食いしん坊令嬢
緩くウェーブのかかった暗い茶色の髪を揺らしながら、彼女はムシャムシャと美味しそうに肉料理を食べていた。
うーん、お父さんのロイド様に似て美形なのに、なんてもったいない…
「なんかもったいない子だよねぇ」
「あ、レオもそう思う?黙って微笑んでたら、すぐに婚約者とか出来そうだよね」
「黙ってらんないんじゃない?」
「だろうね、あの感じだと」
レオと同意見だ。
でも、そういう子の方が友達として付き合うなら面白いよね。
僕達は彼女の背後に立ってみた。
ちなみに周りは僕達に注目してる。
元々彼女の食べっぷりに周りが唖然として見てたところに、僕達が近付いてるもんだからね。
「ねぇねぇ、どの肉料理がオススメ?」
「何が美味しかった?」
レオがいつもの笑顔を浮かべて、彼女に尋ねる。
それに乗っかるように僕も質問した。
…おっと、これは聞こえてないな?
反応がないわ。
なんかナンパに失敗した気分だ。
「そこのお肉食べてるお嬢さーん」
「オススメはー?」
「うーん、やっぱどの料理も美味しいけど、この煮込んであるやつかなー?隣の焼いてあるのも美味しかったけど」
…返事はあったけど、こっちを見ずに答えられちゃった。
料理から目を離さないわけね。
しかもそれで会話が終了、と。
しょうがない、とりあえず僕達も食べてみるか。
「じゃあ僕はその煮込みを食べてみよう。レオどうする?」
「僕は隣のにしてみよっかなぁ」
新しい皿を取り、お互い目当ての料理をよそる。
赤ワイン煮みたいなお肉の煮込みだった。
うん、柔らかくて美味しい。
さっき向こうで食べた料理よりも好みだな。
「あ、確かにこれ美味ーい」
「こっちも美味しいよ」
「そうなの?じゃあ、あーん」
「ん?あーん」
「あ、本当だ、めっちゃ美味い。ユージェもこっちの食べる?はい、あーん」
「あーん…うん、美味しいねぇ」
…って、何ナチュラルに食べさせっこしてるんだろ。
微妙にお行儀悪いよね?
というか子供だから微笑ましいけど、大人だったらやっちゃいけないやつじゃん。
「…意外とユージェが普通にあーんしてくれたりして驚いたぁ」
「なんだよ、冗談でやったのか。普通に気にせずやっちゃったじゃないか」
あぁくそ、可笑しそうに僕を見て笑いやがって。
いつか足元すくってやる。
「…あの」
「「ん?」」
声をかけられたからそちらを見ると、例の彼女がこちらを見ていた。
おぉ、瞳がオレンジ色っぽい。
なんだかポカーンとしてるな。
「…お貴族様も、そんな事するんだね?」
「いや、おふざけだったというか、普通はやらないんだけど…」
「…あれ?その格好、さっき騒がれてた子?」
「その覚え方どうなの?」
「いやぁ、お腹空いててあんまり話聞いてなくて。しかも緊張もしてたから、余計に周りを見てなくて…」
「…じゃあ改めて自己紹介しようか。アイゼンファルド侯爵子息、ユージェリス=アイゼンファルドと申します」
「ウィンザー伯爵子息、レオナルド=ウィンザーと申します」
「え、侯爵?!伯爵?!え、えと…フラメンティール士爵令嬢、ニコラ=フラメンティールと、申します…?」
「何故疑問形」
「挨拶として合ってるか自信なくて…えと、何か用?じゃなくて、何かご用ですか?」
「ニコラ嬢のお父上にお世話になりまして、先程ご挨拶いただいてね。その時、娘さんがいるって言うから」
「あぁ、父さんから。あら?その料理、美味しいよね。あたしも気に入ってるの」
「いや、ニコラ嬢が教えてくれたんだよ?」
「え?あたし?…あ、さっき聞いてきたの、2人だったの?!」
どんだけ周りに興味なかったんだよ。
中々マイペースな娘だなぁ。
「あぁ、しかもまた敬語忘れちゃった…」
「いや、別にいつも通り話してくれて構わないよ?」
「え?でも、侯爵と伯爵だし…」
「親がね。僕達は同じ貴族の子供ってだけだしぃ、気軽に接してくれればいいよぉ」
「そ、そう?じゃあ、普通に喋るね!それにあたしの事はニコラって呼び捨てでいいよ」
「じゃあ僕はユージェで」
「僕はレオでいいよぉ」
よーし、普通の女の子友達ゲット!!
いいねぇ、さっぱりした性格だし、媚も売ってこない。
気が楽だ!
「でもユージェは普通じゃないか」
「失礼な、愛し子ってところを抜けば普通だわ」
「いやいや、愛し子様は抜けないでしょぉ」
「え?」
レオの発言に、ニコラ嬢…改め、ニコラが固まる。
ん?何かあった?
「…ユージェ、愛し子様なの?」
「え、そこすら聞いてなかったの?さっきあれだけ騒いでたじゃん」
「…空腹で意識がどっか行ってた」
マジかよ。
ある意味すげぇな。
「え、え、ほ、本当に?」
「このマント見てなかったの?」
僕はニコラに背を向けて、紋章を見せる。
ニコラは開いた口が塞がらないようだった。
「うっそ、偽物?!」
「なんでだよ」
「えぇー…え、ちゃんと話さないと殺されちゃう?馴れ馴れしくしたから殺されちゃう?」
「いや、僕達が許可したんだからなんもお咎めないよ」
「じゃ、じゃあ友達に自慢してもいい?愛し子様と仲良くなったって!」
「誇張したりしなければいいよ?というか、友達いたの?」
「いるわよ!へ、平民の子だけど…元々あたしだって平民だし、近所の子達とは今でも仲が良いんだから」
「へぇ〜」
「こんなところにいたのか、2人共」
「探したぞ、どれ、妾も何が食べようかのぅ?」
ダンスを終えたメグ様とルーファスが戻ってきた。
おぉ、なんか段々人が増えてるな。
友達とみんなで会話するって、なんか久しぶりで楽しいなぁ!