好青年のお兄さん
ちょっと短め。
「姉ちゃん、お待たせー!…って、あれ?そいつ寝ちゃったの?」
「ありがとう、2人共。ちょっと騒ぎ出したから、寝てもらったのよ」
「お怪我はありませんか?!」
2人に連れられて、1人の青年が僕に声をかけてくれた。
おぉ、好青年って感じだ!
ちょっと誰かに似てる気がするけど…
「お気遣いありがとうございます。特に問題はありませんので、この方を引き取っていただけますか?」
「何事もなくてよかったです…コイツ、最近住み着いた流民なんです。住む場所を探してると言ってたんですが…まさか犯罪を犯すとは。余罪を含めて、きちんと対応致しますので!」
「よろしくお願いします」
「それにしても、侯爵家のメイドさんはお強いんですね。うちの妹とは大違いだ」
「妹さん…ですか?」
「えぇ、僕の妹も侯爵家でメイドとして仕えてるんですよ。リリーって知ってますか?」
「リリー?!」
マジか、リリーのお兄さんなのか!
いや、確かに髪色とか顔立ちとか似てるわ…
「し、失礼しました。えぇ、リリーさんにはいつもお世話になっておりますの」
「そうでしたか!リリーはメイドとしては優秀だと思うんですけど、戦闘に関してはあまり得意ではなくて…少し抜けてるところもあるので心配してたんですよ」
あぁ、お兄さん、よくわかってらっしゃる…
そうなんだよね、リリーってちょっと天然なんだよね。
食べ物には簡単に釣られちゃうし。
運動神経もあんまり良くなさそうだし。
この前何もない庭で躓いてたよ。
「侯爵邸自体は安全ですし、戦う事はないと思いますから大丈夫ですよ」
「でもリリーはご子息様の専属に選ばれたとか。もし万が一の時にご子息様を守れないのではないかと…」
あ、もしかして僕が愛し子だって知らない?
そりゃそうか、リリーが言うはずないもんな。
平民の人達にとって、新しい愛し子ってどんな認識なんだろ。
後でジーン少年達に聞いてみよう。
「これからデビューで社交の場に出る事も増えると思いますが、リリーさんなら絶対大丈夫ですよ。坊っちゃまの事も、リリーさんの事も、私がちゃんとお守りしますからご安心下さい」
「そうですか…?なら、よろしくお願いします…」
ぺこりと頭を下げるお兄さん。
ちゃんと自分の事もリリーの事も守るから大丈夫ですよー、とは言えないけどさ。
いつかリリーがお兄さんからこの話聞いたら、驚きそうだな。
「姉ちゃん、ほら、飴屋さん行こうぜ!」
「こっちにあるんだよー」
「あぁ、はいはい。それでは、また」
「えぇ、また。お気をつけて」
笑顔で僕達に手を振って、お兄さんも衛兵所に戻っていった。
どうやら男の後ろ襟首を掴み、引きずっていくようだった。
意外と力持ちなんですねぇ。
そうだ、魔法が後で解けるようにしとかなきゃ。
僕は見えないように指を鳴らし、お兄さんが解きたいタイミングで解けるように魔法をかけ直した。
「少し時間かかってしまったわ。奥様達をお待たせしてないといいけど…」
「大丈夫だよ!飴屋さんはすぐそこだし、孤児院も近いから!」
「あたしも一緒に謝ってあげるー」
「ふふ、ありがとう」
まぁさっきの男からいい土産話が聞けたし、怒られる事はないだろうけどね。
母様から父様に伝えてもらえば、きっといい方向に進んでいくだろ。
そう思いつつ、僕達は飴屋の扉をくぐるのであった。