熱烈な勧誘
「さて、それじゃあ本命、言い出しっぺのユズちゃんの番ね!」
「なんだか色んな材料探して使ってたみたいだけど、一体どんなものを作ったのかしら?」
「あはは、こんなの作ってたんですよー」
2人に促されて、僕は作ったものを机の上に置いた。
意外と上手く出来たと思うんだけどなぁ。
「「まぁ…!!」」
姉妹()が感嘆の声を上げる。
僕が置いたブローチ…ラペルピンは、例の如くバラモチーフにした。
白いバラのパーツがあったのでスプレーで青くして、広がり過ぎた花びら部分は身体強化スキルさんでへし折った、バキッと。
ちゃんとヤスリで突起部分は綺麗にしたから怪我もしません。
根元には葉っぱも付けて、そこから伸びた2種類のチェーン。
その先にはピアスのピンを代用して、黒いラインストーンで止めてみた。
本当はハットピンタイプにしたかったけど、ちょうどいいのがなくてなぁ…
とりあえず無難にチェーンタイプにした。
「やだやだ、素敵ぃ!!」
「2つ止める場所があるのね?!カッコいいわぁ!!」
「なるほど、これならバラもいいな」
「さっきのセリフさえなければめちゃくちゃ好みなのに…!!」
「素敵ですわ…確かに女性向けというより、男性にお似合いだと思います」
「カッコいいね!ユズ凄い!」
レオ以外は概ね褒め言葉だった。
いや、レオも褒めてるけど何かと葛藤してるようだな。
素直に認めてくれればいいのに…
「女性用のバラってちょっと大ぶりなんだよね。だから周りの花びらを1枚ずつ減らしてみた。小ぶりにしてキラキラ感が減れば、華やかだけどシンプルでしょ」
「凄いわねぇ…こんなの思い付けるなんて、才能を感じるわぁ…」
ティッキーさんが頬を染めながらため息をつく。
うっとり、って感じだね。
というか、こういうデザインが前世にあったなって思って作っただけだから、僕のデザインセンスってわけでもないんだよなぁ…
ちょっと罪悪感?
「ねぇユズちゃん!貴方さえ良ければ、うちの工房で働かない?!この男性向けブローチを大々的に貴族の方とかに売り出せば、絶対に高い利益だって出せるわ!!うちでデザイナーとして働いてくれないかしら?!」
ディッキーさんが僕の両手を握り、超至近距離で懇願してくる。
ち、近い…!!
目が血走ってて怖い…!!
「えぇっと…お気持ちは嬉しいんですけど…」
「何が不満なの?!利益の半分以上は貴方にお渡しするわっ!!」
「…あー…えーっと、その…」
どうする、なんて言えばいい?
貴族だから、とか言っちゃっていいのか?
でも貴族だって長男長女じゃなきゃどんな職に就くのも自由なわけだし…
さすがに愛し子だから1つの店を贔屓には出来ないんだ、とは言えないよなぁ…
「えーっと、ユーちゃんは王都の人じゃないんだよ!」
「そ、そうそう!別の領地の人なの!」
「それに親御様にもご了承いただけないと、まだ7歳ですから…」
「さすがに今すぐには答えられないと思うんだが」
事情を知ってる4人からフォローが入る。
そうだよね、さすがにこのまま身分とか偽って就職するわけにもいかないし!
少なくとも学院卒業してからじゃないとね!
「…そうだったわ、貴方達、まだ7歳なのね…」
ポカーンとした表情で、ディッキーさんが呟く。
おいおい、忘れてたんかい。
「そうねぇ、さすがに7歳になったばかりの子供に就職について言うのは早過ぎるわよねぇ…」
「どこかの学院に通う事になるんだろうし…この話を進めるなら、せめて卒業前よねぇ…」
「ちょっと先走り過ぎたわね」
「うぅっ…残念だけど、今は一旦諦めるわ…でもこの男性用ブローチは売り出す許可をちょうだいな…」
「あ、それはお好きにどうぞ」
ティッキーさんは残念そうにため息をつき、ディッキーさんは両手を顔に当ててショックを受けて崩れ落ちていた。
僕以外の4人がそれを見て慌てる。
「え、えと、あ、あぁ、ほら、もうすぐ陛下からの建国記念日の祝辞放送の時間ですわよ?!」
「あ、そうだね!そろそろだから、お店の外に行ってみようよ!」
「時間が経つのは早いなぁ!あははははぁ!」
「お2人共、この料金はいくらになる?」
「あー…うん、今回はみんなタダでいいわ。面白いものを教えてもらえたって事で、特別よ?」
「「「「「ありがとうございます!」」」」」
やったね、タダでゲットだ!
まぁ僕達が使ってれば社交界でも有名になるだろうから、一旦僕の事は諦めてほしい。
そう思っていたら、1年前みたいに耳がキーンとなる感覚がした。
おや?これは…
『リリエンハイド王国、全国民の皆さん、ご機嫌よう。私は、ベアトリス=リリエンハイド。これから本日の建国記念日を祝い、セテラート陛下に代わって祝辞を述べさせていただきます。また昨年、セテラート陛下からお達しのあった通り、私と同じく愛し子となった者についても、改めて通達致します』
…おや?ベティ様、陛下はどうしたの?
「あら…王妃様の声なんて、随分お久しぶりねぇ」
「王妃様が王妃様になられた時以来じゃない?お優しそうなお声よねぇ」
「陛下はどうかされたのかしら?」
「愛し子様についてのお話だから、王妃様がお話する事になったのかしら?」
姉妹()が首を傾げあって疑問を呟く。
…多分、それだけじゃない気がするのは、僕だけでしょうか…?
不意に肩を叩かれた。
振り返ると、僕の肩に手を置いていたのはルーファスだった。
後ろにはレオもいる。
2人とも、目が遠くを見ていた。
「…気のせいだ、うん。愛し子様の事だからだ、うん…」
「ルーファス…」
「ほら、王妃様のありがたいお言葉、外で聞こう?きっと陛下からも最後に一言いただけると…思う、しぃ…?」
「レオ…」
陛下とベティ様の関係性(?)を正しく理解している宰相子息様と諜報員子息様よ…
お前らの目が信頼に欠けるんだよ…!!




