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誤解の恋愛小説

楽しかった。

ものすごく楽しかった。

語彙力が足りない、楽しかった。


みんなでジュース買って飲んだり、美味しそうなお菓子買って食べたり。

そんな美味しいわけでもないけど、お祭り効果で美味しく感じるという不思議。

あとは露店に並ぶアクセサリーを見て回ったり。

ニコラが値切りした時は驚いた。

一応貴族令嬢でしょうが。

それとは逆に、ナタリーはお嬢様っぷりを見せてくれた。

謎の壺を買おうとした時には全員で止めたよね。

鑑定スキル使って見たけど、なんてことないボロ壺だったのに。

本人曰く『お店の方が幸せになれると言ったので…』だと。

やめてくれ、なれないから。

そんな壺に縋りたいほど幸せを求めてるの?


そんなこんなで、広場の中を1周し終わってしまった。


「どうする?広場以外も見てみる?」

「そうだな、少し外れたところも見てみようか」

「他にも美味しいものあるかなぁー?」

「ニコラちゃんったら。さっきも食べたじゃないですか」

「甘い物は別腹だよ!至る所からいい匂いがするんだもん、耐えられなーい!」

「お金はまだあるの?僕貸さないからね?」

「うっ…」

「そういえば、ユーちゃんってどっからお金出してるの?さっきはポケットからそのまま出してたよねぇ?」


そう、僕はポケットからそのまま硬貨を出していた。

何故ならお財布は持ち歩いてないから。

ポケットの中で指を鳴らしてアイテムボックスを開き、そこから取り出してたんだよね。

ちなみに結構な所持金です。

父様が去年魔物討伐した時の報奨金を、誕生日にそのままくれたんだよね。

7歳になったからって。

なので僕は結構小金持ち。


「そこは魔法でなんとでもなりますとも」

「え?偽造品?」

「そういうんじゃないから。人をなんだと思ってるの」

「でもユズならなんでも出来そうだよな」

「あ、確かにー」

「ユズ君は多才ですものね」

「褒められた気がしない…」


何故だ、ナタリーの言葉に裏を感じる。


「あ!お肉売ってるー!」

「こら!ニコラ!待て!」

「ニコラ危ないよぉー」


肉の匂いに釣られたニコラが、1人で突っ走る。

それを追って、ルーファスとレオが走り出した。

残ったのは僕とナタリー。

…初めて2人きりだな、ちょっと聞いてみようか。


「ねぇ、ナタリー」

「はい?」

「さっき王城で僕を見てた理由を聞いてもいいかな?」


僕の言葉に、ナタリーの足が止まる。

振り返ってナタリーを見ると、その顔はポカーンとしていた。


「…な、なんの事です?」

「いやぁ、誤魔化せてないから。悪意は感じなかったけど、めちゃくちゃ視線は感じてたからね?」

「…だって、その…まさか噂のお方が来るとは思わなかったので、つい…」

「噂?」

「あの、控え部屋の時やその後の行動などについて、皆さんとお話してたんです…まるで小説に出てくる王子様のようだ、と…」

「え?それで見てたの?」

「えと、あの…ユー…ユズ君は小説とか読まれます?」

「え?あぁ、まぁ読んだりもするけど」

「あの…『心に咲く真実の愛』という恋愛小説はご存知ですか…?」


…いや、それは読んでないなぁ。

暗記スキルさんが反応しない。

というか、恋愛小説系は屋敷の図書室にもなかったし、父様も借りてこないからなぁ…


「ごめん、知らないなぁ」

「あの、簡単に言うと、身分の低い女性が王族や高位貴族の男性に見初められて、求められるという内容なのですが…恋敵の高位貴族令嬢とかも出てきて、嫌がらせを受けたりですとか…」


…よくある乙女ゲーか?

