やらかした疑惑
筆記試験終わりました。
いや、マジで呆気なかった。
だって内容が簡単過ぎて、暗記スキルさんとか必要なかったもん。
テストは3つに分かれていて、前世風に言うと一般常識・国語・算数よりの数学、って感じ?
一般常識は国の名前とか、陛下のフルネームとか、建国記念日の日付とか、愛し子についてとか、この国の常識的な。
国語は文法の間違い探しとか、ちょっとした感想文とか、そんなん。
最後は数学というか、算数だった。
これが1番量が多かったかな?
でも四則演算とか暗算で楽勝過ぎるでしょ。
桁数が増えても検算すればいいだけだし。
連立方程式とかも余裕過ぎる。
いや、あれはつるかめ算と言えるのか?
提出した後に思ったけど、中学レベルだよね?
普通に解いて答え書いちゃった…
そうだよね、忘れてたけど小6だもんな、年齢的に。
しかも平民は自己学習からのこの試験。
貴族は大体が家庭教師を付けて授業してるわけで。
そう考えると、現時点では貴族の方が頭いいのか…?
これが難しい部類の試験なのかな…
前世では27歳だったから拍子抜け過ぎて、つい全問正解の勢いで答えた気がする。
なんか意図的に間違えとけばよかったかも。
「よし、次は実技に入る!先程書いてもらったアンケートの所持属性をランダムで指定するから、それを的に向かって当ててもらう!」
…さっき何書いたっけ。
まぁ指定してくれるなら簡単だろ。
僕達受験生は先生に付いていって、外の演習場へと向かった。
「ここは第2魔法演習場だ!隣の第1魔法演習場では貴族子息令嬢が試験中だ!お前達の同級生となられる方々でもある!」
「受かれば学院内に限り、上下関係はほぼなくなりますけど、現状では貴族の方々に失礼があってはいけませんからね。皆さまの的である鎧は第3魔法演習場の方を向いてありますので、そちらに放って下さいね」
…まぁ何かの間違いで魔法が被弾したらアウトだもんな。
でも見た限り、演習場毎にしっかりした防御の魔法がかかってるっぽいけど…
あ、これ、魔法師団の仕事だっけ。
前に父様が、持ち回りで週に1回学院に行くって言ってたもんな。
「では、名前を呼ばれた者は前に出ろ!まず、アッシュ!!お前は火属性で放て!!」
「はい!!」
セリウス先生の指名に、1人の男の子が大きな声で返事をする。
栗色の髪に薄い茶色の瞳、白い肌。
結構色素薄めの少年だな。
見た目は病弱そうな気弱キャラなのに、随分ギラギラした目をしてる。
「いきます!!《エリア》!《汝、粉塵となりて我の前に現れる。鎧よ、精霊の裁きを受けよ、"エクスプロージョン"》!!」
少年が鎧に手を翳し、詠唱する。
というか、詠唱かよ、久々に聞いた。
詠唱が終わると、鎧がそれなりの音で爆発する。
爆煙が晴れると、所々がベコベコに凹んだ鎧が転がっていた。
…僕が初めて魔物を倒した時の、1/10より弱い威力ってとこかな。
あれじゃ詠唱が長くて動いてる魔物に当てる事は出来ないし、当たったとしても天災級なら擦り傷程度だろう。
自然級なら動きが鈍くなるくらいかなー?
あれがこの年代の最低レベルかぁ、まぁ12歳くらいだしねぇ…
…なーんて思ってたら、周りが物凄い歓声を上げ始めた。
うん?なんで?
「素晴らしい!!いい攻撃力だ!!」
「とてもいい威力ですね。これは将来魔法師団に入っても即戦力になりそうです」
まーじーでぇー?
え、嘘でしょ?お世辞でしょ?
多分父様はもっと強い威力出せるよ?
…いや、父様と比べちゃダメか。
今の時点で比べるとしたら、ロイ兄様だけど…
…うーん、ロイ兄様はもっと強いよな。
この前、狼の自然級を父様の補助ありだけど倒せたらしいし。
さすが父様の血を継ぐ、次期宮廷魔術師長。
という事は、アレックス様やロイド様がこの歳の頃はこれくらいだったって事かな?
戦ってるところ見た事ないから、判断がしづらい…
「コイツが最初だとは、他の奴らの緊張を促してしまうな!みんな気を張らず、いつもの威力が出せるように頑張るんだぞ!!」
「それでは、次の人に参ります」
1人、2人と順番が進んでいく。
…確かに最初の少年よりも全然威力が足りない。
みんな詠唱使ってるのに、ちょっと凹ます程度だ。
たまーに強い威力の子もいるけど、それでもさっきの方が強かったな。
それなりに凹みきると、鎧は自己修復していた。
これにも魔法印あるのかな?
え、てかどうしよう、僕どのくらいでいくべき?
あの少年よりも強くしたら目立ち過ぎるよね…
なら2番手か3番手くらいを保つべきかな?
手加減スキルさん、なんとかしてくれるかな?!
「では次、ユズキ!!火属性だ!!」
「は、はいっ」
やべ、順番来ちゃった!
しかも鎧は自己修復直後で凹み1つない綺麗な状態だし!
どうしようどうしようどうしようどうしよう…
え、詠唱じゃなきゃダメかな?!
恥ずかしいんだけど、耐えるべき?!
内心めちゃくちゃテンパりながら、僕は所定の位置につく。
えーと、えーと…今までの人達と同じやつやったら比べられちゃうから、新しいやつ…
いや、いっそ適当にでっち上げて、新しいの作る?!
最悪適当に言ってみて発動しなきゃ、指鳴らしてそれっぽくすればいいし!!
…よし、そうだ、アレっぽいのにしよう!!
大きさが小さければそんなに派手な技じゃないし!!
頑張れ僕、僕にとって想像力こそが魔力だ!!
僕は鎧を指差し、イメージを固める。
「…《エリア》…《汝、敗北者となりて我が貫きに跪け。鎧よ、精霊の裁きを受けよ、"ブレット"》」
くらえ!!れいっ○ーん!!!!!!!
僕の指から、某必殺技のように小さな小さな火の玉が勢い良く飛び出し、鎧を貫く。
さすがに霊気は使えないし、なら魔力の弾ってなんぞ?状態だったから、普通に圧縮した火の玉になった。
電気系の弾の方が見た目は似てた気がするけど、指定は火属性だからなぁ。
そして詠唱はノリです、恥ずかしい。
【狙撃スキルを取得しました】
マジか、今の狙撃に当て嵌まるんだ。
「…なんだ?今の魔法…」
「見た事ないな…」
「なんか指から出た気がするけど、なんだったんだ?」
「別に的、凹んでないよなぁ?失敗か?」
受験生達が騒つく。
え、何これ、恥ずかしい。
「…鎧に、穴が…」
「そんな…これに傷を付ける事だって簡単に出来るものじゃ…」
あ、でもなんか先生達は驚いてるっぽい。
…いやいや、驚くくらいの事やっちゃダメじゃん!!
手加減スキルさんで威力抑えたつもりだったけど、貫通させるのもおかしかった?!
あぁ、先生達が訝しんだ目で見てくる…