心と体
ちょっと暗め?です。
2人の疑惑の目から逃れるように、僕とリリーは食堂を出た。
図書室も1階にあるらしく、案内してくれるリリーの後を付いて行く。
「ユージェリス様、先程のステータスでHPが減っておりましたが、お体の方は大丈夫ですか?」
「うん、特に問題ないよ。昨日まで寝込んでたわけだし、ちょっと体動かせば元気になるから。心配してくれてありがとう」
「私がユージェリス様を心配するのは当たり前です!本当に、あの日だって…」
「え?」
「あ、いえ…その…ユージェリス様が階段から落ちてしまわれた時、フローネ様だけでなく、少し離れたところに私とセリスも控えていたのです。お2人が落ちる直前、私達も手を伸ばしたのですが届かず…本当に、申し訳ありませんでした」
顔色を悪くしたリリーが僕に頭を下げる。
そっか、専属だもんな、近くにいたのか。
それは、本当に…
「…顔を上げて、リリー。謝るのは僕の方だ」
「ユージェリス様…?」
「僕達の不注意なのに、ずっと自分を責めていたんでしょう?ごめんね、そして、ずっと看病してくれてありがとう。リリーとセリスは怪我しなかった?」
リリーの頰に手を添えて、顔を上げさせる。
気持ちを伝えるなら、きちんと目を見て話したいからね。
僕の方が背が低いから、少し下から覗き込むような形になっちゃったけど。
すると何故か、リリーの顔が段々と赤くなっていった。
あれ?どうした?
「え、いや、あの…ふぇぇぇ…!!その、あの、怪我とか、特になくてっ!ちょっとセリスがバランス崩して転んでいましたが、膝を擦りむいたくらいでしたしっ…!!」
「え、セリス、転んだの?処置はした?」
「た、多分してましたぁ…!!」
大丈夫だったかな、セリス。
清楚系で大人しそうな感じだったし、黙ってないといいけど…
てか、なんでそんなにリリーはアワアワしてるの?
…あ、ちょっとなんとなくわかった。
すっかり自分の容姿を忘れてたけど、かなり将来有望な感じだった。
角度的にもめっちゃ上目遣いだろうし…
もしかして、ズキューン☆(←)しちゃったのだろうか。
うんうん、でもこんな可愛いイケメン候補から上目遣い&至近距離だったら、そりゃ赤くもなるか。
今後は使い所を気をつけないとな。
じゃなきゃただのチャラ男になっちゃう。
「これからは気をつけるから、リリーも怪我しないようにね?」
これで最後にしとこうと、頰に触れていた手を離して、軽く頭を撫でてから離れる。
あ、リリー、もっと顔赤くなった。
「ひゃいっ!!気をつけましゅっ!!」
あ、噛んだ、かーわいー。
…っと、ダメだな、なんとなく自分がチャラ男になりそうな予感だ。
一応正統派イケメン目指そうと思ってたのに。
だってさぁ、この容姿でチャラいと、ハーレムとか簡単に築けそうじゃん?
周りに女の子が勝手に集まって来そうじゃん?
前世で異世界ハーレム物とか色々、結構読んだよ?
面白かったよ、もちろん。
でも実際に自分が女から男になってみるとさぁ…
正直、女の子相手に恋愛感情を抱けるか疑問。
しかも前世の年齢より年下。
それに何人も相手してられない。
リリーは可愛いと思う。
フローネももちろん可愛い。
でも、全くドキドキとかはしない。
完璧に『若い子・幼い子は可愛いなぁー』の感覚。
あれだ、適切な言葉は『愛でたい』に尽きる。
かと言って年上とか男ならいいのかってわけでもなさそう。
母様はギリギリ年上だろうけど、美人だなーとしか思わない。
父様もめちゃくちゃイケメンだと思ったけど、ドキドキはしなかった。
前世ではテレビの中のイケメン俳優とか、出てくるだけで『きゃー!!』ってなれたのに。
あの気持ちにもならなかった。
これから色々な人に出会えば、この気持ちも変わるんだろうか…
『私』は女だけど、じゃあ『僕』は?
体は男でも、心は?
元々同性愛とかLGBTにも偏見はなかった。
だってそれも愛の形、みんな違ってみんないい。
だから前世ではNLだろうがBLだろうがGLだろうが、勧められれば読んできた。
だからもし自分がそうなったなら、きちんと自分を受け入れようとまで考えていた。
まぁ結局前世では恋愛対象は男だったし、少ない人数でも彼氏がいた。
でも、実際にそれに近い問題に立たされた今は…
「今はまだ…よくわからない(ぼそっ)」
「ユージェリス様?」
「なんでもないよ、リリー。さぁ、図書室に行こう!」
聞き取れなかった様子のリリーを誤魔化しつつ、明るく返す。
そしてリリーの手を引っ張って歩き出した。
そう、何も偏見はないのだ。
ただ思っていたよりも、この転生は心への負担が大きかった。
やはり目覚めた瞬間に発狂しておけばよかったのかな。
そしたら、その後冷静になれたかもしれない。
今はただ、考えれば考えるほどよくわからなくなっていく。
一体どうやって、この気持ちを吐き出せばいいんだろう。