ブローチ作成
「それで?誰が何を作りたいのかしら?」
「え、と…あの…」
「あらあら、緊張してるのぉ?ほんっとーに可愛いんだからぁ!」
ティッキーディッキー姉妹()に囲まれたレオは顔面蒼白のまま言葉を詰まらせていた。
あー、これはもう話せないやつやぁ…
「あの、僕達と彼が作りたくて…彼女達は付き添いなんですけど…」
「あぁ、そうなのねぇ。貴方達、お名前は?」
「ユズです」
「ルーファス…」
「ナタリーです」
「ニコラです!」
「…れ、レオ、です…」
どうやらレオも本名は名乗らないらしい。
いや、名乗りたくないだけか。
「なるほどねぇ、どんなのをご所望なのかしら?」
「ブローチを作りたいんです」
「あら、お母さんへのお土産?」
「いえ、自分用に、今日の記念として」
「…貴方達、可愛いけど男の子よねぇ?それともそういうのに興味あるの?」
「男性がブローチを付けるのも、ありだと思うんですけど。考えてみて下さい、例えばそこのレオ」
「ぼ、僕ぅ?!」
「彼がとても素敵な、貴族の着るようなジャケットなどを着てるとするじゃないですか。似合いそうでしょう?しかし地味な色合いで華がない。そこにキラキラ輝くシンプルな翼をモチーフとしたシルバーのブローチなんかが付いていたら…?」
僕の言葉に、2人は宙を見る。
どうやら想像しているようだ。
「…あり、ね」
「いえ、寧ろ素敵だわ」
「翼のモチーフよりも、1枚の羽根とかの方が良くない?」
「宝石は付け過ぎない方がいいわね、あくまでワンポイントとか」
「胸元に本物のバラを付けても枯れてしまうけど、ブローチなら枯れないし、ずっと付けておける。つまり…『このバラは、貴女への愛の証なのです。ほら、枯れる事なんてないでしょう?』」
「「いやぁ〜ん!!!素敵ぃ!!!」」
僕の迫真の演技に、姉妹()が体をくねらせながら悶える。
レオに置き換えて妄想したのかな?
そんなレオの口元はヒクついていた。
ルーファスは少し興味深そうに目を輝かせ、ナタリーとニコラは自分にされた場合を想像したのか、少し顔を赤らめている。
「いい!いいじゃない!!なんて事なの、ブローチは女性のものなんて誰が決め付けたの?!」
「男性への可能性を見出せたわ!!ユズちゃん、凄いわ!!」
「というわけで、作ってみたいんです。よろしいですか?」
「「勿論よ!!アタシ達も作るわ!!」」
という事で、レッツ☆メイキング!
…没頭する事、半刻。
全員完成しました。
ちなみにナタリーとニコラも一緒に作ってた。
『お金はないらしいけど、待ってる間暇だろうから作っててもいいわよぉ!今度お金持ってきて受け取りに来たっていいしね』だそうだ。
まぁ確かに後日取りに来ればいいんだろうけど…ニコラは明日には領地に帰ってしまうからなぁ。
もし気に入ったのが出来たら、2人の分は僕達で割り勘して買ってあげるか。
「さーて、みんなで発表会よぉ!最初はそうねぇ、ニコラちゃんから行きましょうか」
「はーい!」
ティッキーさんの指名に、ニコラが元気良く手を挙げる。
大きな作業台を囲むように座っていたので、ニコラは持っていたものを真ん中に置いた。
…ぶどうだ。
見事なぶどうだ。
2種類の色の違う紫のラインストーンと、シルバーの葉っぱで出来た、ぶどうのブローチだった。
…さすが食いしん坊、ある意味期待を裏切らない。
でも結構可愛いな。
「あらっ、ぶどうね!いいじゃなぁい!」
「中々上手に出来てるわねぇ」
「あぁ、ニコラっぽいな」
「うん、ニコラっぽいねぇ」
「え?どういう意味?」
「そのままだよ、ニコラっぽくていいと思うよ、可愛いよ」
