金と黒
僕は従兄を慰めるべきだとは思っていたが、馬鹿野郎と背中を蹴って放置してやりたい気持ちの方が強かった。
白波の次期当主、白波久美は、花束と指輪を携えて金虫梨々子の元に向かい、金虫梨々子に「勘違い」と追い払われたのである。
僕はぼんやりと松野家を眺めながら、久美は自分のろくでもない行動の結果の萎れた花束を眺めながら、松野家の斜め向かいにある相模原東署のエントランスの階段に二人仲良く座っていた。
「そっかぁ、梨々子はクミちゃんをユキちゃんだと思い込んでいたのか。それで親友の婚約者とそんなことになったって、逃げて帰って来たんだねぇ。」
久美にとっては双子の弟となる由貴は、当り前だが久美のクローンそのものの姿であり、いや、久美が由貴のクローンさながらなのであろうか、とにかく二人を外見で見分けるには頭髪の色が白いか黒いかだけである。
ここで問題なのが、由貴の白に近い金髪頭は地毛であり、久美はカツラを被っているだけで、彼の頭髪も本当は白いのだという点だ。
「がっかりられ。ユキが現れれば海里はユキべったりになるだろ、らっけに梨々子が寂しくねぇように、俺があれやこれやしてやって、これられ。あたしはユキちゃんを好きになっちゃったのって。」
「……あのさぁ、梨々子抱いた時はカツラも脱いでた?」
久美は僕の顔を珍しく無表情でじろじろと眺め、しばらく後、「あ。」と叫んだ。
「泣いている梨々子を慰めた時、俺は風呂上がりだった。」
僕は泣いている少女に手を出した男の倫理観を叱りつける事は一先ずおいておいて、梨々子が泣いていた理由を確かめるべくと尋ね返していた。
「どうして梨々子が泣いていたの。」
「え、いや、あの。わかんないよ、ってか、そっかぁ。あぁ、全部俺が悪いんだ。梨々子は裏切り者になってしまったって、泣いていたもんなぁ。俺はそんな梨々子に、お前の幸せだけ考えろって、口づけて、ああ。」
「で、慰めた時もその口調だったんだ?」
「え、何を急にオコジョは、って、あああああああ。」
「バカ。なんちゃって新潟弁遊びをして周りをからかっていた罰だね。」
由貴は標準語で久美は新潟弁という振る舞いは、時々役を交代しあって周囲をからかうための彼らの遊びでもあるのだ。
どうやら梨々子が久美を一切受け入れないのは、自分を誘惑した男が標準語を喋る白髪頭だったために由貴だったと思い込んでいる上に、久美が自己犠牲でプロポーズしてくれたのだと考えているかららしい。
これらは全て彼らの悪戯が元の因果応報でしかない。
「本気で梨々子が好きなのなら、時間をかけるしかないね。」
「待ってオコジョ!ねぇったら、ねぇ!」
マレーグマの様に頭を抱えてのたうち回る従兄を、僕はきっぱりと見捨てることにした。
本当に白波はろくでもない。
ふきとして生きてきた少女は、祖父の隠し子だった。
設楽季家の秘密を手に入れるべく、ふきの妹の希実香を誘惑したのだろう。
だが、その結果として、設楽季は財産も秘密も白波に渡すものかと、彼女達を閉じ込めたのだ。
閉じ込められた彼女達は歪み、混乱し、殺し合った。
全て、白波の業の結果だ。




