6.魔女の遺産
【魔女の遺産】、これまた聞いたことがないもんが出てきた。
「【魔女の遺産】ですと!?」
マコトが疑問を浮かべているとシェリーは驚いたように声を上げた。
見れば他の連中(ティナはわかっていないようで首をかしげている)も概ね同じような反応をしている。それほどすごいものなのだろうか?
(【魔女の遺産】・・・、ダメだ、『全知』では出てこねぇ)
『全知』で知れる事柄は一般的なこと。つまり、【魔女の遺産】とは普通の人は知らない機密事項ってことになる。
「なぁ、【魔女の遺産】ってなんだ?」
マコトは後ろにいるクオリアに聞いた。
「【魔女の遺産】とは、災厄の魔女が使っていたとされる道具のこと。全てを見通す水晶玉、古代の魔法が記されている魔導書、災いから身を守る首飾り、真実を見抜く王冠、運命を司る指輪、絶対服従を誓わせる鎖、魔界の門を開く鍵、斬った者を殺す呪いの剣、この八つの道具を【魔女の遺産】と呼ぶの」
「あまりに強力な物だったためにその存在を知っているのはごく一部の人間だけだ」
聞いた限り、かなりやばい代物だ。特に魔界の門を開ける鍵が。
「魔女が滅んだ際にそれらはこの世界のどこかに散らばった。そのうちの一つ、古代魔法を記す魔導書『混沌の魔導書』を我が国では保管している」
「なぜ、その様な物がこの国にあるのでしょうか」
「知らぬ。この国の昔の国王がそれを発見し、代々受け継がれているのだ」
「なんでそんなもんが王太子の私室にあるんだよ」
「マコト!?言葉遣い!」
驚きと疑問が同時に出て、素の喋り方が出てしまった。
「よい、疑問に思うのは至極当然のこと。それに此度のことを見抜いた慧眼を称賛して今の無礼は見逃そう」
プロデス陛下が寛大な心の持ち主で命拾いしたようだ。
「我が国では古代魔法の研究もしている。そして、イリウスは王太子であると同時に魔法研究者でもある。古代魔法が記されている魔導書と聞いて、すぐに読み始めた。だが、なにぶん魔導書に書かれている文字も古い文献でしか使われていない文字でな。私室で辞書を引いて解読しようとしてたのだ」
(いや、不用心すぎるだろ‼)
そんな危険で重要なものを私室での解読を許可することが間違っている。
クオリアたちも唖然としている。当然だ。
「お主が言っていた金庫型の魔道具には受け継がれるときから魔導書が入ってたものでな。イリウスが中身を伝えずに騎士団の者に運ばせておった」
「あの金庫を開ける方法は何ですか?」
「金庫を開けるには呪文を唱える必要があるがそれを知っているのは我とイリウスの二人だけだ」
「なるほど、それで陛下よりも連れ去りやすいイリウス殿下を狙ったのか」
シェリーは納得したように頷いている。
「魔導書のことを知っているのはごくわずかでな。故に魔導書のことを知らぬ騎士団の奴らはお主たちを怪しんでつけていたのだ」
騎士に退室を命じたのは魔導書のことを知られるわけにはいかないから。
それに魔導書を私室で解読しようとしていたのは他の者に知られるわけにいかず、調べるための部屋を用意したりできなかったからか。
「陛下、その魔導書のことを知っている人物は陛下と殿下以外に誰がいますか?」
「騎士団長のキルシュのみだ。他の者は教えてはいない」
「わかりました。ありがとうございます」
これで聞くべきことは聞き終わった。マコトはお辞儀して陛下の前から離れようとする。
「マコトと言ったな。イリウスを助け出し、攫った犯人を捕まえることは出来るか」
質問しているが語気の強さから捕まえろと言われている気がする。
だから不敵に笑って答えた。
「えぇ、明日にはイリウス殿下を救出し、犯人を騎士団に受け渡しが可能です」
「ほぅ、その言葉、忘れるなよ」
「はい。ただ、そのためには騎士団の協力が必要です」
「ならば騎士団には我自ら協力するように伝えておこう」
「ありがとうございます」
そして、俺たちは玉座の間から出た。
「マコト、あんなこと言って大丈夫なの?」
クオリアは心配そうに声をかけてくる。
「あぁ、問題ない。俺は出来ないことは言わない主義だし、言ったからには必ずやる。そのためにはシェリー王女、あんたの協力が必要だ」
シェリーの方に向き直る。
「あんたが俺のことを信用してないのはわかっている。だが、イリウス殿下を救出するためだ。今だけは俺の信用しろ」
シェリーはマコトの目をじっと見てくる。聞くかどうか考えているのだろう。
「お姉さま」
そんなシェリーにクオリアが声をかける。
「マコトは信用できる人物です。彼の言葉を聞いてあげてください」
クオリアの言葉を聞き、一つため息をついた。
「・・・何をすればいい」
「お姉さま‼」
クオリアはパァっと顔が明るくなる。
「クオリア、君の頼みだから聞いてやるんだ。彼のことを信用するわけじゃない」
「えぇ、えぇ、わかってるわ‼」
満面の笑みを浮かべながらシェリーに抱き着くクオリアとそれをなんとも言えない表情で受け入れているシェリー王女。
見ていて微笑ましい絵面だ。
「協力することは構いませんが、作戦はあるのですか?」
「あぁ、問題ねぇ。最悪の場合、相手は逃げると思うからその時はあんたの弓の腕を存分に振るってくれ」
明日の作戦の準備をするためにマコトたちは一度、屋敷へと戻った。




