遭遇と帰宅
さて、とりあえず途中までは普通に歩いて帰るかなー。
あ、リリーにもお土産買ってこうかな?
何か美味しそうなものあれば…
「ん…?」
なんか、目の前に兄様に似た人がいる?
特徴的な父様似の髪を隠すように、キャスケットを被ってる。
あぁ、兄様、サスペンダーで短パンとか可愛い!!
そのまま『真実はいつも1つ!』って言ってくれませんか?!
…お、隣には女の子がいる。
ハーフアップに結わいた黒髪に、薄紫に白レースがついたリボンがふわふわと揺れて…
あぁ、例の義姉様候補か!
声かけてもいいかなぁ…お邪魔かなぁ…
「でも気になるから突撃しまーす!兄さーん!!」
「へっ?!」
『兄様』呼びだと目立つので、あえての『兄さん』。
そしてそのまま後ろから抱きついてみた。
兄様は驚きの声を上げたものの、転ばないように踏ん張ってる。
振り返った兄様のワイシャツの首元には、薄紫色のリボンが付いていた。
「兄さん、デート?僕にも紹介してほしいなぁ」
「え?!あ、ゆー…」
「お姉さん、初めまして。ロイ兄さんの弟でーす。ここではユズって呼んでね!」
「…え?弟?え?じゃあもしかしてさっきの…え?あ、ああああ、あの…!」
「…ユズ、彼女はルーナ。ルーナ、この子はさっきも話した弟だよ。詳しい紹介はまた今度家に来た時にするね。今はこんな場所だから…」
「る、ルーナ、と申します。ゆ、ユズ様、ご、ご機嫌よう」
「呼び捨てでいいですよー、僕はただの弟なんですからー」
「ユズ、ここで何してるの?」
「友達と遊んでたんだよ、これから帰るところ。その前にリリーにお土産買ってこうかなー?って思ってたんだけどさ」
「リリーなら食べ物がいいんじゃないかな?あの角にお菓子屋さんがあるよ。フローネには買ったのかい?」
「フローネのはリボン買った。じゃあそのお菓子屋さん寄ってから帰るよ。兄さんは?」
「僕はルーナを送ったら帰るよ」
「ん、わかった。気をつけてねー」
「ユズも気をつけるんだよ?強いからって過信しちゃダメだからね?」
「はーい。じゃあ、ルーナ姉さん、またねー」
「は、はい!」
緊張してカチカチのルーナ嬢にも手を振りつつ、2人から離れる。
うーん、中々可愛い人だった。
黒髪に黒い瞳で、綺麗というより可愛い感じ。
モデルさんよりアイドルタイプ?
母様やフローネとは別系統の顔立ちだな。
兄様はあんな感じがタイプなんだねぇ、気持ちはわかるけど。
そういえば2人共、同じ色のリボンしてたな…
ふーん、中々いい関係って事ね、ムフフ。
僕は兄様オススメのお菓子屋さんに寄り、リリーにビスコッティみたいなクッキーの詰め合わせセットを買った。
硬いけどナッツとか入ってて美味しそうだったからね。
帰って渡したら、凄い喜んでくれた。
フローネも風船の如く膨れて怒っていたけど、リボンをあげたら一瞬で機嫌が直った。
気に入ってくれてよかったよ…
僕が帰った頃には、 父様も帰ってきていた。
「ユージェリス、王都はどうだった?」
「楽しかったよ!みんなと色々見て回ったんだ!」
「よかったわねぇ。お友達とも仲良く出来た?」
「うん!みんな僕を特別扱いするわけでもなくて、普通に接してくれたよ!寧ろたまに適当に扱われて新鮮だった」
「そ、そうか…」
父様が微妙そうな顔をする。
なんか僕変な事言ったかな?
あ、そういえば…
「父様、あの…陛下はどうしたの…?」
「…ナンノコトダ?」
父様がピシリと固まり、目線を逸らしつつ小声で発した。
ど、どういう事なの…?
「…父様、陛下、生きてるよね…?」
「…当たり前だろう、勿論ご存命だ…寿命は縮んだかもしれないが」
父様?!
なんか不穏な言葉が聞こえたような?!
「…陛下、何があったの?」
「…俺からは言えない…」
あ、父様が素を出した。
それほど動揺してるのか…?
これ、父様に聞くのはあかんやつか…
ベティ様に聞いてみよう、うん。
この話は一旦やめておこう。
「あ、ねぇ、セイルいる?」
「おりますが…また何かしでかしましたか?」
レリックが怪訝そうな顔をする。
うーん、信用ないな、セイル。
「いや、そろそろ僕も謝ろうかと思って。いつまでも暗いままなのは困るんだよね」
セイルのお兄さんも心配してたっぽいし。
「そうですか…セイルなら、あの柱の影にいますよ」
「ちょ、レリック!!」
振り返って柱の影を見ると、セイルがガタイのいい体を無理矢理隠すように嵌っていた。
レリックの密告にセイルは悲鳴を上げている。
なんであそこに隠れようと思ったんだろ…
「あ、あの…ユージェリス様…この前は、すみませんでした…」
「僕こそごめんね、ちょっと言い過ぎたよ」
お互いに頭を下げる。
とりあえず、これで一旦仲直りだな。
請われれば料理も見せてあげよう、醤油の物以外は。
醤油は貴重なものだからねぇ。
あぁ、ジャルネ行きたい…行けない…
転移魔法も1度行ったとこじゃないと行けないし…
目下の悩みは、底をつきそうな醤油だな。