魔石の輝き
「…ユージェリス、一応伝えておくとな?熊の魔物の天災級は普通、騎士団が全員出動する相手だ。場合によっては援護要員として魔法師団が合流する事もある。あるはず、なんだが…なぁ?」
父様が少し遠い目をしながら、熊の魔物の残骸を見つめる。
うーん、これは…やりすぎたって事かな…
ちょっとデカイの見てびっくりして、結構な火力で応戦した気がする。
魔力の残りが心許ないな…
「…参考までに、他の階級のやつならどれくらいの騎士団とかが出動するの?」
「熊の魔物なら自然級は強い狩人が数人か、騎士団の5人小隊が1つ出動する。災害級になると基本的には騎士団案件で、20人くらいの部隊が1つか2つ出動する。そして天災級は年に1回か2回くらいしか現れないが…先程も少し言ったように、6部隊全てと団長が出動となるな。全てが戦いに行く訳ではなく、天災級は魔法を使う魔物が多いから、二次災害を防ぐ意味で全員出動だ。場合によってはうちの魔法師団も参戦する。その間、副団長2人は残りの魔法師団と一緒に王城で王族をお守りする事になるんだ」
なるほど、全員いなくなったら警備ゆるゆるだもんな。
副団長2人は命の危険がないようで、責任は重大だし、下手したら物理的に首が飛ぶわ。
「…まぁ、ユージェリスなら可能なのかもな。前よりも魔力上がってそうだし。騎士団の奴らは魔力が低い者が多く、基本的に剣術系のスキルレベルがモノを言う。ユージェリスの魔力量は騎士団全体の総魔力量に匹敵しそうで、プラス剣術系のスキルレベルもかなり高いんだろう。一撃で仕留めるのも、その、あり得るよなぁ…」
でも父様、僕今回剣使ってません。
…なんて言えなかった。
頑張って納得しようとしてるところにチャチャを入れる感じになりそうだし。
暫く熊の魔物を眺めていた父様が、ため息を吐く。
「…《レター:宰相閣下》」
父様が唱えると、目の前にキラキラしたエフェクト付きの封筒が現れた。
その封筒はふわふわと浮遊し、一瞬で消える。
「父様、今のは?」
「…倒した後とはいえ、天災級が現れたんだ。王城に報告せねばならん」
「…父様、『レター』って『エリア』使わなくても届くの?」
「『エリア』を使うのはすぐに届いて欲しい時だけだ。ただの『レター』でも、距離次第だが1〜2日で到着する。ここから王城なら、まぁ今日中には届くだろう」
へぇ、そうだったんだ。
それは知らなかった。
ん?でも遠くにいる人が緊急の時はどうするんだろ?
「父様、遠い領地にいる人が緊急の内容を伝えたい時にはどうするの?」
「『エリア』だと遠過ぎる場合などを考慮して、貴族の当主は王家から『エリア石』を頂いている。その石は特殊な石でな、採取された時からすでに『エリア』の魔法を付与されている石なんだ。採取出来る場所は王家の秘密で、我々も知らんがな。それを触りながら『レター』を使えば、すぐに届く。もし他の領地へ出向いてる際に何かあれば、そこの領主へ申し出れば使用させてもらえるから、覚えておくように。ちなみにこの石の存在は貴族しか知らない。平民は何かあればその領地の警備兵などに報せれば上に報告が行く。基本的にはそれが伝わるからな」
そんな石があるんだ、面白い!
他にもそんな力を持った石あるのかな?
…おや?暗記スキルさんが反応しない。
もしかして記された本ないの?
「その石の存在は秘匿?」
「あぁ、書籍化する事は禁止されている。だからお前が知らなかったのも仕方ないな」
なるほど、本になってない内容もあるのか。
そういうのはその都度教えてもらって覚えないと!
「さて、これはどうするべきか…魔石を取り出すか…?」
ほう、魔石とな。
これは本にあるかな?
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【魔石とは】
魔物の体の中には、魔石と呼ばれる漆黒の石が存在する。
体のどこにあるかは個体によって変わり、見つけるのは至難の業である。
だが魔石を取り出さないで放置すると新たな魔物を生み出すので、討伐して3日以内に取り出す必要がある。
魔物は皮膚が異様に硬く、通常は聖属性の魔法を用いて切る。
〜参考文献〜
著・ハイドロ=キングラー、"何故魔物は発生するのか"、P13
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おぉ、あった、ありがとう暗記スキル。
にしても、どこにあるかわからないか…
いや、僕の鑑定スキルならいけるんじゃね?
