手作りお菓子パーティーにて
「もうすぐ学院の入学試験があるねぇ。まぁ僕達貴族は試験結果に関係なく入学出来るけど」
出会った頃より背が伸びて、より一層チャラさが滲み出ているレオがクッキーを摘みながらポツリと呟く。
「だがきちんと試験は受けるべきだ。クラスに影響が出るからな」
レオよりも背の高いルーファスは、少し優しさを含むようになった鋭い目をアイスに向けながら指摘する。
「そうですね、折角ですから真面目に試験を受けて、皆さんと同じクラスになりたいですわ」
女性らしい体つきが目立つようになってきたナタリーが、可愛い顔を顰めながら崩れそうになるショートケーキと格闘している。
「うーん、あたし、みんなと同じクラスになれるかなぁ?みんな頭良さそうだから絶対にクラス一緒だよねぇ」
ずぞぞぞぞー、とバナナスムージーを少しはしたない音を立てて飲みながら、残念美人となっていくニコラが悩むように唸る。
「あ、ねぇ、その件なんだけどさぁ…」
ショートケーキのいちごを頬張りつつ、僕がみんなに話しかける。
「僕、貴族科じゃなくて平民科受けるね」
「「「「は?」」」」
全員がこっちを向く。
あ、ナタリーのショートケーキ倒れた。
「…え?僕の空耳?」
「貴族科行かないのか…?」
「ど、どうしましたの…?」
「ユージェは貴族だよ?!」
「いやいや、平民科ってお忍びで入る事出来るじゃん?どうせ貴族科で面倒な事になるなら、いっそ平民科で身分隠して色々学ぶのも面白いかなーって」
「そりゃ、ユージェは目立つけどぉ…」
「じゃ、じゃあみんなで平民科行く?!」
ニコラが慌てたように叫ぶ。
うーん、みんなでかぁ…
「それじゃ目立つでしょ、特にルーファス。宰相子息が貴族科にいないってどういう事よ」
「そ、それはそうだが…」
「僕の事は勉強の必要がないから自宅学習してるとか、そんな噂流しておけばなんとでもなるじゃん?愛し子だから学院免除になりましたーって事でさ」
「まぁ、情報操作は簡単でしょうけど…」
「平民の暮らしとか、平民から見た貴族とか、そういうの見てみたいんだよね。やっぱり貴族側から見てるだけじゃわかんないし」
この数年お忍びでフラフラしてみたけど、やっぱり貴族を恐れてる人とかが多少なりともいたりするんだよね。
それってなんでかなーって思うわけで。
…威張り散らしてる奴とかいるなら、潰してみるのも一興かな?
「…ユージェ、なんか悪い顔してるんだけど…」
「ユージェみたいに綺麗な顔で悪い事考えてると、凄みが増すよね!」
何気に酷いな、ニコラ。
「えー、でもユージェがいないってつまんないなぁー」
「そうだな、最近では一緒にいる事が当たり前になってきたし…」
「まぁ一応同じ学院なんだし、会えないわけじゃないでしょ」
「コースが違えば殆ど会えないと思いますけど…」
「あぁ、そっか。みんな何コースにする予定なの?」
「俺は文官コース」
「僕も文官コース」
「あたしは淑女コース」
「私も淑女コースです」
「…絶対会わないわ、それだと」
そりゃそうか、僕だけ系統違うもんな。
ちょっと寂しくなって、誤魔化すように残りのケーキを頬張った。
「ユージェは何にするの?」
「別に文官にはならないし、騎士ってわけでもないから…いっそ狩人コースにしようかと」
「えぇ?!危なくない?!狩人コースって実際に魔物と戦うんでしょ?!」
「いや、僕天災級くらいなら瞬殺出来るし、授業では自然級としか戦わないよ」
「普通はそれでも強いんだけどねぇ…」
「まぁ手加減スキルで補正されればそれなりに戦えるでしょ」
やり過ぎると目立つし、バレるからね。
そこは力を出来る限りセーブしないと。
「見た目は魔導具で変えるの?」
「そうだね、いつものお忍びスタイルでもいいけど、あの格好を誰かに見られてたらルーファス達と一緒にいたってバレるから、違う髪色にするつもり」
「髪色変えるくらいじゃ、ユージェ君の美貌は隠せないと思うんですけど…」
ポツリとナタリーが呟く。
そう、僕もみんなみたいに随分と成長した。
身長は170cmのルーファスと165cmのレオの間で、168cm。
しかもまだまだ伸びてます!
運動や筋トレもしてるから、12歳なのに腹筋割れてるし。
顔立ちは母様寄りなのか、父様のようなアイドル顔よりも美人顔…かな?
自分で言うのもアレだけど、イケメンオーラが漂ってます!
「そうだな、ユージェは目立つ」
「色々隠さないとねぇ」
「髪色と瞳の色も変えた方がいいね!」
「出来れば眼鏡など、顔を隠すものがあった方が良さそうですわ」
なんだかんだ心配しながらも、みんなは案を出してくれる。
うんうん、本当にいい友達を持ったよ!
ちなみにメグ様とは未だに友達関係にない。
たまーにせがまれてお忍び王都していたが、ここ2年くらいはそれも断った。
なんていうか、ちょっとメグ様に独占欲ってのが出てきたんだよね。
態度と言動から『ユージェは妾のもの!!』みたいなのをひしひしと感じる。
正直鬱陶しかったので、ベティ様に相談して距離を置く事にした。
メグ様はベティ様の魔法で王城から出る事は出来ないので、勝手に僕に会いに来る事は出来ない。
毎週のようにお茶会の誘いが来たので、月1くらいでは参加した。
ただし2人きりとかではなく、出来るだけ人が多いやつ。
ベティ様が窘めてくれてるけど、なんか小説によくあるような我儘王女っぽくなってきちゃったよなぁ…
ちゃんと悪いところは指摘してたのに、なんでだろ。
あと、デビューの時に会ったデイジー嬢達とはたまにお茶会やパーティーなんかに呼んでもらえるくらいの仲にはなった。
お誘いを受ければ、ナタリー達と出来るだけ出席している。
彼女達は読書が趣味みたいで、色んなジャンルの面白い本を教えてくれるから楽しいんだよね。
ただたまに、僕がルーファスやレオと話してるところを見て、<○>v<○>←って顔してるから、もしかして貴腐人なのかな?と感じる。
僕単体とかなら頰を赤らめて、ちょっと恋する乙女的な表情してるのに。
さすがに聞けないけど、気まずいだろうから聞かない。
ナタリーはそういう目で僕達を見ないけど、たまーに離れた男性2人をガン見してる時がある。
…特に深く突っ込まずに、暖かい目を向けるようにしてます。
学院に行ったら、新しい友達出来るかなー?
クッキー、アイス、ショートケーキ、バナナスムージーはユージェの手作りです。
全員揃う時にはユージェがお菓子を用意します。
みんなそれが楽しみなので、出来る限り集まるように頑張ってる、特にニコラ。