ちょっとした騒動
体育館を出ると、数人の生徒や先生達を見かけた。
どうやら今はお昼休みの時間らしい。
…兄様いないかなー?
そう思って少しキョロキョロしながら曲がり角を曲がると、角から飛び出してきた人とぶつかりそうになった。
やっばい!
「っとぉ!」「きゃあっ!」
咄嗟に避けて、ぶつかってきた人の腕を引いて自分の腕を腰に回す。
さながら一種のダンスのようだった。
そのままくるんと回り、ぶつかってきた勢いを殺す。
…おう、女の子だった。
白い制服…貴族か。
【危機回避スキルを取得しました】
あ、ラッキー。
「えっと、お怪我はありませんか?」
「え?あ、はい、すみません、突然ぶつかってしまって…」
僕は声をかけつつ手を離して、体に傷がないか全体を確認する。
赤みがかかった金髪…ストロベリーブロンドって言うんだっけ?
ふわっふわだなぁ。
それに茶色の瞳で、可愛らしい印象だ。
…うん、特に怪我はなさそう。
貴族の女の子は少し呆けたような表情をしつつ、僕に頭を下げて謝ってくれた。
…貴族なのに頭下げて謝ってくれるのか。
これは好感度が高いな。
「頭を上げて下さい。僕はまだ入学前ですので…」
「え?あら、私服…では私の後輩になられる方ですのね」
ふわりと優しく笑う女の子。
うーん、可愛い、守ってあげたくなるね。
「アリス!!!どこだ、アリスー!!!」
「っ!!!」
突然聞こえた怒号に、目の前の女の子の顔色が悪くなり、肩を揺らした。
…もしかして、アリスってこの娘の事?
「えっと、もしかして…」
「あ、あの、もし聞かれても誰とも会ってないと言ってもらえませんか?!」
「え?…あの、何かあったんですか?」
「いえ、あの…その…」
うーん、特に彼女が何かやってしまったって感じではなさそうだけど…
よし、ちょっと確認しよう。
「失礼します。《エリア》《アシミレイション》」
「えっ?!」
彼女を指定して、周囲と同化させる。
魔法をかけた僕しか見えないようになった。
「あ、あの…?!」
「しーっ」
僕は口の前に指を持っていき、静かにするようにジェスチャーした。
彼女は少し驚きながらも、数回頷く。
「アリス!!!」
その瞬間、曲がり角から男が飛び出てきた。
僕は態と驚き、彼女の前に立つように少し体をずらした。
真っ赤な髪に金色の瞳の少年は、怒りを露わにした様子で僕を睨んでくる。
後ろで震える女の子が、僕の背中の服を掴んでいた。
「え、ええと、何か…?」
「…貴様、ここに女が来なかったか?赤みがかった金髪の女だ」
「いえ、僕は講堂からここまで来ましたけど、金髪の方は見ていませんが…」
金髪は見てない、会ったのはストロベリーブロンドです!
これで多分嘘発見器的なものがあっても引っかからないはず!
少年は少し僕を見てから、舌打ちをした。
「…使えない奴だ、これだから平民は…もういい、失せろ!!!」
「も、申し訳ありません…」
僕は頭を下げつつ、彼女を背に庇いながら曲がり角を曲がる。
少年はもう少しこの先を探すようで、また小走りで進んでいった。
…というか、今、すげぇ平民を下に見る発言してたけど、いいのか…?
とりあえず遠ざかった事を確認して、彼女にかけた魔法を解く。
「…大丈夫ですか?」
「…あ、ありがとうございます…本当に、助かりました…」
顔色が少し戻った女の子は、深呼吸をしながら落ち着こうとしていた。
うーん、さっきの奴、なんだったんだろう。
でも初対面の平民に話してくれないだろうなぁ…
「ええと…このままそこの扉から校舎に戻られたらいかがでしょうか?」
「…そうですね…そうします…あの、お名前をお聞きしても?」
「あぁ、えっと…ユズキと申します。4雷1日より入学予定ですので、またよろしくお願いします」
「ユズキ君…あの、私はアリス=プレッシェンと申します。今は1学年なので、ユズキ君の1つ上になります。よろしくお願いしますね」
アリス嬢がまた頭を下げる。
うーん、中々腰の低い人だ。
とりあえず僕も頭を下げておく。
そしてアリス嬢は手を振りながら、校舎へと戻っていった。
…入学したら、さっきの理由わかるかなー?
なんか困ってたみたいだし…
でもまだどっちが悪いのかとかわかんないんだよなぁ…
個人的にはアリス嬢に非があるようには見えなかったけど…
うーん、気になる。