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消えた記憶《sideベアトリス》

「…そんな事が…」

「幸いにもすぐに目覚められたので大事には至りませんでしたが…」

「その黒い瘴気については早急に調べた方がいいな。後でアレックスかロイドは私に付いて、もう1度屋敷を調べよう」

「なら俺が行きますよ。ロイドは明日からの領地視察の準備があるはずですから」

「そうだな、頼んだ」

「はい」


3人の会話が進む。

私はその会話を聞きつつ、自分の考えを纏めていた。

…まさか、柚月ちゃん自身の魔力を暴走させたのかしら…?

でも皐月さん…ローレンスさんからは、そんな話聞いた事ないし、私だってこの世界に来てから不安やストレスを抱えてても、暴走させる事なんてなかったわ。

なら黒い瘴気っていうのが原因?

柚月ちゃんが狙われているの?

あぁもう、そういう推理系は苦手なのにぃ〜!!

基本推理小説とかも推理しないで読み進めるタイプなのよ!!


「そういえば、王妃様。ユージェリス様から『レター』を預かって参りました」

「私に?」

「王妃様だけにお見せして欲しいとの伝言でしたが…」

「受け取ります」


第3師団長から封筒を預かる。

中を開くと、書いてあったのは日本語だった。

…これは確かに、私だけに見せた方がいい手紙ね。

見られても読まれる事はないけど、人によっては魔法印の漢字と同じ文字だと気付かれるかもしれない。

あの魔法印は最初見た時驚いたわねぇ…

エセ中国語でよく反応するものだわ。

さてさて、内容はっと…


『愛梨さんへ

こんにちは、お元気ですか?

実はさっき、なんか変な黒いモヤモヤした瘴気?に取り囲まれました。

あれってなんなんでしょうね?

なんか魔力がなくなった感覚があります、実際にクラクラするし。

僕が出しちゃったのかと思ったけど、なんか違う感覚がするというか…

それは一旦置いといて、ちょっとお聞きしたい事があります。

愛梨さんは、前世の記憶をどれだけ覚えてますか?

年齢や職業の他に、家族の顔や名前、職場の上司や同僚に後輩、過去の恋人、学生時代の友達…寧ろ学生時代の事とか。

全て覚えてますか?

黒いモヤモヤに囲まれる前に夢を見てたんですけど、それが前世の内容で。

実際にあった事だと思うんだけど、いつの事か全然思い出せないんです。

そこから記憶を遡ってみたんですけど、不自然なまでに思い出せない。

いろんな知識はあるんです。

でも、それを習った時の状況とかがわからない。

今でもはっきり覚えてる日常の記憶は、あの死んでしまった日だけ。

仕事の途中で、車にぶつかったという、あの。

この世界で目覚めた時は、まだ覚えてたような気がするんです。

前に27歳のOLだったと言ったけど、今考えるとなんの仕事してたかとか、取引先の会社とか、何も…

これは、私だけですか?

愛梨さんもですか?

愛し子はみんなそうなんですか?

教えて下さい。

柚月より』


…記憶が、ない…?

そんな馬鹿な、ちゃんと覚えてるわよ?

『あたし』は笹川愛梨で、30歳で、看護師で…

夜勤中には同僚達と恋バナなんかして、早く彼氏とか欲しいわねぇって話してて…


「あ…え…?」


…待って、夜勤中に、恋バナしてたのは誰とだった?

同僚達って、誰の事?

なんで?思い出せない。

15年も経ったからかな、そうよね?

嫌ねぇ、歳取るって。

なら、『あたし』の学生時代は…


「…嘘…」


…『あたし』、なんていう小学校の出身だった?

中学は?高校は?大学は?

…友達の名前も、思い出せない…


「じゃあ、家族は…?」


…お父さんがいた。

お母さんは『あたし』を産んで亡くなったと聞いた。

お兄ちゃんがいた。

でも…


「…名前が、思い出せない…?」


顔は、覚えてる。

あれがお父さんで、あれがお兄ちゃん。

お母さんは写真で見た事がある。


…なんで、気付かなかったの?

そうよ、この世界に来て、最初は戻りたくて仕方がなかったから、毎日日本での日々を思い返してた。

でも1ヶ月くらいしたら、同じくらい毎日陛下からアプローチされて、周りの人達と接して、案外面白い場所だと思うようになって、日本の事を考えなくなって…


…いつから、こんなに記憶が欠如していたの?


「王妃様?如何されましたか?顔色が…」


ルートレールが私の顔を見て、心配そうに眉を下げた。


「…なんでもないわ」

「ユージェリスからの『レター』、そんなに重要な事が書かれていたのですか?」

「…そう、ね。愛し子としてはかなり重要な事がね。ただ今回の件とは関係ないかもしれないけど…」


…多分だけど、記憶が欠如しているのは、この体に馴染んだからだと思う。

以前、ローレンスさんが難しい事を言っていたわ。

この世界の体と別世界の魂が結び付けば、それは新たな生の誕生なのだ、と。

新たな生には記憶などない、あるのは染み付いた知識なのだ、と。

ローレンスさんの言い方は難しくてよくわからない事が多かったし、領地も離れてたからあまり会う事も出来なくて詳しくお聞き出来なかったけど、もしかしたら今回の件はそれに関係してたのかもしれない。

…今度、ウルファイス伯爵家からローレンスさんの日記か何かを持ってくるように言付けましょう。

そこに答えがあるかもしれないわ。


「…まさか、今更になって気付かされるとは…」

「え?」

「なんでもないわ。ユージェは本当に、凄い子ねって事。手紙から察するに、多分、魔力が暴走してその黒い瘴気ってやつが発現したわけではなさそうよ。どちらかと言えば、ユージェを狙って瘴気が発現した、と考えた方があり得るかしら」

「…愛し子を狙った犯行、だと?」

「私が狙われていないから、なんとも言えないけど…まぁ、可能性としてはね。勿論、ユージェが暴走したという可能性だって考えられるし、暫くは本人の様子を見た方がいいわね」

「承知しました」


私の意見に、ルートレールが頷く。

あぁ、もう、なんでこんな事が起こるのやら…


ちょっと色々調べておくから、暫くは大人しくしててちょうだいね、柚月ちゃん。

「皐月」が前愛し子様の前世の名前です。

また後で本名は出てきますので…


これにて2章が終了です!

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