告白
俺を訪ねてきたのは山口でも楊でもなく、居留守を使いたくなる髙ではもちろんなく、俺に惚れていると告白していた水野とその相棒であった。
二人はいつもの元気さもなく萎びており、肩を寄せ合って立っているかのような風情が俺のほとんどない憐憫の情を刺激し、気が付けば彼女達を追い払うどころか居間に招き入れて持て成していた。
「あれ、クロは何をしているの?」
俺の差し出した茶を受け取るや、居間の隅で背中を向けたままの玄人を水野は指さしたのである。
彼女は自分勝手に振舞っているように見えるのだが、実は自分よりも他の人間を優先する事が殆どだ。
人のためにと行動しているようで自分一番の山口と玄人を抱えているからか、そんな水野が俺には最近癒しだと思える様になっている。
「気にするな。下痢気味のモルモットに同調しているだけだから。」
「クロも下痢になったの?大丈夫?」
尋ね返したのは佐藤であり、人の事を考えているようで実は自分一番の彼女を俺は意外と気に入っている。
「下痢なんかしていません!」
朝からモルモットの籠に貼り付いていた馬鹿が、今日初めて俺に振り向いていた。
「こんなに、こんなに、下痢が治らないなんて!それに、今日は赤いウンチをしたのに、病院にも連れて行ってくれないなんて!」
「だからコクシジウムを治す薬を毎日飲ませているだろうが。寄生虫だからしばらくかかるんだよ。そんでな、その赤いうんちは、お前が昨日赤キャベツ食わしたからじゃねぇか。血じゃねぇよ。そいつに初めて赤キャベツ食わした時の事を覚えていないのか。あん時も大騒ぎして病院に行っただろうが。」
玄人はアッと言う顔をした後、すごすごとちゃぶ台に戻ってくると、昼食を抜いてしまっていたことを思い出したか俺にウルウルの瞳で脅すように見つめてきた。
俺は彼に茶菓子の月餅を手渡した。
「飯は夕食まで我慢しろ。」
彼は月餅を持ったまますごすごと再びモルモットの籠に戻り、俺に嫌見たらしく背中を向けた。
「兄さん、子育てって大変なんですね。」
佐藤のしみじみとした声は、まるで俺を労うようであった。
「わかるか。大変なんだよ。楊のようにいいとこどりしたいよね。」
「え、かわさんはいいとこどり、ですか?あたしらから純子を取り上げて、一人で苦労を背負いましたよ。あたしらが信用できないのか、あたしらを捨ててまで。」
「ばか。お前らどっちかが赤ん坊を引き取れば、本気で楊が面倒を見なければ、じゃねぇか。葉子の所なら葉子だけでなくベビーシッターも鈴子もいる。そこで時々父親ぶれば、あそこの女達にちやほやされるじゃねぇか。いいとこどりだろ。」
水野と佐藤は同時に「あ。」と叫び、続いて「またやられた!」とも叫んだ。
「どうした?」
彼女達は高校時代に楊に警察へ勧誘されたのだが、犯罪までもいかない子供達のいざこざを楊が彼女達の耳に吹き込んでくるからとその対処もさせられてきたというのだ。
「うわ、最低な男だな。」
「もう、かわさんたら!」
「あんのラビッツ野郎!」
そうして楊への悪口で二人が盛り上がって元気を取り戻している最中に、俺の息子は俺への仕返しなのか余計なことを呟いたのである。
「かわちゃんはさっちゃんやみっちゃんに本気で嫌われたら死んじゃいますからね。どちらか一人なんて、絶対に選べないだけですよ。」
二人はみるみる落ち込んで、俺は俺にも恋をしているという水野と出掛ける約束をせざる得ず、葉山にも惚れている佐藤に関しては俺が払うからとフレンチレストランへの予約までしてやる破目になった。
葉山は玄人が武士だと褒めるだけあって、美人と高級な飯を喰うだけの誘いを断ることなどあり得はしない。
俺はそうやって妹のような二人を慰め、慰めながら楊が俺に語る泣き言は、単なる泣き言でしか無いとぼんやりと考えてしまっていた。
あいつは本当に行き詰ったら、俺に相談をしてくれるのであろうか、と。




