陛下と王妃と母様と
「貴方はね、陛下の甥なのよ」
…おい、甥?
え、甥?!
って事は王族なの?!
いや、でもうち侯爵家でしょ?!
あれ?身分制度ってどんなだったっけ?!
アワアワとしていると、母様が可笑しそうにこちらを見ていた。
あ、笑いを堪えてる。
「…っふふ、いい反応ね。ちゃんと説明しますから、落ち着いてお聞きなさいな」
「…ハイ」
「甥というのはですね、私が陛下の異母妹だからですよ。先代陛下の側室腹だったので、貴方のお父様と恋に落ちて問題なく降嫁しました。ちなみに陛下は先代陛下の王妃様のお子です」
「という事は…母様は元王女様?」
「えぇ、すごいでしょう?」
はい、すごいデス。
そうか、だから甥なのか…
いやぁ、本当にユージェリス君はスペック高いなぁ、陛下の甥だなんて。
「なので貴方が意識不明で倒れた事も陛下にご報告済みです。陛下は貴方と産まれた時にしかお会いした事はありませんが、陛下はとても心配なさっていましたよ。本来、我が国では陛下との謁見は社交界デビューである7歳になる年の建国記念日が最初になる予定ですが、甥である貴方は王位継承権を持っていますので、産まれた際に謁見しています」
「王位継承権?!」
「まぁその際に継承権は放棄していますが」
「放棄?!」
「今考えると英断でしたね。愛し子様が継承権を持っていると、良からぬ輩共に祭り上げられる可能性がありますから。それでは陛下や王太子様方に面目が立ちません」
…それもそうか。
本来なら第一王子とかが継承するべきものなのに、順位は低いけど継承権持った規格外の愛し子がいたら、精霊様を神聖化してる人達はそちらを選んでしまう、と。
話を聞く限り、母様と陛下は仲が悪くないみたいだし、波紋を広げたくないんだろう。
それに僕だって王様にはなりたくない、めんどくさい。
…あれ?じゃあ…
「あの、王妃様は愛し子様なんだよね?もしかして愛し子様だったから王妃様になったの?」
「いいえ、あのお方は元々公爵家のご令嬢で、王妃候補だったのです。そして王妃様になる事が決定した後に愛し子様になった、という訳です。その時点で別人のようになってしまわれましたし、愛し子様の意見が最優先ですから、王妃辞退の選択肢が与えられました。そしたらですね…うふふ…」
母様が笑いを堪えられず、肩を揺らす。
横にいる父様も少し困ったように笑いながら、続きを教えてくれた。
「陛下は…その、別人のようになってしまった王妃様に懸想なされたんだ。それまでは政略結婚のようなものでお互いの気持ちはなかったんだが、愛し子様の王妃様にそれはそれは惚れられて…あの時は本当に、大変だった」
「あの時のお兄様ったら…!!なりふり構わず告白なさるものだから、本当に面白かったわ…!!なのに王妃様はどうでも良さそうな反応で王妃辞退を申し入れるし正反対すぎて…あらやだ、取り乱しちゃったわ」
昔を思い出して遠い目をする父様と、呼吸を整えつつ笑う母様。
なるほど、中々面白かったらしい、その状況。
見てみたかったなぁ、っていうか、もっとその話聞きたい。
一方、ロイ兄様とフローネはポカーンという顔で固まっていた。
「まぁ色々あってな、最終的には恋愛結婚をなさった。愛し子様だったから王妃様になった訳ではないよ。いや、ある意味愛し子様になったからと言えなくもないが…」
「それ以降、お兄様…じゃなくて陛下は恋愛結婚推奨派になりましてね。私達の結婚にも大賛成で降嫁させて下さいましたのよ。なので基本的にこの国では政略結婚はあまりいい顔されないのよ、陛下が渋い顔するから」
「はぁ、なるほど…」
どんだけ王妃様に惚れちゃったんだ、陛下。
国の認識まで変えるとか。
ぜひ詳しい話を聞いてみたい。
「陛下にお前の事を話した時には、それは心配なさってな。毎日のように私の職場に来ては様子を聞いてくるんだ。この前目覚めた日の翌日に報告したら、それはそれは我が子の事のように喜ばれていたぞ」
「あの時は愛し子様だと思わず、ただ衝撃で記憶を失ったとばかり思っていましたからね…陛下にもまだお伝えしていないのですよ」
「じゃあこの後父様は陛下に謁見して、僕が愛し子様だとお伝えして、確認と認定のために謁見の日程を決めてくるって事?」
「まぁそんな感じだな。ユージェリスはまだ本調子ではなさそうだし、とりあえず図書室で魔法を使って勉強でもしていなさい。その後も調子が良さそうだったら、庭園でも屋敷の中でもなんでもリリーを連れて散歩してみればいい」
「はい、父様。ありがとうございます」
うーん、陛下との謁見は緊張するなぁ。
しかもその後は国民周知があるし…
魔法に姿変えるやつとかないかな。
お忍びとかこの髪じゃ出来ないだろうし、変装したい。
ウィッグだと取れたら困るし、色を変えたいよなぁ。
「じゃあリリーさん…じゃなくて、リリー。図書室連れてってくれる?」
「はい、ユージェリス様。こちらでございます」
「ん、ありがとう」
リリーに椅子を引かれて、立ち上がる。
その音で両脇の2人がハッとした。
今の今までポカーンとしたままだったようだ。
「お、お兄様!私も参ります!」
「フローネ、お前は今日テーブルマナーの授業があるだろう?きちんと出席しなさい」
「うぅ…」
「じゃあ僕が…」
「ロイヴィスちゃん、貴方は今度の夜会用の衣装合わせのために私と服飾店へ行くのでしょう?まさか私1人で行かせる気かしら?」
「い、いえ、僕も行きます…」
しょぼん、と縮こまる2人。
その可愛らしい姿に、つい苦笑してしまう。
「フローネ、授業は何時に終わるの?」
「4時です…」
「じゃあ夕方は屋敷の中を案内してくれる?フローネに色々教えてほしいな」
「…っはい!お兄様!」
フローネの顔がパァァァっと明るくなる。
「ロイ兄様は今日は服飾店に行かれたら、その後の予定は?」
「今日は僕、お休みの日だから…どれくらいかかるかわかんないけど、夕方には帰ってくると思う」
「じゃあ兄様には庭園とか外の案内をお願いしたいな。3人で色々探検しようよ」
「うん、任せて!」
ロイ兄様も笑顔になる。
うんうん、2人とも可愛いなぁ!
「…扱いが上手いな、まるで私なんかと歳の変わらない人間みたいだ」
「本当にねぇ…」
…父様達の呟きは聞こえなかった事にしよう。
えぇ、実年齢は父様達とほぼ同じ、アラサーですからネ。