「ええ、とてもお上手です。ニコラちゃんにお似合いで可愛いですよ」
「そ、そうかな?さっきのリボンと合わせたらいいかと思ったんだぁ、えへへ…」
ルーファスとレオ以外に褒められて、ニコラも満更じゃなさそうに照れている。
なるほど、リボンに合わせて紫のぶどうにしたのか。
「じゃあ次はナタリーちゃんね」
「はい、私はこれです」
ナタリーが机の上に置いたのは、蝶々に小花が付いたブローチだった。
蝶々と小花には小さなラインストーンが少し付いている。
蝶々には紫、小花にはオレンジ。
…まぁ意図する事はわかった。
なんだかんだ、ナタリーは随分ニコラを気に入ったんだな。
「綺麗な配置ねぇ、お上品でいいわぁ」
「デザインセンスがありそうねぇ。既存パーツじゃなければもっといいのが出来そうだわぁ」
「綺麗だな」
「うん、ナタリーに似合いそうだよねぇ」
「2人の瞳の色が入ってて、仲良し具合が良く分かるね」
「あ、これあたしの?うわぁ、嬉しい!」
「ニコラちゃんのもリボンに合わせてくれてて嬉しかったですわ」
いいねぇ、可愛い女の子が嬉しそうに笑ってるって。
眼福だわぁ。
「じゃあ次は…ルーファスちゃんね!」
「男用のブローチなんて難しかったが…こういう感じでいいのだろうか?」
ルーファスがおずおずと机の上に置く。
元々はペンダントトップ用だった十字架を加工して、茶色のラインストーンを真ん中に付けたものだった。
うん、シンプル!
もっと加工したらカッコよくなりそうだなぁ…
「なるほどねぇ、ペンダントトップがこうなるのねぇ」
「ブローチにするなら、もっとここが長い方がバランス良さそうねぇ」
姉妹()は既存パーツの方の改善点を話していた。
「でも十字架っていいね、ルーちゃんに似合ってるよぉ」
「そうですね、でももう少し追加で付けても良さそうですわ」
「うん、かなりシンプルだもんね!」
「いまいちよくわからなくてな…」
「良ければ少しそれに足そうか?」
「うむ、後で頼む」
どうしよっかなぁ、ちょっとチェーンでも足そうかな。
カッコよくなりそうだし!
「じゃあ次はぁ、レオちゃんよっ」
「ひっ…は、はい…」
うーん、まだ怯えてるのか。
そんなに苦手なのか?
少し手を震わせながら、レオが机の上に置く。
そこには片翼モチーフのシルバーに緑のラインストーンが3つ付いたブローチだった。
ふむ、中々カッコいいじゃないか!
「あらあらあらぁ、素敵ぃ!」
「元々バレッタ用に作ったやつね!サイズ感がちょうど良くていいわぁ!」
「あぁ、なるほど、これはいいな。シンプルだが地味過ぎない」
「さっきユズ君も言ってましたもんね、翼がモチーフのものって」
「バラにしなかったの?」
「しないよ!!」
ニコラの質問に、涙目で叫ぶレオ。
なんだよ、さっきの僕の演技がそんなに嫌だったのか。
レオにもバラが似合うと思ったんだけどなぁ。
チャラ男感が強いし。
まだ7歳なのに、将来に不安を感じるくらい。
「レオは生花のバラの花束も似合うと思うよ。そうだなぁ…『あぁ、君が綺麗すぎてこの花束も霞んでしまうな…だけど、僕の気持ちと思って受け取ってくれるかい?次は君の輝きに見合うくらいの、素敵な指輪をその薬指のために用意してみせるからさ』ってとこか」
「「あぁ〜ん!!!素敵な指輪待ってるわぁ!!!」」
「やめろぉ!!!!!」
姉妹()の黄色い悲鳴を掻き消すような、レオの悲鳴が工房に響く。
どうやら効果抜群のようだ。
ちなみにルーファス達は机に顔を突っ伏して失笑してた。
ふふん、一矢報いてやったぜ?レオさんよぉ!
レオ は 100 の ダメージ を 受けた!