お疲れ父様
「…我々も帰るか、疲れたな…」
「そうですわね、旦那様」
「…意外と女の子の口調が様になってるな」
「リリー達の真似をしてみましたの。もしかしたらまだ近くにいるやもしれませんから、ちょっとした警戒のためですわ」
「そうか…ファーマ、行くぞ」
「はいはい、旦那様、ジェリスさん」
クスクスと笑いながら、ファーマが改めて馬車の扉を開き、僕達を招き入れる。
帰る途中、父様は何回もため息をついていた。
お疲れモードだなぁ…
「父様、大丈夫?」
「…最近、やけにアイツが擦り寄ってくるんだ。きっとお前が愛し子様だと狙いを付けてるんだろうな」
「いや、あの人達、下っ端兵士を買収して、僕が初めて王城に伺った日の事を聞いたらしいよ。だから確信してるんでしょ」
「…騎士には箝口令を出したが、下っ端の兵士には伝わっていなかったか…いやそれより、何故そんな事を知っている?」
「僕の誕生日会やってくれた日、屋敷の前に隠れてたの。怪しかったから盗み聞きしたら、そんな事言ってた」
「…他には何を?」
「まぁ単純に自分の娘で僕を捕まえて、愛し子の恩恵をって感じだったね。娘は顔が良くなきゃ嫌だって言ってたみたいで、僕の姿絵とか欲しがってた。顔の良し悪しだけで狙われるのも嫌だし…何より絶対落とされない自信があるから、父様には伝えなかったの」
「そうだな、絶対に捕まらないようにしてくれ…いや、お前自身にあからさまな擦り寄りをすれば、それだけで処罰可能だから、それでもいいな…」
マジか、処罰出来んの?!
まぁ顔と愛し子って肩書きに対して好意持たれても嫌だから、それでいっか。
最初にそれを伝えて、それでも擦り寄ってくる子だったらそれまでだって事だね。
それを親から教えられてないって時点で、教育環境の貴族の家にも問題あるって判断になるのか。
僕の存在自体が爆弾みたいなもんだ。
…というか、デビュー前から愛し子になった事自体が異例なんだろうな。
ベティ様も、その前の愛し子も、どっちも成人の儀が終わってからだったらしいし。
困るねぇ…
そんな事を考えながら、僕達は屋敷に帰ってきた。
屋敷の中に入り、魔法を解いていつもの格好に戻る。
「お帰りなさいませ、ユージェリス様。本日は来年の社交界デビューで着られる洋服についてお話がありますので、お部屋へどうぞ」
「服について?」
「1年を切りましたから、早めに用意にかかるのですよ。採寸自体は年明けになりますが、デザインなどは今から決めるのです。来年の流行りなども先行して考慮しなくてはいけませんね」
「ふーん」
そういうもんなのか、大変だなぁ。
とりあえず僕とリリーは部屋に入り、椅子に腰掛けた。
「まずはこちらのデザインをご覧下さい。昨年、ロイヴィス様が着られたものの姿絵になります」
そう言ってリリーが手渡してきた額縁を受け取る。
うわぁ、兄様カッコいい!
なるほど、こういう感じなんだね。
そんなに大きくないハットに、ダブルブレストのジャケットとベストにハーフパンツ。
首には細いリボンを結んで、ケープも羽織ってる。
足元は膝下ソックスと革靴。
全体的に紺や青をベースにしてる。
普段着と違うところは、ハットとケープとリボンくらいか。
いつもはリボンじゃなくてタイだもんな。
…あれだ、この格好は華美過ぎない○執事の坊っちゃまって感じ。
「これは…派手な方?大人しい方?」
「大人しい方ではないでしょうか?もっと凄い方もいらっしゃいますよ。例えば男の子ですがレースなどが盛り盛りでやけに色合いも派手な感じの方とか」
…よくある成金スタイルってやつか。
低い身分のやつが調子乗ってやったりするのかな。
それとも公爵家あたりがやらかしてるのか。
でも兄様くらいの大人しめの方がカッコいいと思うけどねぇ。
「さて、来年の流行りになりそうなものですが…」
「ねぇ、リリー。これだけはなくちゃいけないものってあるの?ほら、ケープとか」
「え?あぁ、そうですね、ハットとケープは必須になります。首元のリボンはいつも通りタイでも構いませんし、クラバットやジャボでも大丈夫です」
「他は個人の自由?」
「左様でございます」
ふーん、なら、それっぽくしても問題ないかな?
寧ろベティ様は喜びそう。
僕は引き出しから紙とペンを取り出し、サラサラとデザインを描いていく。
リリーは不思議そうな顔をしていた。
確かこんな感じで…あー、あの作品初期しか見てないから、うろ覚えだなぁ。
でもまぁ、こんなんだったでしょ。
どうせなら当日、髪型も似せてみるか。
今とさほど変わらないし。
「ユージェリス様?どうされたのですか?」
「こんなんどうかなーって。適当に描いたから、誰かに清書してもらいたいけど」
ぺらり、とデザイン画を差し出す。
それを受け取ったリリーは目を丸くし、紙を凝視した。
「…ユージェリス様、凄い、凄いです!なんて素敵なデザインなんでしょう!今まで見た事ありませんよ!」
そりゃ、この世界のデザインではないもんな。
でも似通った世界観ではあるから、馴染むと思ったんだよねぇ。
でもやり過ぎると著作権に引っかかりそうだから、ここから多少アレンジしていこう。
そうして、意外と平和な日々が続いていった。
ここからまたちょっと時間が進みますー