合格通知
夜、帰ってきた父様に、ちょっと怒られました。
「今日は受験日なのは知っていたが、色々設定があるなら先に教えてくれ…」
いや、設定後付けだったんだよね…
でも見た目とかも伝えてなかったのは僕が悪いので、ちゃんと謝りました。
そして次の日、朝食を食べている僕の目の前に『レター』が届いた。
意外と突然なんだね、びっくりしたよ。
「お兄様!それ、合格通知ですの?!」
「そうみたいだね」
「きっと最初の紙には順位と点数と前後の順位との点差が書いてあるよ。後は説明と制服の採寸日が書いてあったはず。他の紙は答案用紙だね」
ロイ兄様の説明に驚きつつも封を切る。
そんなにいろいろ書いてあるのか…
というか、フローネと兄様、僕が合格してる前提だね?
「えーっと…『貴殿はリリエンハイド王立学院において、平民科(暗記スキルあり)を次席合格した事をお知らせ致します。点数、295点。首席との差、1点。三席との差、5点。次回は3雷11日、光の10刻に裏門集合となります。』…へぇ、次席か」
「さすがお兄様ですわ!」
「ユージェなら首席かと思ってたよ」
「でも首席だと目立つかもしれないから、ちょうどいいんじゃないかしら?」
「そうだな、一体何を間違えたんだ?」
父様の疑問に、僕も首を傾げた。
つい普通に全部答えちゃったんだけど…
つまり普通に間違えたって事?!
あんな簡単な問題を?!
うわぁ、ショックだ…
僕は紙を捲り、答案用紙を確認する。
「…計算問題は全部合ってる。言語問題も合ってるし…え?じゃあ教養問題?」
えーと、えーと…
陛下の名前は間違えてないし、建国記念日も合ってるし…
…あ、あった。
「…愛し子問題、間違えてる…」
「「「「え?」」」」
全員が僕の言葉に固まる。
声に出さなかったけど、リリー達も驚愕の表情で固まった。
「…何を、間違えた、と…?」
「愛し子問題…『精霊の愛し子様は、なんの為にこの国にいらっしゃる存在でしょう?』と『精霊の愛し子様より高位の存在は誰でしょう?』でバツ付いてる」
「…ユージェリスちゃん、なんて答えたの…?」
「1つ目は『粛清』、2つ目は『親』」
「…なんでそんな回答にしたの?」
「いやだって、前にベティ様が国を守る為にはどんな奴であろうとも潰すべきだって言ってたから…」
「…それってまさか陛下の事じゃ…」
「お兄様、2つ目は…」
「いくら愛し子って言っても、自分を産んでくれた親あってこそでしょ?」
「…間違ってない、間違っていないが…!!」
「嬉しいけども…」
「ちなみに一般的な回答は『精霊様がこの国の平穏を保つ為にお力を宿して具現化した存在』と『王族であろうと従える事は出来ないので、精霊様のみ』だね」
父様が苦悩の表情で握った拳で机を叩き、母様は少し困ったように笑った。
兄様は苦笑しながらも答えを教えてくれた。
だって普通にそう思ったんだもん…
「ユージェ、暗記スキル使わなかったの?」
「使う必要もなかったから…」
「暗記スキルを使われてたら、満点だったかもしれませんわね…」
「いや、三角もあった」
「三角?」
「別の問題で『愛し子』って書いたら三角だった。横に『不敬なので様付けにしましょう』って書いてある」
「…ユージェは愛し子様だから、いつも様付けしないもんね…」
「じゃあお兄様は実技試験は満点でしたのね」
「あんな鎧を貫通するような魔法なら満点だろうな…」
くそぅ、解せぬ。
愛し子本人が愛し子問題で減点食らうとは。
本人が言ってるんだから、本当なら満点なのに…
まぁいっか、目立ちにくくてバレなくて。
それにしても、首席はアッシュ君かな?
アッシュ君と話してる間の実技試験は見てなかったから、1番まともだったのは彼かと思うんだけど…
あ、でも暗記スキル持ちは順位表が別になるのか。
じゃあわかんないな。
「…とりあえず、今日、陛下と王妃様にはユージェリスの事を連絡をしておく。後は学院長にも通達しておくから、学院で何かあれば学院長に言いなさい」
「学院長ってどんな人?」
「とてもお優しい方だよ。僕も会話した事あるけど、レティシア=バールドール様…王妃様の母上様なんだ」
「え?!ベティ様の?!」
ベティ様、親いたの?!
…いや、そりゃいるか、今まで話に出てきてなかったから驚いた。
「レティシア様は公爵夫人で、夫であるジャルダン=バールドール公爵が学院長だったんだ。だがバールドール公が14年前に亡くなられてな、レティシア様が引き継がれたんだ。お2人にはお子様が王妃様しかいなかったから、跡目がいなくて…一応、王位継承順位の低い第2王子か第2王女を今後養子として迎え入れて継がせる予定なんだ。現状、公爵家の仕事はバールドール公の弟殿が騎士と兼任でこなしている」
へぇ、そんな事情があったのか…
確か第2王子と第2王女ってフローネと同い年の双子だったな。
「ベティ様から親の話聞いた事なかったから、なんか不思議…」
「あー…あまり、関係性が上手くいっていないというか…ユージェリスもわかるだろうが、愛し子様になられると記憶がなくなるだろう?それで16年間の記憶がなくなった王妃様とレティシア様はギクシャクしてな…バールドール公なんて元々王妃様と仲良くなかったもんだから、余計に溝が生まれて…今では王妃様もレティシア様と会話されるが、まぁ薄っぺらいな」
おおう、中々複雑で重い内容だ…
そうかぁ、きっとベティ様は頼れなかったんだろうなぁ、母親に。
僕みたいに甘えられるような歳でもないし、周りに知り合いはいない。
王妃になる事を拒否する事で、父親とケンカでもしたのかもしれない。
前愛し子の人は少なくとも体は男性だから、長時間2人きりで会う事も出来なくて、変な噂が立つ可能性もあったから相談がしづらい。
…だから、ベティ様って僕に優しくて甘いんだろうな。
出来る限り、僕の不安を取り除こうとしてくれるし。
「レティシア様も愛し子様については詳しいし、力になってくれるだろう」
「学院長はベティ様をどう思ってるの?」
「…大切に思っている。記憶がなくとも、大事な娘だからな。会う度に王妃様の様子を聞かれるよ。今学院には第1王子がいらっしゃるが、お孫様でもあるからか、頻繁に学院で仕事をされているな。少しでも面影のある第1王子を見たいんだろう」
やだ、健気…!
ベティ様ってあれかな、今更仲良く出来なくてヤキモキしてるのかな?
早く仲良くなればいいのに…
今度のお茶会では、ちょっとお説教ですね!