肉食系の集い
ダンスホールに着くと、さっきよりも沢山の視線に囲まれた。
まぁさっきはメグ様だったから、一応僕の従兄弟だしね。
でも今度はみんながほとんど知らないような女の子。
誰だ?!ってなるよねぇ。
まぁ、もし友達に悪い事考えてるような人がいたら、容赦はしないけど。
さーて、踊るかな。
ニコラの腰を持ち直し、曲に合わせて踊り出す。
「ゆ、ユージェ、なんか凄い見られてる…?」
「まぁ相手が僕だからね。一応愛し子なんで」
「あ、あぁ、そっか…つい忘れちゃうけど、そうだよね…それにユージェってよく見るとカッコいいし、余計に目立つんだね…」
「よく見るとなの?」
え、意外と自分の容姿に自信あったんだけどな。
ナルシストなわけじゃないけど、ちょっとショック。
そんな表情を隠しつつ、ニコラをターンさせる。
うん、ドレスが綺麗に広がっていいね。
「あぁ、ごめん、実は私、あんまり目が良くないの。生まれつきなんだけど、近付かないとハッキリ見えなくて…その分、鼻がいいんだ。だから今日は豪華な料理の匂いがもうヤバくて…」
そうなんだ。
だからさっき声かけた時も反応がなかったのか。
それにダンスが苦手な理由って、周りがよく見えないからかな?
おっと、知らない人にぶつかりそうだ。
ニコラの腰を引き寄せて、動きの方向を変える。
「眼鏡はかけてないの?」
「普段はかけてるけど、それでも周りが見にくいしね。今日はドレスに合わないから外してきたの」
「…治してみる?僕なら出来るかもよ?」
「うーん、難しいんじゃないかな?どんな魔法でも生まれつきの病気は治せないって言うし。父さんでも治せないからね」
「へぇ…でも僕、愛し子だよ?出来ない事なんてないかも」
「過信は良くないよ?」
まぁ、確かにそうだ。
少し調べてからだな。
ニコラはいい子だ、僕に頼りきったりしないし。
「それにしても、ユージェは本当にダンス上手いね!人の足踏まなかったの初めてだよ!」
「それは良かった、楽しめてる?」
「うん!」
ニコラが楽しそうに笑う。
この表情見ると、僕も楽しくなってくるな。
あ、もう1曲終わる。
早かったなぁ。
「はい、フィニッシュ」
ニコラの背を少し反らせて、決めポーズ。
うーん、決まった!
周りからも拍手もらっちゃった。
そのままダンスホールから出て、人集りの中に戻る。
「とっても楽しかった!ありがとう!」
「どういたしまして。僕も楽しかったよ」
「あ、あの!」
ん?僕かな?
振り返ると、そこには数人の女の子達が立っていた。
…先頭にいるのは、あの時の公爵令嬢だ。
え、何、もしかして僕、肉食系にロックオンされちゃった?
「改めまして、カルデラ公爵令嬢、チェルシー=カルデラと申しますわ。控え部屋では突然失礼致しました。もしよろしければ、私と1曲踊っていただけませんか?」
公爵令嬢…チェルシー嬢は両手を胸の前で組み、僕に向かって少し上目遣いで窺ってきた。
まだぺったんこの胸を無理矢理寄せても谷間は出来ないぞ?
にしても、金髪碧眼縦ロールって実在したんだなぁ。
あれだ、フランス人形っぽい、怖い奴。
それにしても…この娘、素でぶりっ子なのか?
これが可愛いと思ってやってるのかなぁ…
元女としては、ただただ不快なんだけど。
あの、男ウケするけど女ウケ最悪ってタイプの子だよね、これ。
嫌だわー、そういうの嫌だわー。
「申し訳ありませんが、今踊り終わったばかりですし…」
「次の次の曲で構いませんわ!」
「えっと…」
「そちらの士爵令嬢とは踊られて、私とは踊っていただけないというのですか?」
ちょっと強気に、僕に近寄って上目遣いのまま尋ねてくる。
うわぁ、そんなガツガツこられるとちょっと引くわぁ…
しかもさり気なく、ニコラの事下に見てる言い方だし。
そういうのはいただけないね。
「申し訳ありませんが、私は友人としか踊るつもりがないのですよ。貴女は私の友人ではありませんので」
「ゆ、友人?では、私と友人に…」
「本当に?絶対に友人ですか?愛し子の私に対して、精霊の名に誓って?」
「うっ…」
無理だろ、絶対に恋愛関係になる事を望んでるんだから。
対してニコラは、少なくとも現時点では恋愛感情がまるでない。
多分『美味しい料理 > 僕』だからね。
…自分で言っててちょっと虚しい。
僕、結構ハイスペックのイケメン候補だよね?
「で、ですが、ユージェリス様にも結婚するお相手は必要でしょう?他の女性と踊る事は、陛下が推奨する運命の相手を探すのに必要な事ではありませんか?」
…うーん、それは確かに一理ある。
でもこの娘はないんだよなぁ、なんというか苦手だ。
いや、フランス人形に似てて怖い、のか?
そういうのをハッキリ言ったらマズイよな…
「でもそれこそユージェ…リス様が決める事じゃないですか?もし友人じゃなくて踊りたい女性がいたら、彼から声をかけるんじゃないんですか?」
まさかのニコラから最高のキラーパスが来た!!
そうだよ、その通りだよ!!
これなら遠回しに断れる!!
「そうだね、もし好みの女性がいたら、自分で誘うよ。誘われてから踊るなんて、マーガレット王女くらいかな?一応従兄弟だからね」
「え?!マーガレット王女様、従兄弟なの?!」
「どれだけ周りに興味ないの?!」
驚くニコラに、こっちが驚いたわ。
アイゼンファルド侯爵家って有名だと思ったんだけどなぁ…
それに一応君のお父さんの上司だぞ?
あ、なんか僕達のやりとりに、チェルシー嬢が口を開けてポカーンとしてる。
こんなに砕けて話す相手だと思わなかったのかな?
「というわけで、友人のニコラは自分で誘ったけど、今のところ他に踊ろうと思ってる女性はいないですね。それでは、失礼します」
「ご、ご機嫌よう」
ニコラの腰を引き寄せて、僕は女の子達の横を通り過ぎる。
…ん?なんかチェルシー嬢の後ろにいる女の子が数人、ニコラを睨んでるな…
釘を刺しておくか。
いくらニコラが無意識に虐めをスルーしそうだからと言っても、虐めを容認するわけじゃないからね。
「これは独り言なのですが、私は友人を大切にします。愛し子である私が言う意味、まさかわからない人はいないと思っていますが…敵対する人がいないといいのですがね。私は自分の敵には、容赦しないので」
ついでとまでに、マントで隠れた右手で指を鳴らす。
殺気とか強い魔力とかを当てたかったんだけど、やり方わかんないから指パッチンにお任せ。
多分『スレット』辺りが近いと思うんだよね、威嚇とか脅しとかそういう感じだし。
魔法を当てられた女の子達は、顔を真っ青にして膝から崩れ落ちていった。
…え、やりすぎた?ごめんなさい。
そんなに強くしたつもりはなかったんだけどな…
「ゆ、ユージェ?なんか、後ろが…」
「ん?どうしたんだろうね?ほら、レオ達のところへ早く戻ろうよ。次はデザート食べない?」
「あ!食べる!まだ食べてないんだぁ」
ニコラが目をキラキラさせて僕の手を引っ張る。
とりあえず、早くここから逃げよう。
僕はそのままニコラに引っ張られてった。