気になる視線
「あ、そういえば女の子に1人心当たりがある」
レオが思い出したかのように声を上げる。
うん?心当たりあったのか。
「どこのご令嬢だ?」
「スタンリッジ伯爵家の三女だよ。親父殿と会った事があって、会話した事がある」
「どんな娘なの?」
「うーん…恥ずかしがり屋?変わり者?多分前に会った時は外面で話されたけど、内面は違うんだろうなぁって感じ?」
「変な感想ね」
「実際変な娘だと思ったんだもん、ちょいちょい地が出ちゃってたしぃ?」
「まぁとりあえず会ってみようか、レオ、案内して」
「はいはい、承りましたぁ〜」
レオが周りをキョロキョロ見回し、目当ての相手を見つけたようで歩き出した。
僕達はその後ろを付いて歩く。
…あれだね、僕達が移動すると、色んな人の視線も付いてくるね。
あと、コソコソ付いてくる人もいる。
バレてないと思ったのか?デブハゲ伯爵野郎。
「あ、いたいた。ナタリー嬢〜」
軽く手を振って、レオが気軽に話しかける。
紫がかった黒髪に、アメジストのようなツリ目気味な紫の瞳。
綺麗系というより、可愛い系?
顔立ちは日本人っぽいというか、意外と和服とかも似合いそうだよねって感じ。
そんなナタリー嬢は話していた他の女の子との会話を止め、こちらを目を向けた。
そして一瞬固まってから口元に笑みを浮かべる。
…ちょっと作られた笑顔っぽいな。
「まぁ、レオナルド様、お久しぶりにございます」
「久しぶりぃ。ごめんね、話してるところ」
「いいえ、大丈夫ですわ。ね、皆様」
「え、えぇ、そ、ソウデスワネ…」
「お、お気にナサラズ…」
「大丈夫、そう、大丈夫デスワ…」
おぉ、こちらの3人はめちゃくちゃ動揺してるよ。
僕達、というか僕のせいかなぁ…
「ごめんねぇ。ナタリー嬢のお友達かな?」
「えぇ、先程仲良くなりましたの。名前を名乗っても?」
「勿論。ねぇ、2人共?」
「ん?あぁ、勿論」
「構わない」
レオが確認してきたので肯定する。
まぁこのメンバーなら僕とルーファスの方が身分上だしね。
僕達が許可しないと挨拶は出来ない、と。
その肯定の言葉を聞き、緊張で固まっている3人のうちの1人がぎこちなくドレスの端を摘み、カテーシーを取った。
「め、メルグフール男爵令嬢、デイジー=メルグフールと申します」
「トリファス子爵令嬢、シンディ=トリファスと申します」
「お、同じくドロシー=トリファスと申します!」
デイジー嬢に続いた女の子達は、どうやら双子のようだった。
…あんまり似てないから、二卵性かな?
シンディ嬢は赤みがかった茶髪に焦げ茶の瞳、ドロシー嬢はオレンジがかった茶髪に焦げ茶の瞳だ。
一方デイジー嬢は父様に似た青みがかった黒髪に黒の瞳。
全員顔は整っていて、デイジー嬢は姉御系、シンディ嬢は大人しい系、ドロシー嬢は元気系って感じかな?
うんうん、擦り寄ってこないところは好感が持てる。
というか、伯爵以上の娘って無駄に高望みする傾向があるのか?
ある意味それ以下の爵位の娘の方が身の程を知ってる傾向が…
いや、まぁ、偏見かもな、うん。
「改めまして、スタンリッジ伯爵令嬢、ナタリー=スタンリッジと申します」
「あ、えと、フラメンティール士爵令嬢、ニコラ=フラメンティールと申します…」
「アイゼンファルド侯爵子息、ユージェリス=アイゼンファルドです」
「オルテス公爵子息、ルーファス=オルテスだ」
こう見ると、ナタリー嬢の外面は完璧な令嬢って感じだな。
ちょっと目付きは鋭いし、たまに僕の視線が外れてる時にこっちをガン見してるのもバレバレだけど。
なんでこんなに見られるんだ?
知り合いではないし、もしかしてレオみたいに事前に愛し子だって知ってたパターン?
「…あの、失礼ですが、そちらのニコラ様は皆様とどういうご関係ですの?」
「あぁ、私の父の部下のご令嬢で、先程親しくなったのですよ」
「は、はい、仲良くさせていただいておりますです、はひ」
ナタリー嬢に見つめられて、ニコラが噛みながら返事をする。
これが蛇に睨まれた蛙ってやつ?
