一
同僚の妻と少々早産だった娘は、四月十五日に自宅に帰還した。
赤ん坊は二週間早くこの世に生まれ出てしまったからか、その姿は小さく骨ばっており、その上、生まれ出る前に抜けている筈の胎毛が体中を覆っているという有様であった。
その姿は彼女の急な誕生の報に駆け付けた父親と母親の両親さえも驚かせたものであるが、彼女はその日に最初から生まれ出るものと決めていたかのように元気な産声を散々に上げ、驚き心配する肉親達を落ち着かせたという。
そんな生まれた時からの親孝行な彼女は今や、自分の本来の誕生日に母親と自宅に戻ってきている。そしてその自宅では、産後の母親を助けるべく居座った母親の両親を含めてのささやかな祝いが家族だけで催されているのである。
一人寂しく暗い階段を上っていく男は、隣家から時々漏れ聞こえる幸せの笑い声に少々のいらだちと寂しさを感じていた。
彼は一人だ。
彼の胸には大きな緑色の鳥を押し付けるようにして抱いていて、左手には二羽の小鳥が入った大きな鳥かごを下げてもいるが、人間である彼が一人ぼっちであるのは間違いないであろう。
隣家は男の相棒だった男の家だ。
男の名前は楊勝利。
現在所轄の刑事をしているくたびれた三十代の男だ。
楊と相棒の髙悠介との連れ合いの期間は長い。
楊が新人の頃から鍛えてくれたのが髙なのだ。
だが髙は、楊を唆して昇進試験を受けさせて警部にまで持ち上げたが、髙自身は巡査部長のままでいようという卑怯者だった。
結局は楊の騙し討ちで髙も警部補になってしまったが、楊はその結果に自分を褒めるどころか失敗したとかなり焦っただけであった。
そのせいで髙が異動する可能性が生まれたのだ。
そこで、裏で色々とできる元公安の髙によって髙が異動しないように頑張ってもらおうと楊は考え、その為にかなり身を粉にして髙に尽くして来たのだ。
妊娠した妻と多忙な刑事という組み合わせでは家事が疎かになってしまうだろうと考えれば、楊が自主的に髙家に料理を運んでやったりもしたのである。
しかし、そんな過去があるにもかかわらず、髙は楊を自宅の宴に招いてはくれなかった。
髙と楊が仲違いをしてしまったからだ。
楊は仲違いをした翌日から髙に自宅への接近禁止命令を突き付けられ、相棒の解消までもされてしまったという訳なのだ。
「畜生。髙め。さんざん俺の飯に舌鼓を打っていながら、俺が嫌って言ったとたんにこれかよ、この仕打ちかよ。」
楊は髙が持って来た仕事に、これは嫌だと初めて言ってしまったのだ。
「ゾンビと戦争なんて、誰がやるか!」
この世界には死なない人間というものがいて、刑事である楊と髙はそのゾンビを人知れず捕まえる仕事もしていたのだ。