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キレた6歳児


「これでいいや。解除解除っと」


指を鳴らして、妨害魔法を解く。

最初に気付いたリリーが、僕に近寄ってきた。


「ユージェリス様!」

「お待たせ、はい、リリーの分」

「ありがとうございますぅ!!…って、これなんですか?いい匂いですねぇ、ポテトも美味しそうですー」

「それは秘密だよぉ」


離れたところにいたセイルが、走って向かってくる。

うわ、暑苦しっ。


「ユージェリス様!なんで見せてくれなかったんですか!!俺には必ず見せてくれるって約束だったじゃないっすか!!嘘つきぃ!!」

「…いや、そんな約束してないけど」

「しかも何使ったか形跡がなんもない?!」

「今日はちゃんと片付けたから」

「ユージェリス様のバカぁ〜!!!!これじゃ作り方わかんなくて作れねぇし、スキルレベルも上げられねぇじゃん!!!!フェルナンドさん追い越して、俺が王国の料理人として1番になれると思ったのにぃ〜!!!!」


…イラっとした。

この巨体でジタバタと涙目で駄々こねられて、すっけぇイラっとした。

は?責められる理由なくね?

お前がスキルレベル上げたいのは結局自分の為かよ。

前に『自分自身の成長のため』って言ってたけど、そういう意味だったの?

てっきり屋敷の人に美味いもん食わしたいからって意味だと思ってたのに、その考えはねぇのか。


そういう考えのやつは、嫌いだ。


「…『領域の料理』には、伝えられないもんだってあるんだよ。必ず見せる?誰が言った、そんな事。見ればいいとは言ったが、お前に見せるために作ってんじゃねぇんだよ。それとも何か?俺が言ったって精霊に誓えるのか?あ?」

「ゆ、ユージェリス様…?」

「味見はさせるっつったよな?譲歩してんのに、テメェは何自分勝手な事ばっか言ってんだ。お前最初に『深く詮索しない』っつっただろうが。あぁ、お前は俺を料理人として1番になるための踏み台にしたかったんだなぁ?へぇ?一応これでも、侯爵子息で愛し子でもあるこの俺を、ねぇ?いいご身分だなぁ、侯爵家の料理長ってのはさぁ」


…やべ、イラついてなんかすげぇ口悪くなっちゃった。

『俺』とか使っちゃったし。

なんか前に父様が素の時に使ってたの聞いて、ちょっとカッコいいと思ってたから…

でもこの場で使うもんでもなかったわ。

そんな事を考えつつ、僕は真顔でセイルを見た。

セイルは顔面蒼白で涙目を向けながらこちらを見てる。

心なしか震えてるっぽいな。

リリーも顔色悪いや、まだ唐揚げ食べてないし。

体が固まっちゃってる。

ごめん、リリー、怖がらせて。

とりあえず、ここらでやめておくか。

もうセイルの事は知らん!


「ドリー!」

「はーい!あ、ユージェリス様、終わられたんですねー。またお片付けしておきましょうか?」


遠くにいたドリーは話が聞こえてなかったらしい。

笑いながらこちらに近付いてきて、片付けを申し出てくれた。


「片付けはやっといたんだ。それよりお願いがあるんだけど、これを母様と兄様とフローネに持ってってくれる?はい、これはお駄賃ね」


母様達様のお皿を乗せたトレーを渡し、ドリーの分の紙コップも渡した。

ドリーの目が輝く。


「新しいやつですね、ありがとうございます!わかりました、お届けしてきます」

「…ドリーはいい子だねぇ。作り方見せなかったのに、追及してこないんだ?」

「だって元々『領域の料理』じゃないですか。まず見せてもらえる事が奇跡なんですから、見えなかった事に文句なんて言いませんよ。こうやってご相伴に預かれるだけで幸せです。でも調味料に何を使ってるかわかったら答え合わせしてもいいですか?」

「うん、いいよ。○×で答えてあげる」

「ありがとうございます!」


ドリーは頭を下げてから、トレーを持って厨房から出て行った。

そんな彼の言葉を聞いて、より一層顔色を悪くするセイル。

そういえばドリーは最初の頃から僕の料理をガン見しようとはしなかった。

ただ側で見守ってるだけ、子供が火や刃物を扱うから。

スキルレベルを上げる事に貪欲ではないんだろう。

単純に、


・ユージェリス様は料理が上手くて凄い!

