交界初なのでこれでいいのか不安になってくるがとりあえずやれるだけのことはやろうと意気込み別の人へと話しかけていく。




