お使いクエスト
さてと、今度こそ帰るかな…
僕はアリス嬢が校舎に入るところを確認してから、裏門に向かって歩き出す。
裏門に近付くと、1人の白制服の少年が立っているようだった。
…あれは…ロイ兄様!!
あぁ、駆け寄りたいけど人に見られる訳にもいかないし…!!
ヤキモキしながら近付くと、兄様はこっちに気付いたようだった。
「…平民科の合格者かな?おめでとう、4雷からはよろしくね」
微笑む兄様、カッコいい…!!
最近の兄様は父様に似てきて、知的な雰囲気のあるイケメンアイドルって感じだった。
絶対学院でモテるよね、婚約者のルーナ義姉様がいるけどさ!
ルーナ義姉様とは、あれから数回会った。
あの後、屋敷に来た時はめちゃくちゃ緊張してたな。
そういえば、ルーナ義姉様は王都では髪色を変えていたらしく、地毛は紫がかった銀髪だった。
まぁ僕も見た目が変わってたけどね。
そこから段々と和らいでいって、今では僕の事を『ユージェ君』と呼んでくれる。
ルーナ義姉様のガネット伯爵家は文官家系らしく、お父上は文官部門の副大臣だった。
ちなみにお父上の弟さんっていうのは魔法師団の第7師団長らしい。
つまり兄様が一目惚れしたのは父様の部下の姪だったと。
…世間は狭い。
「もう説明会とかは終わったのかな?」
「あ、はい、終わりました。もう帰ります」
「そうなんだ、僕ももう帰りたいなぁ。王都にある『レイトール果物店』のミックスドライフルーツが好きでね、是非弟達にも食べてもらいたいんだけど…生憎今日は真っ直ぐ帰らなければいけないんだ。いやぁ、残念だよ」
兄様が少し眉を下げつつ、困ったように笑う。
…もしや兄様、それを僕に買ってきてほしいって事ですか?
兄様、僕がユージェリスだってわかって言ってますよね?
「…そんなに美味しいんですか?」
「あぁ、最近同級生から聞いて知ったんだけどね、とても美味しいんだ。ここから水の門に向かう道の途中にあるらしいよ」
…兄様から笑顔で無言の圧力を感じる。
やだぁ、そんな兄様もカッコいい。
はい、買ってきまーす!!
「…では、折角お話を聞かせていただいた事ですし、行ってみようと思います」
「うん、是非行ってみてよ」
にこにこと微笑む兄様。
もう、兄様ってば、どこでそんな笑顔の圧力覚えたんですかー?
僕も真似しよっと。
「では、失礼します。4雷からはよろしくお願いします」
「うん、またね」
僕は兄様に頭を下げて、その場を後にする。
暫くして振り返ると、兄様は悪戯が成功したかのように面白そうに笑って僕に手を振ってくれていた。
お茶目な兄様、好き。
…なんか最近ブラコンがやばいな。
いや、僕、ファザコンでマザコンでブラコンでシスコンだけど。
…この言い方は語弊があるな。
僕は家族が大好きなだけです!!!
…認識を改めて、僕は水の門の方へ向かった。
水の門だと、ルーファス達の家からはちょっと離れてるなぁ。
まぁこの格好では会えないけどさ。
さてさて、一体お店はどこにあるのかなー?
適当に聞いてみよう、あそこのパン屋さんとかで。
「すみませーん」
「はい、いらっしゃい!何にしますかー?」
「えっと、そのくるみパン1つ…」
「はいはい、銅貨5枚ねー」
「じゃあこれで…あと、『レイトール果物店』ってどこにありますか?」
「あぁ、レイトールさん?そこの門を左に曲がったところにあるよ」
「そうですか、ありがとうございます」
「いえいえ、またどうぞー!」
売り子さんからくるみパンを受け取り、手を振って別れる。
くるみパンは、やっぱりちょっとスコーン感があった。
どこかでもっちりふっくらしたパンないかなぁ…
パンは作った事あっても、さすがにイースト菌の作り方は知らない。
知識は残るんだったら、作り方が載ってる本でも読んでたら良かったわ。
ベーキングパウダーで作るのって、やっぱりちょっと違うんだよねぇ…
そんな事を考えてくるみパンを齧りつつ、道を進んで角を曲がった。
…おぉ、小道なのに賑わってる。
店の前に来たら、少し行列が出来ていた。
人気あるんだなぁ…
「…あれ?アンタ、次席の…」
声に振り返ると、そこには首席の三つ編み少女が立っていた。
思っていたよりも声が低めだな、アルトって感じ?
にしても、なんでここに?
「あー、首席の…どうしてここに?」
「こっちのセリフなんだけど…」
「僕はそこのお店に用があって。美味しいって聞いたから、買いに来たんだ。君は?」
「…家に、帰るところ」
「お家、この辺なんだね。あ、僕、ユズキって言うんだ」
「…メイーナ」
「これからよろしくね、メイーナさん」
「…呼び捨てでいい、よろしく、ユズキ」
うーん、なんかちょっと愛想がないタイプ?
でも友好的ではあるのかな。
折角だし、仲良くなれればいいんだけど…
…にしても、なんで動かないんだろ?
家に帰らないのかな…