校内見学
着々と進む自己紹介。
ぶっちゃけ全然頭に入ってこないよね。
いや、もうここは無難に終わらせるべきか?
さらっと終わらせてしまえば…!!
「じゃあ次は…あぁ、ユズキが最後か。上手く締めてくれよ!」
そんな振りいらないよセリウス先生ー!!!
締めろとか何よ、何言えばいいのよ?!
あぁもう、とりあえず席を立って、軽く微笑んでおこう!
「…ユズキです。出身はアイゼンファルド侯爵領、得意な属性は火属性です。沢山友人を作りたいと思っているので、話しかけても無視しないで下さいね。よろしくお願いします」
めっちゃ普通に終わっちゃったよ…
羞恥で顔が赤くなりそうなところを、貴族の気合の笑顔(?)で耐える。
心の中は恥ずかしくて暴れてます。
よし、さっさと座ろう。
「ねぇねぇ、今のユズキ君、結構カッコよくない?」
「前髪と眼鏡で素顔がわかんないけど、なんかカッコいいよね!」
「さっきの笑顔とか、なんかキュンとしちゃった…」
「もっと髪型とか変えたら雰囲気変わりそうだよねー」
…あれ?意外と女の子の評判は良さそう?
ちょっと照れくさいな…
「アイツってアレだよな、試験でぶちかましてた奴…」
「そうそう、師長様と話してた」
「すげぇよなぁ、しかも頭もいいんだろ?説明会の時、前列にいたぜ?」
「仲良くなったら色々教えてくれるかなぁ」
…男の子側の評判も悪くない。
よし、なんとかなった!!
「よし、じゃあ全員終わったな!ならこれから校舎内の見学に行くぞ!2列に並んで私に付いてこい!最後尾にはシェルネ先生が付くから、私の説明が聞こえなければシェルネ先生に聞くように!」
ほうほう、案内してもらえるのか。
まぁ最後尾でいいかな。
クラスの子達が出て行くのを見送ってから、最後に教室を出る。
おや…僕の隣はメイーナじゃないか。
「また隣だね」
僕の言葉にメイーナが頷く。
それをシェルネ先生は微笑ましそうに見ていた。
列は動き出し、校内を見て回る。
1階に昇降口と、職員室的な事務室と、小さめの図書室。
2階に第1学年の教室が2つと、被服室が2つと、小部屋がいくつか。
3階は第2学年の教室が2つと、理科室みたいな実験室が2つと、小部屋がいくつか。
4階が第3学年の教室が2つと、調理室が2つと、小部屋がいくつか。
5階が食堂になっていた。
ちなみに小部屋は色んな用途で使うとの事。
個人的に使用してもいいそうだが、事務室に申請書を届け出ないといけないらしい。
そうして平民科の西棟を確認した後に、渡り廊下を通って東棟へ向かう事になった。
すると前から同じような集団が近付いてきた。
あれは…貴族科の新入生かな?
真っ白な軍団も目立つねぇ。
「あぁ、カイレック先生、こんにちは」
「やぁ、セリウス先生。そちらも移動ですかな?」
「西棟が終わったので、東棟に向かいます。その後は講堂を経由して演習場へ」
「ではこちらは予定通り演習場を経由して講堂へ向かいますよ」
「よろしくお願いします」
向こうの指導員は随分とお年を召してるようだった。
白髪に長めの髭…あれだ、ちょっと仙人感がある。
白い薄手の衣装着てほしいよね。
あの紫色のローブもいいけど…すげぇダン◯ルドアっぽい。
お互い通り過ぎる際に会釈をする。
ここではお互い平等だから、態々立ち止まって頭を下げる必要はない。
すると仙人先生の後ろに、見知った顔を見つけた。
あー、なんかチラチラとこっち探してるなぁ…
4人には僕の変装後の見た目を伝えてないからしょうがないけど、あれじゃ挙動不審すぎる。
すれ違い終わって、僕は後で4人に連絡しようと心のメモに書き込んだ。
あと、メグ様もいた、何位だったんだろ。
デイジー嬢達はいなかったな、雪組かな?
それとあのデブハゲ伯爵令嬢と、メイーナの異母姉妹のぶりっ子公爵令嬢もいなかった。
3人共…大丈夫かな…?
ちょっと不安になってきた、今度のシンディ&ドロシー嬢の家のお茶会で探ってみよう。
「…ユズキ君とメイーナさんは、貴族科を前にしても動揺しないのねぇ。他の子達は随分ガチガチだったけども…」
シェルネ先生の呟きに、ついドキッとしてしまう。
確かに前を見てみると、他の子達は緊張から解放されたかのように安堵の表情をしていた。
うわぁ、しまった…
「いえ、緊張してました。顔に出ないタイプなんです」
「…自分も」
「あら、そうなのね。確かにメイーナさんはそんな感じもするけど、ユズキ君までそうだとは思わなかったわ」
ふふふ、と控えめに微笑むシェルネ先生。
うーん、危ない危ない。
意外と変なところでボロが出そうだ。
まだ初日なんだし、疑われる事は出来るだけ避けないとな。