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アイゼンファルド侯爵領

月日は流れて、今日は5雷27日。

あと1ヶ月ちょっとでついに社交界デビューです。

結局あれからデブハゲ伯爵は何回か父様に絡んで来たらしい。

他にも何人かが魔法師団に探りを入れるような事をしてきたらしく、かなり父様はお疲れ気味。

魔法師団の人達にも悪い事したなぁと思って、差し入れをしたりもした。

まぁ僕が作ったものじゃないけど。

僕が父様とベティ様に作ったクッキーを見て、セイルが頑張って作ったクッキーを差し入れにしました(笑)

直接ではなくても、かなり好評だったみたい。

こっちのクッキーってやけに堅いんだよねぇ。

クッキーってか、ビスコッティみたいな感じ。

なので軽いサクサククッキーには衝撃が走った模様。

1回しか差し入れしてないけど、また食べたいとお手紙までもらっちゃった。

父様はもう作らなくていいってセイルにも言ってたから、無理っぽいけどね。


結局、僕自身は意外と平和な日々を過ごしていた。

比較的暇してたよね。

でも今日はちょっと違う!

なんと母様が領地に連れてってくれるというのだ!

昨日は父様とロイ兄様、今日は僕と母様。

フローネはまだダメだって。

めちゃくちゃ怒ってた。

7歳になる年…つまりデビューの年までは出歩かせない決まりだから。

フローネは怒って怒って、最後に泣いていた。

ちなみに去年はユージェリス君もまだ出れなかったから、ここまでじゃなかったらしい。

1人で置いてかれるってのが嫌なんだろうねぇ。

でもごめんね、フローネ。

僕はどうしても行きたい。

というか、会いたい子がいる。

あの伝染病事件で顔を合わせた、ジーン少年だ。

幸いにもあの時はメイド少女の姿だったから、今回もそれプラス伊達眼鏡で出歩けばいい。

でも幻覚魔法じゃバレる可能性あるから、今回はブレスレットの魔導具作ってみました!

『トランスフォーム』と『グロウ』を付与したんだけど、この『グロウ』が大変だった。

何せ普通は植物とかの成長に使う魔法なんだけど、人の体と髪の毛を伸ばすのにはめちゃくちゃ魔力が必要だったんだよね。

多分通常の人には使いこなせないよ、対人だと。

さすがの僕も発動はし続けられないから、魔導具にしてみた。

でも耐久性が心配だから、持って今回1回かもしれない。

まぁ普段の変装ならただの『トランスフォーム』か『ハルーシネイション』が1番だね。

トランスフォームの魔導具を今度いくつか作っておこう。


「ユージェリスちゃん…じゃなかった、ジェリスちゃん、準備はいい?そろそろ着くわよ」

「はい、奥様。大丈夫ですわ」

「…なんだか不思議ねぇ、ジェリスちゃんのその姿と口調…」

「私は本日、一介のメイドですから。お気になさいませんように」


眉を下げて、少し困ったように微笑む母様。

いつボロが出るかわかんないから、最初からメイドのつもりで過ごしてみる事にした。

ちなみに今は馬車の中で、母様と僕以外にシャーリーも一緒にいる。

リリーはフローネとお留守番。

ちなみに御者は多才なファーマ爺です。


実は以前父様達が出てきた秘密のルートの他に、侯爵家の人間しか通れないルートがもう1つあった。

そこは馬車も通れる大きさなので、母様はこちらをよく使うらしい。

父様達は自分で馬に乗るから、あっちが多いんだって。


「さぁ、そろそろ抜けるわよ」


母様がそういって、窓の外を覗いた。

段々と光が差し込み、馬車の中が明るくなる。

僕も別の窓から外を覗いてみた。


「うわぁ…!!」


洞窟を抜け、森を少し過ぎると、そこには大きな街が広がっていた。

周りを3mくらいの壁で囲われていて、入口には門があり、門番もいる。

少し入場待ちの行列が出来ていたが、馬車はその横を通り過ぎて門に直接向かった。

門番がこちらに気付くと、1人が小走りで馬車に近付いて来るのが見えた。


「失礼ですが、アイゼンファルド侯爵家の方々でしょうか?」

「その通りでございます。本日は侯爵夫人マリエール様と、メイドが2人、御者が1人です。こちらをご確認下さいませ」


ファーマがそう言って、懐からアイゼンファルド侯爵家の家紋が入った懐中時計を門番に見せた。

門番はそれを確認し、頭を下げる。


「ようこそおいで下さいました、どうぞご入場下さい」


ファーマはそれを確認し、軽く会釈をしてまた馬車を進めた。

…なんか、今、凄いご隠居感があった。

さっきのは印籠的なやつかな、鑑定スキルかなんかで確認したのかな?!

ファーマの白い髭が余計にご隠居感を醸し出してるよ!!


…変なところに感動しちゃった。

落ち着け、僕。


「ジェリスちゃん、私とシャーリーは1度領主邸へ寄ってから孤児院に向かいます。その後は領地を軽く見て回るつもりですけど、貴女はどうするの?」

「ではお2人が領主邸へ出向かれてる間に、ジーン少年のところへ行ってきます。孤児院には後から合流しますね」

「お1人で大丈夫ですか?こちらは治安もいいですし、変な人間はいないと思うのですが…」

「大丈夫です、そんな人がいたら逆に懲らしめておきますから」

「…うちの坊っちゃまが好戦的すぎる…」

「あら、旦那様に似てて素敵だわ!治安維持のために、手加減はいらないわよ。ジェリスちゃん、懲らしめておやりなさい」


顔を手で覆ってため息を吐くシャーリーとは対照的に、母様は楽しそうに肯定してくれた。

というか母様、偶然にもご隠居様のセリフだ!

