許可取り
「やっぱユージェのご飯おーいーしーいぃー♡」
「お気に召していただけたようで何よりですよ、お嬢様」
「やだ、ビリーなんかよりよっぽど執事とか従者っぽい」
「慣れてますから」
この前なんてベティ様の従者だったしね。
…今度ジーンを貴族子息風に仕立てて、僕は従者の格好で領地歩いてみようかな。
きっと笑われるだろうけど。
そんな事を考えながら給仕を続ける。
ちなみにジーンはさっきビリーに勝負を挑まれたので裏庭で決闘中です。
ジーンが平民だと知るや否や『ニコラに相応しいかどうか、判断してやらぁ!』って叫んでた、ニコラがいないところで。
怪我させない程度にしとけって言ってあるし、まぁ大丈夫でしょ。
「てか、なんでユージェが給仕してんの?」
「フラメンティール家のメイドさん達が僕に恐れ慄いて近寄らないからかな?ジーンは野暮用済ませてるとこだし」
「あやや、ごめんねぇ。ユージェがこんなとこにいるはずないって現実逃避してる子が多いみたいでさぁ。多分言い寄ったりする子はいないと思うから、勘弁して?」
「あいよー」
そう、そうなのだ。
メイドさん達は『ニコラお嬢様って本当に愛し子様とご友人なのね…!!』みたいな反応をした後、全くと言っていいほど近寄ってこないのだ。
…ニコラは常々言い聞かせておいてくれたのかな?
「ユージェ、この後どうすんの?」
「とりあえず今日は泊まっていこうかな、明日はヴァイリー王国にちょっと寄ってから王都に帰る予定」
「はいはい、んじゃうちに泊まれるように伝えとくわね。レイナード、聞いてたわねー?2人分客室用意しといてー!」
「は、はい!お嬢様!!」
遠くに立っていた執事らしき人にニコラが声をかける。
その人は数人のメイドを引き連れて、慌てたように食堂を後にした。
「…そんなに僕の存在怖い?」
「ここは王国の端っこで田舎だからねぇ。ここで働いてる人は殆どこの辺の人達だし、愛し子様と出会う事なんて夢のまた夢…それこそ陛下に会う確率の方が高いって思ってるだろうから。いくらあたしがユージェと仲が良いって言っても、信じきれてなかったんでしょーよ」
「ニコラって基本的にメイドさんとか執事とか伴わないからねぇ。実際に僕を見た人もいなければ、信憑性に欠けるのか」
「らしいわ。そしたらまさかの本人登場でしょ?見た目も相まって近寄れないんじゃない?」
「どゆこと?」
「だってユージェ、見た目だけなら王子様っぽいもの」
「待って、だけって何よ、だけって」
「中身を知れば王子様とは言えないわね。まぁ昔のユージェが誰彼構わず女の子を無意識に口説いてた言動とかは王子様に見えなくもないけど」
「人聞きの悪い…」
せめてフェミニストって言ってくれ…
あとそれナタリーが聞いたら怒りそうだから黙ってて?
そんな意味を込めて、ニコラの目の前に好物のショートケーキを差し出した。
目を輝かせた後、ニコラは真剣に頷きながらサムズアップ。
本当にわかってる?
聞こうかと思ったけど、ケーキを食べ始めてしまったのでやめといた。
「ユージェ様、只今戻りました」
数分後、特に衣服の乱れや怪我もなく、ジーンは普通に帰ってきた。
…ビリーはいないけども。
「お帰り、ジーン。ジーンもケーキ食べる?」
「後でいただきます」
「ジーンさん、ビリーは?」
「メイドの方に引き渡してきました、気絶してたので」
「「あーあ…」」
しれっと言うジーンに、可哀想に…とでも言うような僕達の声がハモる。
「何したの?」
「特に何も。最初は庭に咲く花や木などの名前を当てる勝負を挑まれました。花言葉や育て方などの問題も出されたりしたのでそれも答えて全戦全勝。最終的には拳の勝負になりましたので、首を手刀でストーンと落として終わりました。怪我はさせていませんよ」
「「うわぁーあ…」」
ジーンは僕の従者になってから、それはもう色んなジャンルを勉強した。
なんてったって、愛し子の従者という地位。
平民だろうと何も知らなかった、では済まされない事だってある。
それに僕自身が暗記スキルのおかげで雑学含め知識はかなりあるので、それに合わせるようにジーンも勉強してくれたのだ。
そのお陰で、ジーンも暗記スキルを取得出来たんだけどね。
「まず前提として、ジーンさんに喧嘩売るのがいけないわよね。ユージェと一緒に旅したりしてたんだし、かなり強いんでしょう?」
「自然級の兎くらいなら、剣なくても倒せるんじゃない?剣と魔法があれば災害級の兎といい勝負して普通に勝てるよね」
「あー…まぁ、多分…?」
「やっば、めっちゃ強いじゃん!ジーンさん凄いのね!そりゃビリーボロ負け確定だわぁ」
笑い出すニコラに少し恥ずかしそうに頬を掻くジーン。
こうやって素直に褒められると、ジーンって照れたりするよなぁ。
「ま、流石にもう挑もうとは思わないんじゃない?ビリーなんか言ってた?」
「あー、なんか、『俺が見極める!』とか言ってましたけど…」
「じゃあ許可出るかもね」
「いや、庭師の孫になんの権限があるって言うんですか。第3師団長の許可ならまだしも」
「じゃあ許可貰いに行く?『娘さんを下さい!』『ならば私を倒していけ!』みたいな茶番、やる?」
「やりませんよっ!!師団長クラスと戦うとか洒落になりませんから!!」
「あら、父さんは剣の腕は全くのど素人だから、魔法なしの剣だけで挑めば絶対勝てるわよ!ちょっとその茶番劇見てみたいわ!『やめて!あたしのために争わないでっ!』ってボロボロの2人を見ながら泣いて言えばいいんでしょ?」
「うわぁ、超面白そう」
「面白くないですからね?!やりませんからね?!そんな危ない事出来ませんから!!」
えー?でもさぁー、なんて笑いながら言うニコラに、ニコラ様!なんて声を上げて諫めるジーン。
…皆さん、お気付き?
ジーンってば、『結婚はしない』とは言ってないんです事よ?
ちょっとはその気になってきちゃってるのかな?(笑)