誰だ、それ書いたの。

過去の愛し子が関わってる気がしてならない。


「それで、その…皆様とニコラちゃんの容姿がその小説の登場人物に結構似てらして…お立場もちょうどと言いますか…」


うーん、まぁ確かにありえそうなメンバーだよね。

王族(ではないけど血縁者の僕)に宰相子息(かつ公爵子息のルーファス)に伯爵子息(言わずもがなレオ)と、身分の低い女性(一代限りの士爵令嬢のニコラ)という組み合わせ。

現状は取り合いとかそんなん全くないけど、はたから見ればまるっきり乙女ゲーじゃん。


「それで、そのタイミングで私のところへいらしたから、もしかして私は恋敵の令嬢の立ち位置かと思いまして、ついじっくり観察を…」

「いや、そんな事はないんだけど…ちなみにその小説では恋敵の令嬢はどうなるの?」

「主人公の女性を刺し殺そうとして、王族の方にその場で一刀両断、斬り殺されますわ。それを見た主人公は、その王族の方と結ばれます」

「なんて内容の小説を読んでるんだよ」


7歳児が読む内容じゃなくない?!

絵本とはではいかないけど、そんな猟奇的な最期を迎えるのはダメでしょ!

しかもどうして目の前で人を殺した相手と結ばれた?

『私の事を守ってくれた!きゅんっ!』って事?

恋は盲目過ぎるでしょ、スプラッタじゃなかったの?

内容読んでないけど、脳内お花畑主人公な気がしてならない。

まさかそんな小説の恋敵の令嬢ポジションだと思ったから、さっきの幸せの壺(偽)を買って幸せになろうとしたの?!

やめて下さい、誤解です。


「姉が持っていた小説でしたので、私が買い求めたわけではないのですけれど…先程のデイジー様達もお母様やお姉様が持っていたものを見たそうです。他にも本の趣味などがあって色々と深い話が出来て…あぁ、いえ、それはなんでもないんですけども!」


アワアワと何かを隠すように言い澱むナタリー。

なんの本読んでるんだろ…

とりあえず、そこは置いておこう。


「まぁ実際、そんな事にはならないでしょ。例え王太子が士爵令嬢を見初めたとしても、現実的にはなれて側室だよ。国を想えば王妃教育も何もされてない人を突然王妃になんて出来ないし、国の仕事なんてさせられない。側室にして国の重要な仕事はさせずに、只々愛でるのみだね。そんな嫉妬に狂った令嬢を王妃には出来ないだろうけど、理解のある令嬢とかなら問題なく娶れそうだし」

「…それもそうですわね。つい小説の中のお話なので深くは考えずに真実の愛が結ばれて良かった、と納得してましたけど…その後が描かれていないのは、そういう都合だったのかしら」

「まぁ、可能性はあるね。ただの高位貴族くらいならなんとかなるかもしれないけど、王族を選ぶのは無謀過ぎる。他国にだって行ったりするんだから、ある程度教育がしっかりしてる人でなければね。恋敵の令嬢がきちんとそれを考えてた人だったなら、嫌がらせもしょうがないとも言える」


まぁ小説に深く考えてはいけないか。

あくまでフィクションなんだから。

乙女ゲーも、自分が主人公の立場だから不思議に思わないんだ。

悪役令嬢の立場だったらまた視点も変わるよ。


「驚きましたわ…そうですね、私も伯爵令嬢ですもの、状況によってはやりかねませんわ…視点を変えるって大切ですわね…」

「相手の気持ちを考えるのは大事だよ。気をつけないとね。さて、誤解は解けたかな?」

「はい、変なお話をしてしまって申し訳ありませんでした。これでニコラちゃんとも仲良くなれそうですわ」

「すでに仲良く見えるけどねぇ」


意外といいコンビだと思う。

天真爛漫だけど意外としっかりしてるニコラと、ちゃんとした令嬢だけどたまに天然入ってるナタリー。


…こういうアイドルユニットいたら、売れそうだな。

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