表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/363

過去の悪夢

毎日毎日、カンに触る声で“私”を怒鳴る。


仕事が遅い、とか。

書類の書式が悪くて見にくい、とか。


うるせぇな、仕事が遅いって、てめぇが“私”に渡してくるのが定時ギリギリなのが悪いんだろうが。

その書類は“私”が作ったんじゃなくて、今日休みの後輩が作ったんだっての。

なんでもかんでも“私”のせいにしてんじゃねぇよ、クソが。


イライラが募って、口から溢れ出そうな感情を必死に抑える。


『おい!聞いてるのか“相楽”!!』

『…はい』

『なんだ、その反抗的な態度は!!お前が出来ないから俺がこうして指導してんだろうが!!』


指導ってなんだよ。

てめぇから教わったのは、部下への理不尽な叱り方だけだよ。

仕事の進め方も社会人マナーも、てめぇじゃなくて“あの人”に教えてもらったんだっての。

てめぇがあんな事言わなきゃ、“あの人”は今でも“私”の側で一緒に…


『全く、お前の教育担当だった“アイツ”が生きてたら、全部“アイツ”に丸投げして、俺はさっさと帰れたのによぉ』

『…は?』


耳を疑う言葉が聞こえた気がした。


『なんだ?その声は。まだ反抗する気か?』

『…“あの人”が亡くなったのは、貴方のせいでしょう…?』

『そんなの知らねぇよ。“アイツ”は勝手に死んだんだ。周りの迷惑も顧みず、繁忙期の忙しい時に死にやがってよぉ。“アイツ”がさっさと文句言わずに俺の分の仕事も片付けてりゃ、俺は楽して帰れたのになぁ』


…目の前が怒りで真っ赤に染まる。

何を言ってるのだろう、この男は。

なんて自分勝手な発言しか出来ないんだろう。

人をなんだと思ってるの?

あぁ、どうしよう、イライラが溢れる。

“私”はそのまま、目の前の男に向かって手を伸ばして…


「…《お前が死ねばよかったのに》」

「ユージェリス様!!!」






…目を開く。

目の前は、綺麗な青空。

でもなんか焦げ臭いっていうか、異臭が漂ってる。

なんだろ、誰か料理失敗した?


「ユージェリス様!!!」


リリーの切羽詰まった叫び声が聞こえた。

あれ?さっきのも気のせいじゃなかったのか?


「ユージェリス様!!!ご無事ですか?!ユージェリス様ぁ!!!」

「メイドちゃん、危ないから!!それ以上近付いちゃいけない!!」

「でも、でもユージェリス様が!!!」

「抑えるので精一杯なんだ、君は動かないでくれ!!」


…え、本当に何があったの?

僕は目を擦りながら上半身を起こして、周りを見た。


「…へ?」


目を疑った。

僕の周り、半径3mくらい、全ての芝生の色が変わっていた。

青々と茂っていた芝生は、黒く変色して異臭を放っている。

なんか瘴気っぽいのも漂ってるし!

その先は障壁みたいなものが張り巡らされていて、変色の進行を防いでいるようだった。

そしてその障壁を張ってるのが、さっきの父様の部下2人。

アレックスって人は片手で魔法を展開して、反対の手でリリーの動きを掴んで止めていた。


「…何これ」

「ユージェリス様!!お気付きですか?!」

「坊ちゃん!!今すぐこれ止めてくれ!!」

「私達ももう限界なんだ!!頼む!!」


…え、これやったの僕?!

マジで?!

え、止めるってどうやって?!

これなんの魔法なの?!


「え、えっと…《消えろ》!!《止まれ》!!《ストップ》!!!」


よくわかんないから、とにかく止めたい気持ちを込めて叫んだ。

すると黒い瘴気みたいなものが消え、芝生が黒く変色する現象が止まった。

…これで、いいのかな…?

あとは、芝生も直さないと…


「…《リターン》《グロウ》」


色の変わった芝生は消え去り、ただの土に戻る。

そしてそこから、元の長さまで芝生が伸びていった。

それを確認した2人が、安堵のため息をついてから揃って障壁を消す。

その途端、リリーが走って僕に抱きついてきた。

もうすでに号泣してる。


「ユージェリス様ぁー!!!!」

「り、リリー…なんか、心配かけたみたいでごめん」

「本当ですよぉ…心配しましたよぉ…!!」

「本当に、さっきのはなんだったんだ…?見た事ない現象だったな…」

「あぁ、あんな魔法があるなんて聞いた事もない。あれが愛し子様特有だとしても、今まで王妃様は発現した事ないし…」


部下2人は先程の現象を考察しているようだった。

さすが魔術師。

すると2人と目が合い、向こうは気まずそうな顔をした。

こうなったら、もう会話するしかないよねぇ…


「…お手数をおかけしたようで、申し訳ありませんでした。ご存知かと思いますが、アイゼンファルド侯爵家子息、ユージェリス=アイゼンファルドと申します。お2人は、お怪我などされなかったでしょうか?」

「…リリエンハイド王国魔法師団、第1師団長のアレックスと申します」

「同じく魔法師団、第3師団長のロイドと申します。我々は問題ありません、ご心配痛み入ります。ユージェリス様は、お体に問題等ございませんでしょうか?」


2人は片膝をつき、僕に挨拶をしてくれた。

体に問題…とりあえずなんでもなさそうだな。

一旦リリーを横に座らせて、確認をしてみる。

…ちょっと魔力は消費してるみたいで怠いくらいか?