そう思い、あんまり見たくないけど、熊の魔物の残骸を凝視する。
【熊の魔物(天災級)→死亡、首に魔石あり】
鑑定スキルさん、優秀すぐる。
父様の服の裾を引っ張って、こちらを向かせた。
「どうした?」
「首に魔石あるって」
「…もしかして、鑑定スキルか?」
「うん」
「…普通は鑑定スキルでも魔石の場所はわからないからな?」
マジか、これダメ?
気をつけよう…
いやでも、愛し子の力です!って言えば最悪平気な気がする。
てか実際そうじゃね?
よし、次からはそう言おう。
「愛し子の力、ダヨ!」
僕はキメ顔でそう言った。
父様が深いため息を吐く。
「…そういう事にしておくよ」
なんだよ、せっかくキメ顔で言ったのに。
そのまま魔物の死体へ近寄った父様は、腰から下げていた剣を抜いた。
あ、僕の剣と形が似てる。
「《汝、屍となりて彼の地へ赴く。御霊よ、精霊の加護を受けよ、"エクサイズ"》」
父様の詠唱を受けて、剣が光り輝く。
まさに聖なる光って感じだ。
ってか詠唱初めて聞いた!
なるほど、魔物を切るには聖属性の魔法の詠唱が必要なのか。
これは長いし、前世の厨二病を思い出してちょっと恥ずかしいな…
多少の羞恥心を感じつつ、父様の動向を見守る。
すると光り輝く剣を魔物の死体へ向け、首元を真横に切り裂いた。
まさに紫電一閃といったところだ。
ゴトリ、と首が落ち、そこから黒く光る何かが父様に向けて飛んでくる。
それを左手で掴み、中を確認しているようだった。
「父様…?」
「…さすが天災級だな、中々でかい」
手の中を覗き込んでみると、そこには黒く光った雫の形をした石が乗っていた。
これが魔石かぁ、意外と綺麗だ。
黒い光はちょっと禍々しいけど。
「これはどうするの?」
「暫くすると、この黒い光はなくなるんだ。魔石としての効力がなくなったら、一旦王城に献上する事になる。我々魔法師団の確認が済み次第、その石は王家御用達の宝石商に渡されるのさ。何故か効力がなくなった魔石はオニキスという宝石になるんだ。『効力のなくなった魔石』という事で『魔除け』になると考えられていてな。加工されて作られた装飾品は、コレクターに高値で売れる。狩人が仕留めた場合も王城に献上して、報奨金をもらうんだ」
おぉ、オニキス!
僕でも聞いた事ある宝石だ。
確か前世でもロザリオとかに使われてたよな、邪気払いって理由で。
へぇ、魔石が宝石になるんだ。
「まぁ逆にそんな魔石だった物を身につけるなんて、という反対意見を持つ人間も多少なりともいるがな。特に身内を魔物に殺された者なんかが顕著だ。私もどちらかと言えば、持ち歩きたいとは思わんよ」
うん、その気持ちわかる。
つい僕も神妙な面持ちで頷いてしまった。
言い方はアレかもしれないけど、仇のようなものだもんねぇ。
そりゃ嫌だよ。
そんな事を話していたら、魔石から黒い光が消えた。
…あー、でも、確かに綺麗な宝石だわ。
うーん、欲しくなる人の気持ちもちょっぴりわかる。
「まぁ大丈夫そうだな。これは私が預かって、明日王城に持っていく。《サンクチュアリィ》」
あ、また聖属性だ。
これで万が一に備えて囲っとくのか。
「さて、ユージェリス。先程の魔法だけで終わらせるのはちょっとアレだから、ちゃんと剣の練習もしようか。もう1匹見つけて、それはキチンと剣でトドメを刺すように倒してみなさい」
「はい、父様!」
よーし、今度こそ頑張るぞぉ!!
まぁオニキスの精製方法なんて、異世界だからこそだと思って下さい(そりゃそうだ)