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髙悠介

 二階部分だけが見事に消失した隣家の有様に、髙悠介は刑事の勘どころか頭が空になるような虚脱感を感じていた。



 昨夜に落雷のような振動を持った大音が隣家から響き、髙が慌てて外に出てみれば、相棒の自宅である二階建ての木造建築は一階建てに変化していた。

 そして、その家の後ろにある月極駐車場では業火が小爆発を起こしながら次々とそこに停めてあった車を飲み込んで風景を赤黒く染めていくのである。


 一重の瞳をこれでもかと大きくして、地味な顔立ちを驚愕の目立つ表情に変化させるしかない彼は、友人の家の有様を眺めながら確実に相棒を失ったとその時は確信していた。


 二重の瞳が印象的な、いつまでも二十代のような若造の雰囲気の友人の死。


 瞼の裏に楊の笑顔が浮かんだことで、髙は自分に痛む人間的な心が残っていたと自分に認めるしかなかった。


 しかし、それも数秒だけだ。

 髙は涙をこぼさずにいて良かったとほっとした。


 視界を遮る黒煙が収まって見れば、住人であった彼の相棒で上司の楊勝利警部は死亡どころか無傷に近い状態で、壁の消失した二階の床部分にぽつんと座り込んでいたのである。

 その姿に髙は自分の腰が砕けて同じように座り込みそうになったが、とりあえずの保護は消防の到着を待って消防士に任せた。

 現在の楊の身柄は、消防士から受け取った救急隊員によって病院に搬送されており、いまや検査等を待つだけの安全状態である。



「うわ、物凄い壊れっぷり。俺の部屋が一階で良かった。」


 楊の同居人の葉山はやま友紀とものりは現在課長代理として楊の課を預かる警部補であるが、下っ端の巡査よろしく息せき切っている所をみれば、楊邸の火事の報を聞いてそのまま署を飛び出して駆けつけてきたのであろうと髙は推測した。


「おつかれ。」


 髙の掛け声に葉山はびくりとした後に息を吸うと、隣に立つ髙に軽くだが頭を下げてちゃんとした礼を返した。


「お疲れ様です。」


 細身の今風の雰囲気の男であるが、武道家の体格と姿勢を持つことが全て物語っているように、出会う誰もが好印象を抱く振る舞いを無意識のうちにするために、侍とあだ名されてもいるのだ。

 造形からして、四角い輪郭に粗削りだが整った顔立ちで、彼は清々しさしか感じないという好青年なのである。


「僕は何も疲れてないから大丈夫。それよりも君の荷物は一階でも無理じゃない?しばらくはうちに泊まる?」


「ありがとうございます。実は警察庁が用意した部屋に移るように再三言われていましてね、そこをありがたく使わせてもらうことにします。焼けだしも以前に経験していますから、大事なものは大丈夫なはずです。取ってきていいですか?荷物を確保したら、すぐにでもその新居を整えたい。」


 髙は隣の男を横目で見た。

 葉山は髙に何かを言われる前に、余裕の笑みを持って口を開いた。


「ペット可の物件です。かわさんの鳥も引き受けられますよ。」


「では、どうぞ、お好きなように。それから君も気を付けて。かわさんの見舞いも不要です。あの子達にもそれを徹底ね。」


「そんなにかわさんは危険なので?」


「この有様は誰が作ったんだろうね。」


 高が顎をしゃくり、葉山は自分が住んでいた家を見返すと、そこには黒く煤けた残骸しかない。一階部分は焼けていないと言えども、どこもかしこも煤と消火用の水で濡れそぼっているという状態だ。

 葉山は自分と友人、そして楊との共同生活が学生時代に戻った様でもあったと回顧し、取り戻せない時代を再び失ったかのような気持ちにもなってしまっていた。


「俺は永遠の出向先だったここに、ずっといてもいいなって思っていたのですけどね。これじゃあ、先に進むしかないじゃあないですか。」

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