嵐の令嬢
僕達3人は目を見合わせる。
全員、まさか、ねぇ?とでも言う顔だった。
まるで油を注していない機械のように、ぎこちなく振り返る。
…うん、まぁ、声でわかってたけどさ。
人違いとか幻聴とか、一縷の望みにかけたかったんだよ…!!
あのいつもヘラヘラしてるレオでさえ笑った口が引き攣ってた。
ルーファスはもはや真顔だ。
ルーファスって動揺すると真顔になる癖があるみたいだな。
さっきもそうだったし。
「あぁ、ユージェリス様!ほら早く、私と踊って下さいませ!1番最初に踊るのは私じゃなきゃ嫌ですわ!」
「…失礼ですが、お嬢さん。彼は愛し子様であり、そう気軽に誘っていい方ではないのですよ?」
口は引き攣ったままだが、いち早く回復したレオが伯爵令嬢との間に入ってくれた。
レオ、ありがとう…!!
それを見てハッとしたのか、ルーファスも僕を背に隠すような立ち位置に移動した。
ルーファス、カッコいい…!!
「ちょっと、お退きなさい!私はユージェリス様にお話しているのです!」
「ですから、そう簡単にお話出来る方ではないのですよ?」
「貴方達だって気軽に話しかけてるじゃない!」
「我々は彼公認の友人ですから。友人が気軽に話しかけて、何がいけないのですか?」
「友人如きが何よ!私はユージェリス様の婚約者になるレディなのよ?!」
なんねぇよ!!!
なんなの?本当になんなの?!
あ、レオもちょっと青筋立ててる!!
そうだよね、言葉が通じなくて困るよね?!
「…彼にその気はないと思いますが?先程もお断りしていましたよね?」
「ユージェリス様は恥ずかしがり屋なのです!私からアピールしないといけないのですわ!」
お前に俺の何がわかるんだよ!!!!
…いけないいけない、またキレそうだった。
てか、よく見ると伯爵令嬢の後ろの方に親のデブハゲ伯爵がいるじゃん。
何応援するような表情してんの?
お前か、お前が嗾けたのか!!
ふざけんなよ?呪いってやろうか。
「…レオ、ありがとう。自分で言う」
「ユージェ…」
「ユージェリス様!さぁ、私と…!!」
「うるせぇ」
「「「え」」」
…しまった、体裁がどっか行っちゃった。
落ち着け、こんな人の多い場なんだから、暴言はオブラートに包まないと…
いやでも、包んだらこのクソ女には伝わらないんじゃ?
…断るのはきっぱりとだな。
「失礼、少々本音が。先程も彼が申し上げた通り、私は貴女と踊るつもりは全くありません。恥ずかしがり屋?私の何を知ってるというのですか。先程初めて会い、顔目当てで暴走していただけなのに。婚約者?ただの奴隷契約のような書面に無理矢理サインさせようとしただけでしょう?私が貴女と結婚する事は絶対にありえません。精霊様の名にかけて誓ってあげましょう」
あ、伯爵令嬢の顔色が変わった。
さすがに名にかけて誓ったら効果抜群か。
にしても、結構な人数がこっち見てるな。
さすがに愛し子が騒いでればそうなるよね。
「ゆ、ユージェリス様…あの…」
「名前を呼ばないでもらえますか?許可した覚えはありませんよ。貴女に対して名乗ってすらいませんしね」
そうだよ、僕名乗ってないや。
名乗られたけど…この娘、なんて名前だったっけ?
えっと、デブハゲ伯爵がエリーって呼んでたのは覚えてるんだけど…
忘れないようにして、関わらないつもりだったから…
まぁいっか。
「ルーファス、レオ、行こう。僕お腹空いたから、なんか食べよ」
「あぁ、俺も小腹が空いたな。甘い物もあるだろうか」
「ルーちゃんって見た目によらず、甘い物好きだよねぇ。まぁ僕もだけど」
「へぇ、じゃあ今度なんか作ってあげるよ。僕、たまに料理するから」
「え?!それって『領域の料理』じゃないの?!いいの?!」
「友達だろ?それくらい作ってやるって。それに今、2人には助けてもらったしな」
「そうか、では楽しみにしてるぞ」
「わーい、親父殿に自慢しよーっと」
2人は僕を守るように左右に立って、そのまま一緒に歩き出した。
本当にいい友達が出来て良かったなぁ。
あ、もちろん伯爵令嬢は放置です。