敵意は感じないけど…
「それが如何しましたか?」
「…いえ、なんでもありませんわ。それより、私に何かご用でしょうか?」
ニコラを見つめる事をやめ、ナタリー嬢はレオに向き直る。
レオはニコニコしていた。
「いやぁ、ナタリー嬢、この後暇かなぁって。暇なら僕達と一緒に王都でお忍び散策しない?」
「…え?」
「どうせなら何人かで行こうかと思って、誘いに来たんだよねぇ。前に遊びに行ってみたいって言ってなかった?」
「え、えぇ、申し上げましたけど…その、皆様とですか?」
「うん、僕達4人と。ニコラが女の子1人で寂しいかなって思って、他の女の子探してたんだよねぇ。でもほら、ユージェのお眼鏡に叶う娘があんまりいなくてさぁ…」
「…随分と、仲がよろしいのですね」
「うん、友達になったんだぁ」
「…そうです、わね。特にこの後は予定もありませんので、問題はないのですが…」
「そちらのお嬢さん達は?」
「も、申し訳ありません、この後婚約者の方のお家に呼ばれておりまして…」
「わ、私達はまだ両親にお忍びを認められていなくて…」
「ちょ、ちょっと聞いて参りますわ!」
「あぁ、いいよ、そんな強制するものではないし。許可がもらえるようになったらまた出かければいいんだからねぇ」
「は、はい…」
ふむふむ、デイジー嬢は婚約者がいるのか。
なら余計に僕には恋愛関係として擦り寄ったりしないはずだな。
それで婚約破棄になったら傷付くのは彼女だし。
婚約者いるのに擦り寄ってくるのはただのバカだからな。
そして双子令嬢は親が厳しいのかな?
まぁ大事な娘を大切にしたいタイプなのかもしれない。
「じゃあ、決まりだね。ナタリー嬢は僕が迎えに行こう、家近いし。着替えて待っててねぇ」
「はい、わかりましたわ」
「よし、じゃあ、また後でねぇ」
「では、デイジー嬢、シンディ嬢、ドロシー嬢、また今度」
「ご、ご機嫌よう」
「またいずれ」
「「「「ご機嫌よう」」」」
僕達は軽く挨拶を交わし、その場を去る。
まぁどこで集合とは言わなかったから、余計な人は来ないだろ。
すげぇ聞き耳立ててた奴とかいたしな。
さっき4人で話してた時は周りと距離あったし、そんなに大きな声で話さなかったから大丈夫でしょ。
「さて、みんな、家から出る時に尾行されないようにね」
「あぁ、そうだね、気をつけていかないと」
「どういう事?」
「俺…というよりも、この場合はユージェ目当てが大きいかな。誰かが尾行されてユージェに接触してきたら困るだろう?折角変装しても、俺達が近くにいればわかるだろうし。こっちは平民を装ってるんだ、接触なんて簡単だろうな」
「な、なるほど…どうしよう、わかるかなぁ?」
「なら俺が迎えに行こうか?家はどこだ?」
「え、えと、お城から見て右側の端っこの方で…あ、すぐ近くに火の門があります!」
「あぁ、火の門の近くなのか。ならうちと方向は一緒だな。では火の門で待っていてくれ、一緒に行こう」
「え、でもルーファス様のご迷惑に…」
「それくらい問題ない。それよりも後で騒動になる方が困るしな。あぁ、それに俺の事もユージェみたいに呼び捨てで構わない。王都に行くのに様付けや敬語だと怪しいからな。それに、俺とも友達になってくれるんだろう?俺もこれからはニコラと呼ばせてもらう」
「…うん!ありがとう、ルーファス!」
嬉しそうに笑うニコラ。
ルーファスも口角を上げて、少し柔らかい表情をしていた。
お、これはちょっといい感じか?
身分差は結構あるけど、もしそういう関係になるなら全力で祝福を…
「…こんな妹欲しかったな…」
おい、そういう事かよ。
ニコラを理想の妹扱いかい。
「あたしもお兄ちゃん欲しかったから、嬉しい!」
ニコラもいいのか、それで。
…まぁいっか、お互いが納得してるなら。
そんな2人の様子を、レオが生暖かく見ていた事を後でルーファスに告げ口しておこう。
あと、ナタリー嬢のあの視線はなんなのかな?
まだ見られてる気がする…
友達になれそうだし、出来れば仲良くなりたいんだけどなぁ。
…あ、メグ様探しとかないと。