母様…素敵☆


「じゃあもう街に入った事だし、そこの角で降ろしてあげるわね。ファーマ!」

「はいはい、聞こえておりますよ」


さすがファーマ、仕事の出来る爺だ。

人通りの少ない道の角で、僕だけ降ろしてもらった。

おぉ…街をフラフラするのも初めてだ!

ちょっと新鮮だなぁ。


「お姉さん、こーしゃくさまのメイドさんなの?」


突然スカートを引っ張られて後ろを振り向くと、フローネくらいの女の子がいた。

なるほど、街の中に住んでる子なら1人でいてもそんなに違和感ないのか。

見知らぬ子がいると目立つのね。

というか、街では見知らぬ子=貴族の子の図式が成り立つわけか。

とりあえず僕はしゃがみ込み、女の子と目線を合わせた。


「ええ、そうよ。ちょっと探してる子がいて、降ろしてもらったの」

「誰探してるの?」

「ジーンって男の子、知ってるかしら?」

「ジーン知ってる!お隣さんなんだよ!」

「あら、偶然ね。良ければ連れてってくれないかしら?」

「いーよ!こっち!」


女の子が僕の手を握って走り出す。

うーん、元気だなぁ。


「お姉ちゃん、なんて言うの?あたし、ネーネ!」

「ジェリスよ、よろしくね、ネーネ」


ネーネは僕を引っ張って、街を進む。

周りの人達は微笑ましそうにネーネを見ていた。

何人かはメイドを引っ張ってるネーネを見て、少し不安そうにしていたけど。

大丈夫です、僕メイドじゃなくて領主の息子なんで。

…いや、そっちの方が不敬か。

いいんだよ、僕が許可してるんだから。


「ジーンね、去年凄い大変だったのよ!」

「そうなの?」

「おばちゃんが病気で、すっごい落ち込んでたの。でもね、お城の魔法使いさん達がいっぱい来て、治してくれたんだよ!こーしゃくさまも来てたんでしょ?凄いよねぇ!」

「えぇ、そうね。侯爵様は凄い方だから」

「あたしもね、大きくなったらこーしゃくさまのメイドさんになりたいの!」

「まぁ、そうなの?それなら、お勉強とかも頑張らないといけないわねぇ」

「どうやったらなれるのー?」


どうやったら…

マズイな、そんなん知らんわ。


ーーーーーーーーーー

【メイドになる方法とは】

メイドになるには、13〜15歳でロイアナ侍女養成学院に入る必要があります。

卒業後は個別に面接を受けさせてもらって貴族の家へ入るか、一族でお仕えしている者はその貴族の家に入ります。


〜参考文献〜

著・アナベル=フルスロン、"一流メイドへの道のり"、P37

ーーーーーーーーーー


…学院って、リリエンハイド王立学院だけじゃなかったのか。

そりゃそうか、1つの学院に全国民入るわけにもいかないもんな。

いくつかあるって事だね、ありがとう暗記スキルさん。


「…ロイアナ侍女養成学院に入学して、メイドになるのよ。勉強や作法などを学んで、立派な淑女になる必要があるわね」

「うーん、そっかぁ…頑張るっ!」

「頑張ってね。もし本当に入学出来て、無事に卒業したら…私の名前を出していいわよ。『ジェリスさんの紹介で来ました』って言えばいいわ」

「本当に?!じゃあ、お姉ちゃんのところに行くね!」

「えぇ、待ってるわよ」


これだけやる気があるんだ、本当にメイドになれたなら、僕が雇ってあげよう。

なんだかフローネと同い年くらいだからか、優しくしてあげたくなるんだよなぁ…

贔屓は良くないけど、ついね。


「お姉ちゃん、ここだよ!」


ネーネが一軒の家を指差した。

ボロいとは言わないけど、あんまり余裕はなさそうな家だね。


「ジーンー!!!!」

「うっせぇな!!なんだよ、そんな大きな声出さなくたって聞こえんよ!!」


ネーネの大声に、僕の鼓膜はやられそうだった。

家の中から出てきたジーンの声も十分大きいよ?


「…あれ、姉ちゃん…あの時の…?」

「こんにちは、ジーン君。お母さんの体調はどうかしら?」

「姉ちゃん!わぁ、あん時の姉ちゃんだ!!姉ちゃんなんだろ?こーしゃくさまにお願いしてくれたの!!母ちゃんな、こーしゃくさまが治してくれたんだ!!暫くは動けなかったけど、今じゃすっごい元気なんだぜ!!」


ジーン少年は走って近付いて、僕の手を握ってブンブンと振った。

おぉ、元気いっぱいだなぁ。


「こーしゃくさまに姉ちゃんの事聞いても、知らないって言われちゃってさぁ!俺、精霊様に会ったのかと思ったよ!」

「精霊様かぁ…まぁ、当たらずとも遠からずと言うか…」

「ん?なんか言ったか?」

「なんでもないわよ。良かったわね、お母さんが良くなって」

「うん!そうだ姉ちゃん、母ちゃんに会ってってよ!!」

「お姉ちゃん、行こっ!」

「え、あっ!」


右手をネーネ、左手をジーン少年に引っ張られて、僕は家の中へと招かれるのだった。

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