意外な繋がり
「にしても、見失ったな。さっき肉って言ってたけど…」
人が多くて見つからない。
魔法使ってもいいけど、身バレは困るからなぁ…
いや待てよ?
そういえばこの道ってさっき僕が通った道だ。
肉ってもしかして、あの肉串のおっちゃんのとこかも。
「この先に肉串売ってるとこあったから、とりあえずそこに行ってみない?」
「はい、そうしましょう」
僕はナタリーの横に立って、一緒に歩き始めた。
手を繋いでもいいけど、誰かに見られて変な噂されたら困るからなぁ。
多分ナタリーも困るだろうし。
小さい体を生かして、人の隙間を通り抜けていく。
案外簡単に肉串のおっちゃんのところへ着けた。
…あぁ、やっぱりいたわ。
「ニコラ、ルーファス、レオ」
「あ、ユズ!ナタリーちゃん!」
「勝手にいなくならないで下さいまし」
「ごめんごめん、意外とニコラが早くてさぁ」
「振り返ったら2人がいなくて少し焦ったよ、悪かったな」
「ごめんねぇー」
「お?さっきの坊主じゃねぇか。コイツらお前の友達だったのか」
全く、ニコラの食いしん坊には困ったもんだ。
肉を焼いていたおっちゃんが僕に気付いて声をかけてきたので、笑って挨拶する。
「こんにちは。うん、さっき言ってた友達なんだ」
「じゃあこの5本って注文は、そっちの嬢ちゃんが3本食べるって事じゃなかったんだなぁ」
「そんなに食べないよ!ちゃんとみんなの分だよ!」
「まぁ金が足りなくて俺の奢りだがな」
「うっ…」
やっぱり足りなくなったのか。
そしてそんな妹(仮)のためにルーファスが払った、と。
今度ロイド様に告げ口しておこう。
僕から言ったら顔面蒼白になりそうだな、あの人。
「ほーら、焼けたぞ!冷めないうちに食え!」
おっちゃんが僕達に肉を配る。
気を使ってくれたのか、僕の肉串はさっきと違ってタレ付きだった。
うん、結構美味い。
このおっちゃん、料理スキル高そうだな。
「おいしー!!おじさん、これ美味しいよ!!」
「本当だな、凄く美味い」
「家の料理より美味しいかもぉ〜」
「おいひいでふわ」
「そうかそうか!そりゃ良かったな!」
大きな口を開けて、豪快に笑うおっちゃん。
中々気持ちのいい人だ。
どことなく誰かに似てる気がしないでもないけど。
「おっちゃん、料理スキル高そうだねぇ」
「まぁな。自慢じゃないが、侯爵家の料理長といい勝負出来るくらいなんだぜ?」
「…侯爵家?」
「俺の年の離れた弟が侯爵家の料理長やってんだ。最近はなんか元気なかったりしてたけど、アイツも中々の腕でなぁ」
…なんか、デジャヴ?
あれちょっと待って、すげぇ既視感。
今更になって、まじまじとおっちゃんの顔を見る。
ガタイのいい体に、少し色黒の肌。
黒の短髪をオールバック風に後ろに流していて、瞳は濃い茶色。
…あっ…(察し)
「へぇ、どこの侯爵家なの?いくつもあるよねぇ?」
「それがなんと、その昔王女様が降嫁した、あのアイゼンファルド侯爵家なんだよ!大体の奴がこの話すると、驚いてくれるんだぜ?」
おっちゃんがニヒルな笑みを浮かべる。
うん、驚いたよ、そりゃあもう。
なんなら1周回って冷静になるくらい。
…あれれー?なんだろー?
おっちゃん以外のみんなが僕を見てくるよぉー?
「ユズ君…」
「言うな、何も言わないでくれ。黙ってればいいんだ、うん」
「「「「…」」」」
みんなが生暖かい目で見てくる。
なんだよ、その『変装しててよかったネ』みたいな目は。
本当だよ、変装してなきゃすぐバレてたわ。
下手したらセイルから僕の容姿を聞いてるかもしれないし。
寧ろ噴水のところまで持たずに屋敷に帰還だわ。
セイルのお兄さんなら、絶対ポロっと大声で僕の正体言っちゃうやつだよ。
例え愛し子ってバレなくても、貴族子息がこんなとこにいたら一応アウトなんだから。
…セイルがここにいなくてよかった。
多分普通に屋敷にいるはずだよな、今日会ってないけど。
これはさっさとこの場から撤退しなければ。
「あー、僕、お肉食べたら喉渇いたなぁ。飲み物探しに行かない?」
レオ、まさか僕に気を使って…!!
なんていい奴なんだ…!!
「なんかユーちゃんが奢ってくれるらしいからさぁ」
…この野郎、僕の感動を返せっ!!
「そうか、なら向こうに生搾りフルーツジュースが売ってたから、そこに行こうか。結構高かったが」
ルーファスぅ!!
何それ、素なの?態となの?!
…あ、素っぽい、目がキラキラしてる。
単純に飲みたかったのね?
「わーい、フルーツジュースだぁ!」
「え、ええっと…ご馳走様、です」
何も考えてないニコラと、察してるけど今更やめさせる事が出来なくなったナタリー。
ナタリーの表情からは『ご馳走様』というよりかは『ご愁傷様』みたいな雰囲気だった。
どことなく可哀想なモノを見る目をしてる。
いいよ、ナタリー、君だけでもわかってくれるなら…
但しレオ、お前は本当にいつか泣かす。