心に芽吹く何か
料理はまぁまぁだった。
フェルが作ったのかな?
「やっぱ王城の料理って美味いよねぇ」
「あぁ、さすがフェルナンド殿だ。うちとはレベルが違う」
…一般的にはそういう反応だよね。
僕、というか僕の料理を食べた事がある人はちょっと舌が肥えてるというか…
いや、多分日本のご飯が美味しすぎたんだよな、うん。
「ここにいたのか、ユージェリス」
呼ばれて振り返ると、そこには父様と母様がこちらに向かってくるところだった。
あ、なんかちょっと疲労の色が見える…
「父様、母様、大丈夫?」
「まぁ、なんとかな。さっさと逃げてきたさ。おや、そちらは…」
「お初にお目にかかります。オルテス公爵子息、ルーファス=オルテスと申します」
「ウィンザー伯爵子息、レオナルド=ウィンザーと申します」
「あぁ、宰相閣下の息子さんと、ハロルドのところの息子さんか」
「ハロルド?」
「うちの親父殿」
「あぁ、なるほど」
「あらあら、随分仲良くなったのねぇ。ユージェリスちゃんの母のマリエールです。よろしくね」
「知ってるとは思うが、ルートレール=アイゼンファルドだ」
「「よろしくお願い致します」」
ルーファスとレオが頭を下げる。
父様は満足そうに笑ってた。
どうやら父様達のお眼鏡に叶ったようだな。
「そういえば、さっきは大丈夫だったか?あれが例の…」
「みたいだね。多分もう今日は来ないと思うけど…」
「厄介なのに絡まれたよねぇ」
「本当にうちの妹を思い出すから、出来ればもう関わりたくないな」
眉を下げながら笑うレオに対して、ルーファスは本気で嫌がっていた。
そんなに妹さんに似てるの?
出来れば会いたくないわ。
「ユージェリスちゃん、他に女の子とは仲良くなったの?」
「いや、なんかみんなこっちを狙ってる目をしてて、怖くて…強いて言うなら、マーガレット王女様とお話はさせていただいたよ」
「うぬ、従兄弟同士であるからな」
声に驚いて横を向くと、メグ様が笑いながら立っていた。
後ろには顔色の悪い陛下と、微笑んでるベティ様もいる。
「メグ様」
「まさかユージェが愛し子様とは思わなんだ。他の者なのかと思っておったぞ。ほう、ここに隠しておったのか」
メグ様は僕に近付き、ハットに付いたレースリボンを持ち上げてメッシュを確認した。
「最初から目立ち過ぎるのもどうかと思ったので」
「だがその格好では普通に目立っておったぞ?」
「最終的には目立ってもいいかな、と」
「なるほどのぅ」
「あらあら、マーガレットは随分ユージェと仲良くなったのねぇ」
「母上、ユージェと既に会っていたのか?」
「私だって愛し子よ?何回か会ってるし、貴女よりも仲良しよ?」
「むぅ、狡いのぅ。妾も早くから会って仲良くしたかった」
「…そうか、メグはユージェリスが気に入ったのか!うんうん、ユージェリスならいいな!遠くに行く必要もなくなるし!」
突然、顔色の悪かった陛下が嬉しそうに声を上げた。
周りの全員が意味を理解出来ず、小首を傾げる。
「ルート、マリエール!どうだ、ユージェリスをメグの婿にくれないか?!」
「「「「は?」」」」
ベティ様、父様、母様、僕の声がハモる。
ルーファスとレオはぽかーんと口を開いて呆けていた。
え?何言ってんの、この人。
どうしてそんな考えに達するの?
「可愛いメグをその辺の男や他国の王族にやるのは不安だったからな。ユージェリスを婿にもらって王城で一緒に暮らせばいいじゃないか!」
…親バカ?
メグ様が大好きなんだろうなぁ、ベティ様にそっくりだし。
普段はまともなのになぁ…
…あ、ベティ様の笑顔すらなくなった。
目が…怖いです…
「陛下…私、貴方のそういうところが本当に嫌いよ」
「え?!ベティ?!」
「気安く呼ばないで、不愉快よ」
「…す、すみません…」
「何故私が怒っているかわかっていないのに謝らないで下さる?」
「…はい…」
うわぁ、陛下半泣きじゃん。
こんな人の多いところで…
あ、でも大人は見慣れてるのか、ちょっと呆れた顔してる人もいる。
驚いてるのは主に身分の低い人やデビューの子達だね。
普段会ってない人とかか。
「母上、何をそんなに怒っておるのじゃ。妾は別にユージェと婚約しても構わんぞ?」
「それは相手の気持ちを確認してから言いなさい。王女だからって上から目線で物を言わないの。この国の中では、貴女よりもユージェの方が高位の存在よ」
「…そうであった、ユージェは愛し子だった」
「ユージェ、貴方も別に婚約は望んでいないんでしょう?」
あはは、さすがベティ様、よくお分かりで。
どちらかと言えば、今のところメグ様は僕の中で友達候補なだけなんだよね。
好きか嫌いかなら好きだけど、そういうんじゃない。
「そうですね。恐れ多い事ですが、婚約については確定しないでいただけると」
「だそうです。自分で恋愛結婚推奨しておいてなんですか。そのつもりもない者に婚約を勧めるなんて、政略結婚と同じです。貴方はマーガレットに甘過ぎるのです」
「はい、すみません…」
「マーガレット、貴女も発言には気を付けなさい。自分が特別な存在であると過信しない事です」
「はい…」
あぁ、怒られてる姿がそっくり…
親子だなぁ…
するとメグ様が僕の方を見て、おずおずと近付いてきた。
「すまんのぅ、ユージェ…あまり考えずに婚約などと言ってしまって…」
「いえ、お気になさらず。わかっていただけたならいいのです。まだメグ様も7歳ですし、これから振る舞いについて学んでいけばいいのです。一緒に気をつけましょうね」
僕はメグ様の頭を軽く撫でつつ、微笑んでフォローした。
…いっけね、フローネにするみたいにしちゃったよ。
やばいかな、不敬かな?
頭に手を置いたままメグ様の顔を少し屈んで覗き込むと、見る見るうちに顔が赤くなっていった。
…おや?
「…ユージェは、優しいのぅ…」
「え?あ、まぁ、目くじら立てるほどじゃないですし…」
「…ユージェ、あの、その…もし妾がまた良くない態度を取ってしまったら、指摘してくれるか…?」
「あぁ、はい、そうですね。メグ様のためにならないような事があれば、お伝えさせていただきますよ」
「か、必ずだぞ?ちゃんと言って、それで妾が考えを改めたら、またこうやって褒めるのだぞ?」
「はい、メグ様。仰せのままに」
…なんか、懐かれた?
ちょっと可愛いかも。
もう1人妹が出来た気分、同い年だけど。
「…あれ、惚れられてない?」
「俺にはよくわからんが…まぁ、好意は持たれてそうだな」
ボソボソと小声でルーファスとレオが話しているのが聞こえる。
いやぁ、これは別に恋心ではないでしょ。
…多分。