興味の対象
「の、のぅ、ユージェよ。もし良ければ妾と踊ったりしないか?」
メグ様が僕の服を少し引っ張りながら、尋ねてきた。
うーん、ダンスかぁ…
この1年、やった事ないんだよね。
一応スキルは持ってるけど、なんとかなるかな?
「構いませんが…下手かもしれませんよ?」
「いいのじゃ!妾だってそんなに上手くはないからの!」
「では、お手をどうぞ?マーガレット王女」
僕はメグ様に手を差し出す。
嬉しそうな表情をして、メグ様は僕の手に自分の手を重ねた。
…ダンスホールまでの道のり、めっちゃ色んな人に見られてたわ。
いや、今もずっとか。
僕は音楽に合わせてメグ様の腰を抱き、流れるように踊り始めた。
…おぉ、すげぇ、体が勝手に動く。
しかも無意識だけど、メグ様のフォローまで出来てる。
メグ様が僕の足を踏みそうになったら、半歩下がって躱し、そのまま踊り続けられた。
いやぁ、ユージェリス君、スキル取得しててくれてありがとう!
「…楽しいのぅ。ユージェ、そなたとても上手いではないか」
「スキルありますからね。補正はバッチリです」
「…この後は誰かと踊るのか?」
「うーん、他に知り合いの女性はいないですし、状況次第ですね」
「そうか…」
ん?心なしかメグ様嬉しそうだな。
ちょっとフローネに似てるな、その反応。
やっぱりこれは恋愛感情っていうよりか、家族愛的なものだよね。
ならここから、恋愛感情を向けられないようにしないとなぁ…
メグ様はいい子だけど…なんか、結婚相手としては違うというか。
そうこうしてる間に僕達は1曲終え、そのままみんなのところへ戻る事にした。
あ、ベティ様はまだいるけど、陛下がいない。
「ユージェ、凄いダンス上手いな」
「すっごいカッコ良かったよぉ」
「ありがとう。2人はダンスしないの?」
「相手がいないからな」
「僕は考え中〜」
「なんじゃ、ルーファス、相手がいないのか?では妾と踊ってもらおうかの」
「…正直、ユージェの後に踊るのはキツイんですけど…お相手よろしくお願いします」
僕の手を離れて、メグ様がルーファスの手を取った。
そしてまたダンスホールへと戻っていく。
うんうん、あの2人も中々お似合いだなぁ。
「ユージェリス、本当にダンス上手かったぞ」
「なんだか服装も相まって、王子様みたいだったわぁ」
「まぁ王族の親類でもあるんだし、王子様っていうのも強ち間違いではないわね」
「…ベティ様、あの、陛下は?」
「…知らないわ、あんな男」
あぁん、ベティ様、お目目が怖いですぅ…
もう陛下の事聞くのやめよう…
「あぁ、こちらにいらしたのですね、師長」
聞いた事のある声の主へ目を向けると、そこには父様の部下のロイド様がいらした。
僕達の前に立つと、王妃様や父様達に一礼する。
「あら、第3師団長じゃない」
「ご無沙汰しております、王妃様」
「そうか、お前の娘も今年デビューだったな」
「えぇ、そうなんです。といっても我らは一代限りの貴族位ですからね。本来ならここにいるはずもない身分ですので、まぁ記念にという感じですが」
…そういえば、ロイド様は士爵だったな。
準男爵とは違って、世襲が出来ないってやつ。
じゃあその娘さんっていうのは、何か功績を上げて家が爵位を上げるか、貴族と結婚しなければ平民になるのかぁ…
「あぁ、ユージェリス様、この度はデビューおめでとうございます」
「ありがとうございます、ロイド様。それと先日はお世話になりました」
「いえいえ、お気になさらず。それよりもあのポーションは素晴らしいですね。効果もそうですが、何より味に驚きましたよ」
「不味いと飲む気になれませんから」
確かに、と呟いて、ロイド様は苦笑した。
すると母様が少し周りを見渡してから、小首を傾げてロイド様に尋ねる。
「それで、その娘さんはどちらにいらっしゃるの?」
「…ええっと、その、あそこに…」
少し目線を逸らしつつ、ロイド様が指を指した。
僕達はその先を目で追う。
…なんか、凄いお皿に料理盛ってる女の子がいる。
え、あれですか?
「…お恥ずかしい限りですが、あまり周りに無関心でして…『どうせ平民に戻るなら、今日は記念に美味しいもの食べて帰る』と…」
「…中々思い切りのいいお嬢さんだな」
「えぇ、誰もいないのをいい事に、お肉があるコーナーの前に陣取ってるわねぇ…」
「令嬢としてはいけないのかもしれないけど、個人的には好ましいわね」
ベティ様がコロコロと笑う。
まぁ確かに同意見だな。
ちょっと興味湧いてきた、どんな子だろ。
周りに無関心なら、僕の事も友達として接してくれるかな?
「…ロイド様、娘さんに声をかけてみても?」
「えぇ?!いや、ですがユージェリス様、娘はその、結構変わってるといいますか、そんなに礼儀正しいわけでもなくてですね…」
「面白いじゃないですか。異性の友人が欲しかったんですよ。彼女のお眼鏡に叶えば友人として扱ってくれそうです」
「それは…まぁ…はい…」
ここまで娘を勧めない親ってのも面白いな。
ちょうど肉食べたかったし、ちょっと近寄ってみよう。
「父様、ちょっと友達作ってきてみます」
「あぁ、嫁候補ではないんだな」
「相手を知らないのに候補には出来ないよ。それより何より友達に!」
「いってらっしゃい、ユージェリスちゃん」
「どんな子だったか、後で教えてね」
「じゃあ僕も付いて行こうかなぁ、ユージェだけだと勘違いする奴とかいそうだしぃ」
確かに、レオの言う通りだな。
よし、レオも巻き込もう。
僕達は不安そうな顔をするロイド様を放置して、お肉エリアを陣取るお嬢さんのところへ向かっていった。
一体どんな子かなー?