獣道
暗い夜道は、その道を作った人物の想い出によるものだ。
人間は結局自分自身から逃れることはできず、空想の中の道など、それこそ自分自身の過去や思考によって紡がれるのであるから、そこが思い出の道にしかなりえないのは仕方が無いのである。
あぜ道には蛙が大合唱して、蛍さえもちらほらと飛び交っている。
僕にはここまで古い景色だと懐かしさは感じないが、見覚えのあるあぜ道であるのは間違いない。
ぽつりと橙色の灯りが灯ったが、それは僕を待っていたこの道の主が焚いた僕への迎え火だ。
僕は歩く歩を早めて、その人物の佇むところへと急いだ。
白地に大きく白波と書かれた提灯を持つ祖父は、さっきまで僕が一緒だった久美によく似ており、久美から色素を抜いて皺を増やして老けさせただけ、ともいえる。
「おじいちゃん!」
僕は祖父の懐に飛び込んだ。
夜目にも白く輝いて見える彼の薄紫の着物には、金糸銀糸で裾や袖に一筆書きのような波模様が刺繍されている。
本物の白波の王である祖父は僕を抱きとめ、僕が一番の宝物であるかのように慈しみを込めて僕の頭を撫でた。
「お帰り。首尾は?」
「万事、おっけー。梨々子の事、お爺ちゃんにすぐに相談して良かったよ。でも、襲撃の情報を流して敵を引き込んだお爺ちゃんには、僕はどん引きだよ。」
「あら、お前が引き連れて来た長柄という助けもあれば、クミは好きなように動けるのだから、これは勝機でしょう。」
「まあね。別の日に襲撃されて一般社員さんを守らなきゃじゃ、クミちゃんは反撃できないものね。でも酷いよ。それでクミちゃんの本当の気持ちが聞けたのは良かったけど。」
「ふふ、白波の赤子に本物も偽物もあるまいに。まぁ、でもあの馬鹿孫が馬鹿なりに悩んでいた事も解消されたし、私はひ孫も抱けそうだ。あとは仕返しだけだねぇ。ふふ。」
「おじいちゃん。僕は良純さんの所に帰っていい?」
「もちろん。あそここそ危険かもしれないけどね。」