怪我らしい怪我はしてないな。


「魔力酔いというほどではありませんが、少々怠さがある程度です」

「そうですか…先程の事象について、何かお心当たりは?」

「…いえ…夢見が悪かった、という事くらいしか…」

「確かに魘されているような感じでしたね。夢の内容はお聞きしても?」

「…それは、ちょっと」


前世の事なんて、言えないよなぁ…

なんであんな夢、見たんだろ。

夢というか、追体験ってやつか?

あんな事あったっけ?

…いや、きっと、忘れていたんだ。

思い出してみると、ここ最近、前世の事を思い出しづらくなってきた気がする。

普段の生活をする中で前世を思い出す事がほとんどなかったから、いつからなのかは思い出せないけど。

自分の前世の名前も覚えてるし、両親の事だって覚えてる。

でも、どうやって育って、どうやって過ごしてきたかっていうのが思い出せない。

学校で習った授業内容は思い出せても、あの時の先生は一体誰だった?

誰がクラスメイトで、どんなやり取りをしていた?

過去に彼氏とかって、いたんだっけ?

キチンと記憶に残ってるのは、車に轢かれた日の事くらいで…


なら、さっきの内容ってなんだったんだろう?

あのムカつく上司の名前は思い出せない。

というか、あの人は上司だったのか?

顔も靄がかかって見えなかった。

そして、“あの人”って…誰だったの…?


「…失礼致しました。我々がお聞きしてはいけない内容のようですね。顔色も芳しくありませんし、一旦お屋敷にお戻りになられた方がよろしいかと」

「そうですね、そうします。ありがとうございました。よろしければこちらをお持ち下さい。私が自作したポーションになります。先程かなり魔力を使われたでしょう?」


僕はそう言って背後で指を鳴らし、恰もポケットから出したかのように2本の小さなポーションをアイテムボックスから取り出した。


「え、いいんですか?さっきもクッキー、メイドちゃんが坊ちゃんからってもらっちゃって…」

「構いませんよ、どちらも趣味で作っているので。ポーションは私も今日飲んだのですが、結構上手く出来たんです」


なんせ世には存在しない、いちご味とぶどう味だからな。

昼間は新作バナナ味でした。


「…では、ご厚意に甘えさせていただきます。一応職務上、魔力は温存させるのが決まりですので。今回はイレギュラーでしたが…」

「…本当にすみません」

「いえいえ、お気になさらず。ですがこの件については師長…お父様へとご報告させていただきますが、よろしいですか?」

「もちろんです。きっとそこから陛下や王妃様や宰相様に伝わりますよね?」

「えぇ、多分ですが」

「…これ、預かってもらえますか?《レター》」


目の前に封筒が現れて、僕はそれを手にする。

この魔法は送り先を指定しなければ、目の前に現れるだけなのだ。


「お父様にお渡しすればよろしいですか?」

「はい。ただし、読むのは王妃様だけでお願いしますと伝えて下さい。まぁ、他の人が読んでも、絶対読めないでしょうけど…」


なんせ日本語で書いたからな。

愛し子じゃなきゃ読めない仕様にしてあります。


「…承知致しました。愛し子様同士のお話という事ですね」

「えぇ、そんな感じです。もしかしたら、さっきの原因が解明出来るかもしれないですから」

「それは重畳。解明される事を願っております」


2人は改めて頭を下げて、王城へと急ぎ戻った。

残ったのは僕と、顔がぐしょぐしょのリリー。

…どうしよう。


「…リリー、部屋に戻ろうか」

「…はい、暫くお休み下さい」

「いや、今寝たくない気分なんだよね…」

「…そうですか…」

「…僕部屋に戻ってるから、リリーは顔洗ってきなよ」

「いいえ、もう今日はユージェリス様をお1人にしないと決めたんです!」


ぐしょぐしょの顔で、キリッと言うリリー。

…全然カッコよくないよ。

うーん、どうしようかなぁ…


「…じゃあ、母様の部屋に行こう。多分今日はもうゆっくりされてると思うから、お邪魔させてもらおう」

「…では、お送りしてから、ちょっと顔洗ってきます…」

「そうしな…」


リリーが僕の手を握って、屋敷に向かって歩き出した。

離れたくないんだろうなぁ…

今日はなんだかリリーを怖がらせてばっかりだ。


ごめんね、リリー。

家庭の都合で今日はこれ1回の更新かもです…

39度ってなんでだよ…!!

明日も1回は更新出来るといいなぁ…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