3.人助け
「随分と傷ついてましたけど何があったんですか?」
倒れた少女を『ウサギ亭』に連れてきてマコトの部屋のベッドに寝かせた後、それを手伝ってくれたレオンが問うてきた。
「わからん。俺と出会ったときにはもうあんな感じだったぞ」
「この街の人ではないんですかね?」
「いや、この街の住んでることは確実だ。ご主人様がどうとか言ってたし、俺と別れるときに街の中心部向かってたしな」
ちなみに少女の服もかなりボロボロだったので今はレオンの服を着せている。多少大きくてぶかぶかだがそこには目をつぶる。
着替えさせたのは俺ではなくこの宿の主人にやってもらった。女子の着替えを行うとか教師以前に人として問題だからな。
着替えのついでに軽く治療などもしてもらった。残念ながら回復魔法を使える奴がいないので消毒や包帯を巻いただけなのだが。
「主人がいるってことはほぼ間違いなく貴族の召使いだろうな」
「そうですね。平民で召使いがいるとしたらこの国だとヴァイオス団長しかいませんし」
しかし、貴族の召使いなのに身なりがボロボロで傷ついているのはおかしすぎる。
俺は少女に近づき、少女の服に手をかける。
「な、何やってんですか!先生!」
「騒ぐな。こいつが起きたらどうするんだ。変な誤解を受けちまうだろうが」
「どっからどう見ても変態ですよ!寝ている女の子に手を出すとかダメですから!」
「出さねぇから、少し静かにしてろ」
そう言うとマコトは服に半分くらいまで上げて少女のお腹を見る。
(牢屋の中で見たのとはまた別の魔法陣が描かれてるな)
魔法陣の能力を確認して服を元に戻した。
「女の子のお腹を凝視して何してたんですか?場合によっては先生でも許しませんよ」
レオンは軽蔑した目でマコトのことを見る。
「安心しろ。お前が想像してるようなやましいことなんてしてないから。ただ、確認してただけだ」
「確認って・・・なんのですか?」
「あぁ、多分この子は・・・」
「・・・ここは?」
確認して分かったことをレオンに喋ろうとしたタイミングで少女は目覚めた。
「おぉ、目覚めたか」
「気分は大丈夫ですか?」
少女はきょろきょろ周りを見ている。
と思ったら突然ベッドから起き上がりだした。
「早く帰らないとご主人様に怒られる!」
少女はすぐにベッドから降りて部屋を出ようとしたので慌てて止めた。
「待て待て!そんな状態で出てもまた倒れるのがオチだ。もう少し休んでけ」
「で、でも・・・」
「今更急いでも遅刻は確定なんだしここからさらに遅れても変わらんて」
なおも少女は食い下がったが俺とて引き下がりはせず、最終的に少女が折れた。
「私の名前はティナです。助けていただきありがとうございました」
「僕はレオンです」
「俺はマコトだ。よろしくな」
「あの、ティナさんはなんでこんなにボロボロだったんですか?」
レオンの質問に対してティナはうつむいて答えはしなかった。
暗い表情見せ始めたので、レオンは慌てて言葉を付け足す。
「えぇっと、ごめんなさい。いやなら答えなくていいだけど、見習いとはいえ僕は騎士の端くれですから困ってるなら力になりたいんだ」
「あの・・・その、ごめんなさい」
「いや、大丈夫だよ。無理して答えを聞こうしてるわけじゃないから」
少女は申し訳なさそうにしたのでレオンは質問を諦めた。
微妙に気まずい空気が流れている。
「お前の主人のもとにはお前と似たようなのが何人いる?」
すると、マコトが突然質問した。
「えぇと、百人ぐらいはいたと思います」
ティナは戸惑いつつもきちんと答えた。
「主人の家はどこら辺にある?」
「中央広場から西に歩いて十分ぐらいですけど、どうしてそんなこと聞くんですか?」
「いや、ここから遠いなら送ったほうがいいかなっと思ってな」
マコトはそう答えると何やら考え始めた。
再び気まずい空気が流れ始める。
(ど、どうすればいい!)
レオンは困っていた。
あまり異性と話す機会がなく、あってもここの主人であるおばさんとお店のおばちゃんだけで同年代の子と話すのはいつぶりだったかすらわからない。
どうしたものかと、考えているとティナの手がかすかにふるえているのをレオンは見る。
「ティナさん、震えているけど大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です!あまり男の人と話す機会がないので、少し緊張してしまって!」
手を押さえながらそう答える。
(目は泳いでいるしどこかよそよそしい。緊張している言われればそう見えなくもないけど・・・どこか違う気がする)
明らかに怯えていることはレオンにもわかった。だが、それが何に対してなのかが分からずどうしたものかと頭を悩ませる。
「ご飯が出来たよ!下りておいで!」
もう一度質問しようかと思っているところに声がかかった。
テーブルの上には色々と食べ物が置かれている。
「あ、あの!ごはん出されても私、払うお金がありません!」
「大丈夫だよ、お金ならマコトさんが払ってくれてるから」
おばさんは朗らかに笑って厨房に戻っていった。
ティナは困っている様子だったが
「腹減ってるだろ。ガキが遠慮なんかすんな」
マコトがそう言ったので、恐る恐ると言った感じでティナはパンを一つ手に取ると口に入れた。
その瞬間、目を見開いて固まった。
「ティナさん?だいじょうぶ?」
心配になって声をかけると再び動き出して次々と食べ物をお腹の中に収めていった。
一通り、食べ終わるティナは下を向き震え始めた。
「・・・お、おいしいです!すごく、おいしいです!こんなに・・・お腹いっぱいおいしいものを、食べたのは久しぶりです‼」
泣いていたのだ。
泣きながらもご飯の感想を口にしていた。
「そうか。良かったな」
マコトはティナを見ながら優しく笑っていた。