・でもまだ子供だし、側で見守っててあげなきゃ!

・へぇ、これを入れると美味しくなるのか。じゃあ今度試してみよう!

・美味しいもの作れるようになりたいなぁ!


…って感じ。

上を目指す料理人としては貪欲さがないのは致命的かもしれないけど、僕との距離感はそれくらいがいいや。

イメージとしては、危なくないように側で保護者代わりしてくれる親戚のお兄さんってとこだな。

ちょっと犬属性の。

やっぱり彼をリリーの旦那さん候補としたい。

出来ればムキムキマッチョマンにはならないでくれ。

小柄なリリーとバランスが取れない。

あぁそうだ、母様とシャーリーにも醤油の口止めをお願いしなきゃ。

まだ父様には伝えてないだろうし、一応ね。

あとはいつも通りレリックを呼ぼう。


「《レター:母様》、《エリア》《コール:レリック》」


目の前に封筒が現れて、スッと消える。

内容は単純に醤油についてはまだ黙ってて欲しい事。

ジャルネには自分が直接行く、その前に別の誰かに茶々入れられて交渉出来なくなったら困る、という事を書いた。

まぁ母様なら大丈夫だろうし、シャーリーも元々ベラベラ喋る人じゃない。

というか、愛し子関係の内容だから、言い回れるものでもないでしょ。

ロッツォさんが話してくれたのは、僕がいたからだし。


「ユージェリス様、お呼びですか?」


レリックが厨房の扉から現れた。

さすがレリック、忙しいだろうに、すぐ来てくれるね!


「忙しいところ、ごめんね、レリック」

「いいえ、ちょうど手が空いたところなので大丈夫ですよ。如何なさいましたか?」

「久々に作ったんだ、父様とベティ様へよろしく」

「あぁ、これはまたいい匂いですね。承知致しました」


…残る味見用紙コップは1つ。

セイルの分の予定だったけど…


「…レリック、これあげる。お駄賃、よろしくね」

「ありがとうございます、いただきます」


レリックがいい笑顔を浮かべる。

一方セイルは顔色を更に悪くした。

これ以上顔色って悪くなるのかな?

そんな様子に気付き、レリックは小首を傾げる。


「ユージェリス様、セイルはどうかしたのですか?」

「僕を怒らせた」

「それは…セイルが悪いですな」

「なんでっ!!」

「どうせ自己中心的な考えで発言したのでしょう。貴方の悪い癖です。感情の赴くまま自分の考えだけを先走るなとあれほど言ったでしょう。周りを見て発言なさい」


マジか、前から言われてんのか。

つまりはまぁ、下心っていうか、単純に自分のやりたい事とかしたい事優先しちゃうだけのおバカさんって事でいいのかな?

ちょっとは考えてモノを言って欲しいよねぇ。

別に選民思想ではないけど、一応僕は貴族で愛し子なんだから、いくらなんでも敬わなきゃいけないんだし…

前に父様やレリックに言われた、侮られるって、こういう事なのかな。

僕も気をつけなきゃいけないね、セイルのせいだけじゃないや。


「セイル、しばらく僕に接近する事を禁止する」

「ユージェリス様…!!」


…まぁ今回は言霊を使ってないから、接近しても何かあるわけじゃないけどね。

ちょっとした罰ですよーだ。


「まぁそれがよろしいでしょうな。なんならクビにされても文句は言えない立場なんですから、お優しい判断ですよ。少しは反省なさい」

「…はい…申し訳ありませんでした…」


がっくり項垂れて、セイルが謝る。

顔色最悪、涙と鼻水は垂れ流しだった。

いい歳の大人(しかもガタイのいい男)のこんな姿、見たくないわぁ。


僕はリリーの手を握って、厨房を後にした。

人って怒ると口悪くなるよね←

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