9.格の違い
クオリアたちと別れたエリカとホーフリームは目的の場所である王太子の監禁場所と推測される研究施設に向かっていた。
「よかったのですか、王女様を置いていって」
ホーフリームはエリカの背に声をかけてくる。
マコトに話すときのような乱雑な口調ではないのはエリカの立ち位置によるものか。
立ち位置的にはエリカとマコトに差などない。あるとすれば仕えてきた時間と彼が従者に対してこっちは護衛も兼任していることだけだ。
「問題ありません。そのことを気にするならば一刻も早く我々のやるべきことをやるのが先決かと」
その言葉に彼は口を閉ざす。
正論だと思ったのかそれとも言葉を返すのが面倒と思ったのかは定かではない。
そうこうするうちに目的の場所に着いた。
目の前に古びた屋敷があった。清潔さのかけらもなくマコトがいれば「汚っ!」とはっきりと口にしているだろう。それほどまでに汚かった。
元々は白かったと思われる壁は黒く汚れていて、所々にカビが生えている。屋根は腐食しているのか崩れかけていた。窓も割れていて見るからに廃墟という有様だ。
こんなところに監禁されているかと思うと王太子には同情の気持ちがわいた。はたして王太子は正気でいるのかが心配になってくる。
「王太子に安否が心配です。早速、中に入りましょう」
「こんな汚ない屋敷に入るですか!?」
ホーフリームは何やら文句を言っているようだが、それらを無視して警戒しつつ屋敷の中に入る。
(魔力感知では特に異常なし。人の気配も特に感じられない。・・・伏兵や罠はないか)
それでもエリカは警戒を解かなかった。
自分の魔力感知では感知できないもの、例えば魔法なしでの罠や感知できないように隠蔽させた可能性もある。先ほど森で襲われた時、全く気配も魔力も気づかなかったことから敵に同じようなことが出来る人物が複数いる可能性もある。
慎重に辺りを探りつつ、奥へと足を運んでいく。
どれだけ進んだのかは定かではないが奥へと進んでいると部屋にたどり着く。
いつ襲い掛かられてもいいように腰の刀に手をかけつつドアを開く。
ドアを開けると大きな部屋に出た。そして、部屋の中央に人影が見える。目を凝らしてみると縄でぐるぐる巻きにされて倒れている人がいた。
近づいて見てみるとその人影は王太子殿下だった。
(・・・息はしている)
エリカは王太子殿下の傍に近づき口元に手を当てて、呼吸をしていることを確認した。だが、以前お会いした時よりも肌の色が白い。ストレスによるものか犯人に何かされたのかまではわからないが急いで医者なり回復魔法師にでも見せるべきだろう。
そう判断を下すと一度立ち上がり、刀を後方に振り抜いた。
ガキンッ‼
刀を振ったところに火花が散る。
「なっ!?」
剣で攻撃してきた人物・・・ホーフリームは私が防いだことに驚いた顔をしている。
「王太子殿下を見つけたことで私が油断すると思っていたのですか?そうであるならば甚だ不本意としか申し上げられません」
私はため息をつきつつ、敵であるホーフリームを見る。
ホーフリームはいまだに信じられないといった様子でこちらを見てくる。
「なんで、攻撃を防げた・・・」
「あなたごときの剣を止められないようならば私はお嬢様の護衛として失格です。それとも攻撃を止めたこと自体ではなく攻撃すること分かったことに対する質問ですか?それならば、あなたが敵であることがわかっていたからです」
「なっ!?」
「すでにあなたのお仲間であるメイド長もシェリー様とマリネット様によって捕縛されているでしょう。森で襲ってきたシュバルツという教員も今頃は返り討ちにあって倒れていると思います。おとなしく捕まるというならば無駄に痛い思いすることはありません」
「!?」
淡々と説明する言葉にホーフリームはどんどん顔を引きつらせていく。
顔を見ただけで何を考えているか手に取るようにわかる。
だが、ホーフリームの気持ちも分からなくはない。エリカが同じ立場ならば顔には出さないものの心中は同じ気持ちだっただろう。
「・・・なぜ、わかった?」
ようやく気持ちを立て直したホーフリームは私に聞いてくる。
「なぜ、私やアリッサが事件の犯人だとわかった?なぜ、王太子がここにいるとわかった?なぜだ?なぜだ!?」
「大きいな声を出さないでください、耳障りです。そもそも私があなたの質問に答える義務はないですし、必要性も感じられません」
エリカはいつもの無表情で彼の質問をバッサリと切り捨てる。
彼は悔しそうに顔をゆがめている。かと思うとこの上なく不気味な顔で笑い始めた。
「くっくっくっく、お前らが俺たちを犯人と見破ったことは称賛に値するよ。だがな、あまりシュバルツのことを舐めないほうがいい。魔女の血縁者だか何だか知らねぇがあの女があいつに勝てるとは思えねぇな。それにあんたもだ。一度俺の剣を防いだだけでいい気になんなよ?あんたが俺に勝てる保証なんてねぇんだよ‼」
エリカは呆れ果てて大きなため息をつく。
「いくつか訂正しときましょう。まず、一つ目にお嬢様が負けることはありません。シュバルツという方がどの程度の実力者かは存じ上げませんが勝てる見込みがないのにあの場に残るような作戦をマコト様は立てません」
「作戦?」
「えぇ、お嬢様があの場に残ったこともお嬢様をおいて私がこの場にいるのも全て作戦のうちです。残念ながら奇襲によるマコト様の怪我は作戦ではありませんが・・・」
そう言いつつ刀を構える。
「二つ目はあなたの思い違いです。あなた程度の実力では百人束になっても私に切り傷一つつけることは叶いません。なにせあなたと私とでは剣の使い手としての格が違うのですから」
「舐めるなぁ~‼」
その言葉に怒ったホーフリームはエリカに剣を向け突っ込んでくる。
「"絶刀【炎撃】"」
刀に火を纏わせ、横に一閃する。
「だから言いました。おとなしく捕まれば痛い思いはしないと」
刀に鞘に収めつつ、王太子殿下の方を向かう。




