価値観の違い
「成る程…盲点だったわ…そうよね、最初からユージェの側にいる事をユージェに許されてる人で考えれば良かったのよ!」
「いやいやいや、突然そう仰られましても、俺は平民ですし…!!」
「あれ?ジーン知らないの?陛下達、ジーンに爵位あげるか迷ってるんだよ?僕の従者として士爵でもって。レリックだってうちに代々使える伯爵家の人間だし」
「レリックさんは知ってますけど、俺の爵位については聞いてませんけど?!」
「まぁ僕もちょっと聞いた程度だし。多分陛下達はニコラとの結婚なら全然オッケーしてくれるよ」
「何外堀埋めてきてるんですか?!」
僕の追加情報に頭抱えて叫ぶジーン。
そんな反応しなくても。
「あらやだ、ジーンさんはあたしの事そんなにお嫌いだったの?ニコラ、悲しいっ」
「あ!いや!そうじゃなくてですね?!」
「じゃあ好き?」
「うぇっ?!えと、その…ちょっと、ユージェ様!笑ってないで下さいよ!!」
何故バレた、声も出さずにジーンの背後で大爆笑してたのに。
とりあえず体裁を整えてからニコラの横に改めて立つ。
「まぁまぁニコラ、もしニコラが本当にジーンの事恋愛感情として好きになったらお手伝いしてあげるからさ」
「ユージェ様?!」
「えー?意外と結婚相手としてアリって思うくらいには好きだけどなぁ?」
「アレックス様よりも全然でしょ?」
「うん?まぁ、ちょっとね?でも次を考えなきゃだし」
「ん?失恋辛くないの?」
「やけ食いしてやるって気持ちくらいはあるわよ!だからユージェに作って貰うんじゃない!悲しくはないけど!」
…成る程、ニコラは恋愛感情が希薄なんだね。
そういえばアレックス様に対しての気持ちを聞いた時も、優先事項の中に『家を継いでくれる人』ってのがあったな。
勿論アレックス様の事は好きだったんだろうけど、『家を継いでくれる人』の候補者の中で1番好きだってだけだったような気がする。
そういう前提条件なしに好きだの愛してるだのっていう感情が、ニコラは弱いのかもしれない。
まぁ恋愛の価値観なんてみんな違ってて当たり前だし、僕がとやかく言うもんじゃないなぁ。
それに、他国の一般貴族の考えとしては普通な気もする。
うちの国は恋愛結婚推奨だから、自分の気持ちを優先出来る。
でも他国では家の繋がりとかそういうのが優先されて、その中で相手を決めるわけで…
それだったなら、ニコラの決め方は模範的なものだったかもしれない。
「じゃあジーンはニコラの事を少し考えてみる事、ニコラはジーンとの将来を想像してからもう1度告白するなり距離を縮めるなりする事。それでいいかな?」
「…承知、しました…」
「はぁーい」
「ジーンは最近人気あるし、競争率高めだよー?」
「は?!俺知らないんすけど?!」
「えー?!そうなの?!じゃあ頑張んなきゃじゃん!」
「…俺、モテてんの…?」
うーん、ジーン的にはニコラって嫌いじゃないし好きなんだけど、僕の友人って立場としか見れてないんだよねぇ。
まぁ無理矢理この話を勧める気はないので、お互いちょっと考えたらいいさね。
ジーンにはレレートレード王国のシャーロットさん以外にも好意を向けられてる。
メルヒーも『ジーン様、カッコいい…』って言ってたから、恋愛感情の可能性はある。
誰を選ぶかはジーンの自由だから、僕は誰かを押し付けたりしないよ!
そして、残った問題が1つ。
「…ニコラが、結婚…?ニコラが、愛し子様の従者と…?え、あのニコラが…?」
ブツブツと焦点の合ってない目で呟いてるビリー。
完全にニコラとジーンからは無視されてるみたいだけど、またぶっ倒れそうな予感。
そんなにショックだったか、結婚する可能性としては中々高く感じるだろうしね。
…まさか、これでビリーはニコラへの恋心自覚したパターン…?
えー、それだったらなんか可哀想だわ…
さっきあんだけ大声で『コイツだけはない!』みたいな発言されてたしね…
「あら?ビリー、何してんの?早くユージェから荷物受け取ってジーンさんと一緒に厨房に運んでよ!」
「…はっ!!あ、も、申し訳ありません!!」
ビリーが慌てて僕の荷物を受け取ろうとする。
実はジーンは会話しながら半分荷物を受け取ってくれてたんだよね。
ビリーに案内されて、ジーンは屋敷の中へ進んでいく。
「さて、あたし達は少し休憩しましょうか!まだ夕飯まで時間あるし、あたしのとっておきのところへ連れてってあげるわ!」
「へぇ、どこかな?楽しみにしてるよ」
「うふふ、ユージェの事、紹介したかったのよねぇ」
「ん?誰に?」
「まだ、ひーみーつ!」
紹介?誰だろうなぁ?
そう思いつつ腕を引っ張るニコラに付いて屋敷の中に入る。
王都の屋敷と雰囲気は似てるな。
でもそれよりかは少し可愛らしい雰囲気がある。
所々に刺繍の大作とか飾ってあったりとか。
ニコラの趣味…ってわけではないよな?
「ユージェ、ここよ!」
「ここ?部屋…だね」
辿り着いたのは、大きな扉の前。
誰の部屋だ?
ニコラはノックすると、向こう側からの反応を待たずに扉を開けた。
「…わーぉ、凄いね」
「でしょ?!」
部屋の至る所に刺繍や、パッチワークや、ぬいぐるみなんかが飾られていた。
どれも中々の出来栄えです。
そんな部屋の真ん中には、天蓋付きのベッドが1つあるだけ。
ニコラに促されてそのベッドに近付くと、ベッドの上には肖像画が置かれていた。
「…そっくりだね、ニコラのお母さん」
「でしょ?でも父さん曰く、中身は全く別だって言ってたわ」
くるっくるほわっほわの暗い茶髪に、赤みがかったオレンジ色の瞳。
朗らかに笑う姿は、美人であるのにとても可愛らしかった。
「ここは母さんが生前作った作品があるの。父さんが定期的に『キープ』かけてるから、昔のままなのよ。いつかユージェやナタリーちゃん達にも見て欲しかったの、うちの母さんの腕は凄いでしょう?ってね!」
「うん、これは凄いね。もしかして、これは全部ニコラに向けて作ったのかな?」
「あら、わかる?」
「なんかねぇ、愛情を感じる」
どれもこれも、子供に与えるものの雰囲気がある。
手触りの良さそうなぬいぐるみや、お包みにも使えそうな刺繍入りの小さめのシーツ。
とても素敵なお母さんだったんだろうな。
素直に褒めるとニコラは嬉しそうに、自慢そうに胸を張る。
「ふふん、自慢の母さんよ!」
…こりゃ、イザベル様の恋心は報われなさそうだな…
イザベル様は第5師団長でニコラの父親であるロイド様に片想い中の方ですね。