再会の約束
ルーファスのブローチを少し手直しした後、姉妹()に別れを告げて、僕達はまた広場に戻ってきていた。
ちなみにレオはめちゃくちゃ引き止められた。
肩と腰に抱きつかれて、スリスリされてた。
それを振り払って力の限り激走したレオを、多分もう見る事はないだろうな。
しょうがないので僕達も走って追いかけた。
ニコラは走れたけど、生粋のお嬢様なナタリーには無理だったので、ルーファスがおぶってレオを追いかけたよね。
あの時のナタリーの悲鳴も、多分2度と聞けないと思う。
なんたって顔を真っ赤にして、お嬢様らしからぬ声だったもん。
そして殿は僕。
「…もう、あの店には絶対に行かない…!!」
「えー?いい人達だったのにー」
「あぁ、変わった人達ではあったが、悪い人ではなかったぞ。…ナタリー、大丈夫か?」
「だ、だ、大丈夫ですわ…お気になさらず…」
「大丈夫って顔じゃないけど…僕が持った方が良かった?体格的にルーファスが1番いいと思ったんだけど…」
「そういう問題ではないのですが、ユズ君…」
…まぁ、ちょっと悪かったかなとは思ってる。
強引に背中に乗せたしね。
でもまだ7歳だし、思春期でもなければ気にしないかと思ったんだけどなぁ…
「はぁ…そろそろ暗くなるし、僕達も帰ろうかぁ。次にニコラに会えるのは、いつになるのかなぁ?他の3人にはそれなりに会えそうだけど」
レオの言葉に、ニコラが思案顔になる。
この中で1番遠いのはニコラで、今まで来た事がなかったという王都。
これから頻繁にってわけではないだろうなぁ…
「うーん…でもお父さんが王都にいるし、学院入学まで全く来ないってわけじゃないと思うよ?」
「じゃあ来る時は連絡してね、またみんなで遊びたいし」
「うん!手紙も書くね!あ、魔法覚えて『レター』にしようかな!」
「私も頑張って勉強しますわ」
「じゃあ僕も頑張ろっとぉ」
「俺は『レター』なら使えるが、きちんと勉強も怠らないようにしよう」
「僕は…まぁ、それなりに頑張るね」
「…ユーちゃんは規格外だもんねぇ」
レオが乾いた笑いと共に、ポツリと呟いた。
知ってるよ、規格外な事くらい。
だからそれなりって言ったんじゃないか。
まぁ手加減スキルあるし、なんとでもなるんだけどねー。
「じゃあ、ニコラは俺が送っていこう」
「ルーファス、ありがとー」
「じゃあナタリーは僕が送るよぉ」
「よろしくお願いします」
「僕だけ方向違うしなぁ、1人寂しく帰ります」
「大丈夫か?変な奴に付いていくなよ?」
「行かないってば!」
失礼な奴だな!
僕がそんなに危なっかしく見えるのか?
こちとら27+7歳だぞ?
危機管理能力くらい備わってますとも。
寧ろ怪しい奴がいたら捕縛してやらぁ!
…いや、それがいけないのか、危ないよね。
現行犯じゃなければ、一旦スルーします、はい。
怪しいだけなら鑑定スキルさん使うくらいにしとこう。
「また遊ぶ時は、このブローチ付けようね!」
「さすがに俺達が街で付けてたら目立たないか?まだ浸透してないんだし…」
「いっそ普段から3人が付けて、社交界で流行らせればいいんじゃないの?そしたら平民でも流行ってくかもしれないよ?」
「ユーちゃんみたいに目立つ存在ならすぐ流行らせられそうだよねぇ」
「人を歩く広告塔みたいに言うなよ」
まぁ確かに僕は目立つだろうけどさ…
2人だって顔はいいし、ルーファスに至っては公爵子息だ。
宰相さんにも付けてもらえば一発だと思うけどなぁ。
「まぁ気に入ってるから、普段から付けるつもりだけどね。2人も付けてよ?」
「勿論だ、俺も手直ししてもらったこれ、気に入ってるからな」
「僕も気に入ってるから付けるよぉ」
よし、言質はとった。
…あ、そうだ。
「まぁナタリーとニコラも、出来れば普段から付けててくれる?」
「勿論です、ニコラちゃんとお揃いのリボンだって使いますわ」
「えへへ、あたしもー」
「じゃあ、まぁ…《このブローチ達がみんなを守ってくれますように》」
僕の言葉に、各ブローチのラインストーンが一瞬キラリと輝く。
その輝きは小さく、周囲の人にはわからなかったようだった。
でも4人には見えていたらしく、少し驚いたような表情をする。
「…今の、何…?」
「…ユーちゃん、なんかやった?ブローチから不思議な力を感じるようなぁ…?」
「んー?何の事かな?僕は言霊も詠唱も、何もしてなかったでしょ?」
「確かにしてなかったが…」
「なんだか、ちょっと恐れ多いものになりましたよね…?」
「気のせい、気のせい」
はっはっは、またみんなで楽しく遊ぶためのものだから、気にしない気にしない。
「じゃあ、みんな、またね!『レター』待ってるよー!」
さーて、聞かれる前に逃げろー!
僕は屋敷の方へ走り出した。
「…言い逃げされた感じが否めないが…またな!」
「よくわかんないけど、ありがとう!またねー!」
「親父殿には言えないよなぁ…また連絡するねぇ!」
「私も一旦秘密にしておきますわ、ご機嫌よう!」
背中から4人の声が聞こえたので、振り返らずに手だけ振った。
あぁ、今日は楽しかったなぁ!
またみんなで遊べるといいなぁ!
…あ、でもその前にメグ様案内しなきゃいけなかったんだ。
どうしようかなぁ、あの口調って特徴的でバレやすいし…
基本的に黙っててもらえばいっか。
いやでも、陛下の悪いとこが出てくると危ないよな…
…で、陛下はどうしたんだろう…
後でベティ様に『レター』するか、父様に聞いてみるかな…