悪党成敗
僕はベネッタさんに別れを告げた。
そしてジーン少年とネーネに孤児院に連れてってもらってるところだ。
先程と同じく、右手にネーネ、左手にジーン少年です。
「お姉ちゃん、この街は初めて?」
「えぇ、最近お仕えするようになったからね。侯爵領に来るのは初めてなの」
「ならなら、美味しい飴が売ってるお店連れてったげる!あのねぇ、いちごのやつが美味しいんだよ!」
「俺はぶどうが好きー」
「オレンジもあるかしら?ふろ…妹がオレンジ味が好きなの。今日は置いてきてしまったから、お土産を買って行きたいわ」
「オレンジも美味しいよ!こっちこっち!」
孤児院への道のりから少し逸れて、左へ曲がる。
すると目の前から男が飛び出してきたので、咄嗟に2人を引き寄せ、ぶつからないようにした。
…どうやらワザとぶつかるつもりだったみたいだな、舌打ちされたし。
「おいおい、いきなり飛び出してくんじゃねぇよ、ガキ共。避けたら足挫いちまっただろぉ?」
…いやぁ、その理由無理があるでしょ。
どうやって挫くんだよ、あの体勢から。
あぁでも、ネーネは真に受けてしまったようで涙目だ。
ジーン少年はちょっと男を睨んでる。
「うっせぇなぁ、絶対怪我なんてしてないだろ!姉ちゃんがぶつからないようにしてくれたんだから!」
「あぁん?なんだ小僧、俺に刃向かうってのかぁ?!」
男が腕を振りかぶり、ジーン少年に向かって拳を突き出してきた。
僕は身体強化スキルの補正を信じて、その拳を右手で受け止める。
パシーンと響く音に、男は目を見開いて驚愕した。
…ちょっとビリビリするけど、まぁ痛くないな。
「て、てめぇ…俺のパンチを受け止めた…だとぉ…?!」
「いい加減になさいまし。これ以上ケチを付けるようでしたら、私がお相手致しますわ」
「…よく見りゃ姉ちゃん、可愛い顔してんじゃねぇか。俺の夜のお相手してくれたっていいんだぜ?」
卑下た笑みを浮かべて、僕を舐めるように見る。
…うっわ、気持ち悪ぅ…
というか、こんな小さな子がいる前でそういうセリフはやめてもらいたいもんだね。
「ご冗談を」
そう言って僕はジーン少年とネーネを背後に押しやり、男から見えないように隠した。
流石に無詠唱もどき使うわけにもいかないから、普通に捕縛しよう。
「《バン:全ての魔法》《アレスト》」
「んなっ…?!」
男の魔法を封じ、白い光が体を拘束する。
身動きの出来なくなった男は、地面に無様に転がった。
「お前…なんで…!!」
「何がですの?」
「俺は反射魔法の魔導具付けてんだぞ!なんで魔法かけれんだよ!!」
「反射魔法って…まさか『リフレクション』?」
「そうだよ!すっげぇ魔法だって聞いて、かなり金積んで買ったんだからな!!実際に効果だって見せてもらったし!!」
「…それは、あり得ませんわ。『リフレクション』は高位魔法、MP3000も必要ですのよ?作れる人だって魔法師団に入るような方々ですし、まず一般には出回りません」
「なんだと?!」
「…弱い魔法であれば、『ミラー』で跳ね返せる可能はありますけど…何か小細工で跳ね返したように見せたって気がしますわ。どちらにしても、ご愁傷様でした」
僕は笑って、男に向かって手を振った。
男の顔が蒼白になっていく。
「ジーン君、近くに衛兵所はあるかしら?」
「え、あ、うん、さっきの門を反対に曲がった先にあるよ!」
「ならネーネと衛兵を1人でいいから連れてきてほしいんです。『侯爵家のメイドが襲われた』とでも言えばすぐに来るでしょう」
「わかった!行くぞ、ネーネ!」
「う、うん!」
ジーン少年はネーネの手を握り、一目散に駆け出した。
離れたのを確認して、僕は男を見遣る。
「お、お前…侯爵家のメイドなのか…?!」
「ええ、見た限りメイドでしょう?」
「た、頼む!助けてくれ!も、もうしないから!」
「嫌ですわ。可愛い子供を怖がらせた罪、きちんと償っていただきます。鑑定でもすれば、貴方の余罪も出てきそうですしね。それより、先程の魔導具をどこで買ったのか教えなさいな」
「に、逃してくれんだったら教えてやってもいいぜ?!」
「お馬鹿さん。私が大人しく聞いているうちに話した方が身の為ですわよ?別に拷問魔法でも自白魔法でもなんでも使って吐かせればいいのですから」
「な、なんでそんなやべぇ魔法使えんだよ!!」
「…ひ・み・つ♡」
僕は微笑んで、男に見えないように、背後で指を軽く鳴らすのだった。
余談ですが…
・騎士→国を守る人。王城の中で王家の人達を守ったり、魔物討伐して国民守ったり、戦争で敵国と戦って前線で国を守ったり。精鋭揃い。
・兵士→王城を守る人。お城の周りを守り固めてる。あとは国境警備とかも兵士に属する。力自慢多め。
・衛兵→街の中で治安を守る人。喧嘩した人の仲裁とか、迷子の捜索とか、スリ捕まえたりとか。お巡りさん的な扱い。
・私兵→貴族で雇われてる人。屋敷の門番とか警備兵とか。ボディーガード的な扱い。
この世界ではこんな感じ。
多分本編では説明しないかもなので、ここでさらっと。