理想の相手?
沢山の荷物を積んで抱えて、僕達とニコラの屋敷に到着した。
…ら、何故か門の前でビリーが土下座した状態で待っていた。
心なしか震えてるし。
横に立っているジーンは少し困り顔だ。
「ただいま、ジーン。それで…これはどういう事?」
「お帰りなさいませ、ユージェ様。なんつーか…説明しただけなのにこうなったというか…?」
「ジーンさん、ビリーに何言ったの?」
「とりあえずここまで来た経緯と、ニコラ様の行動理由と、さっきの態度についてユージェ様はニコラ様のご友人だし気にされてないと思うから大丈夫だ、と言ったんですけど」
「「間違ってないねぇ」」
僕とニコラがハモる。
そしてその声にビクッと反応するビリー。
さてさてさーて、どうしたもんか。
「えーっと、顔を上げなよ、ビリー」
そう言うと、ビリーはゆっくり恐る恐る顔を上げた。
わーお、顔色真っ青だね☆
とりあえず僕も目線を出来るだけ合わせるようにしゃがみ込む。
ヤンキー座りだけど、致し方なし。
「君がニコラに怒った事は正しい。それに別に僕が作った魔導具を疑うのも悪くない、だって不良品の場合だって勿論あるんだから。僕は君と会った事なかったし、ニコラが本当に僕から貰ったものだという確証がないのならあの発言は普通だ。だから怒ってないし、君も気にしなくていい。あと僕に話しかけても不敬罪だとか言い出したりもしないから、安心してね」
緊張が和らぐように、出来るだけ優しく微笑む。
その瞬間、ポカーンとしていたビリーの目から大量の涙が流れ落ちていった。
あれだよ、まさに滝みたいって表現がぴったり。
どぶわぁー!!!みたいな。
流石の僕も驚きました。
「ちょ、ビリー?!あんた何泣いてんのよ!」
「…お優しい…こんな身分が高くて凄くお優しい方がニコラと友達だなんて嘘だ…」
「失礼ね?!元々ユージェの方からあたしに友達になりたいって声かけてきたのよ?!」
「嘘だ…」
「ビリー!!」
静かに号泣するビリーに、地団駄を踏んで怒るニコラ。
なんだこの光景。
「…っと、悪いわね、ユージェ。確か昔、ビリーって他領に出かけてる時に高位貴族に虐げられた事があるらしくて、ちょっとね…あたしも詳しく聞いたわけじゃないんだけど」
「あー、だから僕の前で失言したと思って、自衛で気絶したんだね」
「多分ね。だからビリーってば、あたしが公爵子息のルーファスや侯爵子息のユージェと仲が良いってのも信じられないみたいで…学院入る前とか、王都から帰ってくるたびに心配されたわ」
ビリーにとって、ニコラは妹みたいなものなのかな?
ま、まさか好きなんじゃ…?!
でもニコラ的には全く範疇になさそう…
例の好みで引っかかるのは歳上ってとこか…
優しい、もギリギリ入るかな?
「ユージェが優しいのは当たり前じゃない、あたしに怒鳴った事だってないわよ。なんたってさっきあたしが飛び蹴りして平手打ちしても怒られてないしね!」
「…は?ま、まさか、愛し子様のこの左頬の赤く腫れてるのって…」
「あれ?腫れてる?参ったなぁ、ジーン、冷えたタオルちょうだい」
「はいはい、《ウォーター》《コールド》」
どこからともなく出してきたタオルを魔法で濡らして冷たくしてくれるジーン。
そしてそれを軽く絞ってから僕に投げ付けてきた。
扱い雑だなぁ。
「に、ににににに、ニコラぁ?!?!お、おま、なんつー事を!!!愛し子様のご尊顔に平手打ちって!!!しかも飛び蹴り?!?!どこだ、どこを蹴ったぁ?!?!?!」
あらやだ、ビリー君、ご乱心。
ちなみに今回はお仕置きという事でまだ治療してません。
流石に王都に帰る時には治そうと思います、騒がれちゃうし。
「お腹の中々いいところに入ったと自負してるわ!」
「威張るんじゃねぇー!!!!旦那様に言い付けるぞ!!!!」
「えー、父さんってばユージェに甘いから絶対怒られるじゃーん」
「怒られろ、派手に怒られろ!!そして反省しやがれ!!!」
「やーだよーっだ!ユージェが悪かったんだもーん!!悪い事したらちゃんと叱らなきゃいけないんだもーん!!ユージェを叱れる人なんてあんまりいないんだから、あたしがやらないといけないんだもーん!!」
うーん、否定は出来ない。
苦笑いしながら2人の口喧嘩を聞く。
あれかな、喧嘩するほど仲がいいってやつ?
お似合いに見えてきたわ。
「ニコラ、彼とか相手にどうなの?」
僕の質問に、2人して口論が止まった。
ビリーはわからなかったようで首を傾げて、ニコラは心底嫌そうな顔をした。
「やめてよ、コイツはないわ」
「そう?仲良さそうだし、いいかと思ったけど」
「理想に掠ってんの歳上ってだけじゃない!それにコイツ、学院とかそういうの通ってなかったからめっちゃくちゃバカよ?!領地経営なんて出来るわけないでしょ!!」
「バカっつーんじゃねーよ!!なんの話だよ!!」
…どうやらニコラは微塵も恋愛感情は向いてない模様。
「…あ!!」
「ん?」
「それなりに条件に当て嵌まる人、いるじゃない!!」
「あれ?いた?」
「めっちゃ近くに!ほら!」
ニコラが指差す。
僕とビリーがその指の先を目で追う。
「…あー、確かに。歳上で、優しくて、精神的に落ち着いてて、僕達との関係を認めてくれて、僕を利用しない人…いや、精神的に落ち着いてるかはわかんないけど、当て嵌まってるねぇ」
「…え?」
「うーん、相手がニコラなら僕も安心出来るかも。ちょっと考えてみたら?ねぇ、ジーン?」
目を見開いて固まっているジーン。
成る程、灯台下暗しってやつだな。
「お、俺ぇぇー?!?!?!」
君だよ君、ジーン君?(笑)