孤児院の裏事情?
オススメの飴屋さんでフローネへのお土産を買って、僕達は孤児院へと向かっていた。
可愛らしい瓶に入ったオレンジとレモンの飴玉は、光に透かすとキラキラと綺麗に輝く。
ちなみに僕はレモン、ジーン少年はぶどう、ネーネはいちごの飴玉を1つずつ口に入れている。
3個で銅貨1枚という安さだった。
ちなみにこの世界のお金は硬貨のみ。
大体銅貨1枚が10円くらい。
銅貨100枚で銀貨1枚、つまり1000円くらい。
銀貨10枚で金貨1枚、つまり1万円くらい。
全体的に物価は安くて、前世ではりんご1個100円くらいだったけど、ここでは銅貨5枚(50円)くらい。
半額って凄いよね!
今回の領地見学のために父様から銀貨1枚もらった時には、フローネのお土産買ったら終わりじゃね?って思ったけど、ジャム瓶より大きいサイズの飴玉瓶1つで銅貨10枚(100円)だった。
コンビニで売ってる袋タイプの飴よりも入ってそうなのになぁ…
とりあえずフローネと食べる用と、孤児院へのお土産って事で2回り大きい瓶に入った飴玉を銅貨27枚で買って、残金銅貨62枚です。
まだまだ色々買える、素晴らしい。
ちなみにジーン少年が大きい飴玉瓶を持ってくれてる。
力持ちだから大丈夫!との事。
「姉ちゃん、飴ありがとう!」
「おいひぃ〜」
「どういたひまひて」
飴玉が口の中でコロコロ動き、返事が難しい。
中々ジューシーな飴玉に大満足だ。
帰ったらフローネと一緒に食べよう、きっと気に入ってくれる。
飴玉が口の中からなくなりかけた頃、僕達は孤児院に到着した。
どうやら母様達は先に着いてるみたいで、庭の方から大きな笑い声が聞こえる。
向かってみると、母様が孤児院の子供達に向かって絵本を読んであげているみたいだった。
「あぁ、ゆー…じゃなかった、お帰りなさい、ジェリスさん」
「只今戻りました」
シャーリーが僕に気付き、周りにジーン少年達がいる事を確認して、敬う態度をやめた。
そうそう、一介のメイドとして扱って下さいな。
すると母様の隣に立っていた1人の女性がこちらに気付き、近付いて来てくれた。
30代前半…いや、後半くらいかなぁ。
栗色の髪をきちんと束ねて、スッと背筋を伸ばしてこちらに向かってくる女性は、とても素敵だった。
「ジェリスさん、紹介します。こちらは孤児院の院長のメアルさん。メアルさん、こちらは…メイドのジェリスです」
シャーリーったら、メイド扱いが出来ないんだなぁ。
さっきからなんか言葉が危ないよ。
「メアル=パトラーと申します。パトラーと名乗らせていただきましたが、すでに爵位を返上した家名ですので、普段はメアルとお呼び下さい」
「ジェリスと申します。爵位を返上…ですか?」
「お恥ずかしい話ですが、どうやら父が不正を働いていたようでして。そのため爵位を返上して、平民になったのです。父は鉱山送りになって…母はとうの昔に亡くなっており、子供は私だけ。陛下と侯爵様の温情で、こうやって孤児院で働かせていただいているのですよ」
「そうだったんですか…すみません、不躾な質問をしてしまって」
「いえいえ、もう10年以上も前の事ですし、元々父とはほとんど会わず、育てられた記憶もないのでお気になさらず。今はこうやって子供達と毎日を過ごせて、とても幸せですわ」
晴れやかに微笑むメアルさんは、確かに幸せそうだった。
そんな話をしてくれたって事は、彼女の中でとっくに整理が出来てるからなんだろう。
にしても、なんで態々話してくれたんだろ。
家名を名乗らなければ、言う必要だってなかったのに。
「どうして家名を名乗っていただけたのですか?」
「侯爵家に関係する方々には、必ずお話しているのです。今こうして暮らせるのも、侯爵様のおかげですから。皆様には、常に誠実でいたいのですよ」
「なるほど、ありがとうございます」
うーん、本当に素敵な女性だ。
父親は一体何やったんだよ、全く。
きっとメアルさんは母親似だったんだな。
「あら、ジーン君とネーネちゃんも一緒だったの?」
「姉ちゃん案内してたんだ!」
「飴屋さんにも寄って来たんだよ!」
「あぁ、そうでした。これ、よろしければ子供達とどうぞ」
ジーン少年が持っていた飴玉瓶をメアルさんに渡してもらう。
色取り取りの飴玉が入った瓶を見て、メアルさんがまた微笑んでくれた。
「まぁ、態々ありがとうございます。子供達も喜びますわ。もうすぐマリエール様の読み聞かせも終わりますから、皆さんでいただきましょうね」
メアルさんの言葉に、みんなで母様の方を見る。
…あれ?思ってたより子供が少ないな、10人いないくらい?
孤児院って言うから、生活するのもキツキツなくらい、もっといっぱいいると思ってたんだけど…
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【孤児院について】
孤児院とは、病気や怪我などで亡くなった子供を育てる施設の事を示します。
基本的には貴族領地内で運営され、貴族からの寄付金で生活していきます。
孤児院にいれるのは12歳までで、学院に入る年には孤児院を出る必要があります。
〜参考文献〜
著・セドリック=ロール、"貴族の一生"、P46
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いや、うーん、それはわかるんだけど…
そうじゃなくて人数が少ない理由を…
あぁ、そっか、ここにいるのは諸事情で親が亡くなった子供だけなのか。
捨て子はいない、と。
それは凄いな、言い方はアレだけど、口減らしをしなくてもきちんと生活が出来てるって事?
…いや、待てよ。
この国は誰が突然愛し子になるかわからない精霊信仰国。
基本的に愛し子になるのは貴族が多いらしいけど、自分の子供だった子が捨てた後に愛し子になる可能性がないわけじゃない。
過去にも平民で愛し子になって、一財産築いた人もいたらしいってこの前ベティ様から『レター』で聞いたし。
そしたら精霊様を捨てたも同然、と…?
あー、なんか、愛し子制度によって子供が守られてるって部分もあるのね。
ちょっとした裏側を見てしまった気分だ。
親の情より精霊信仰、という事ではないと願いたいもんです。