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ガルフィ様と僕

折角の機会なので、祖父母孝行しようかと3日ほど滞在してみた。

お祖父様と一緒に鍬持って畑耕してみたり、お祖母様とダンスを踊ってみたり。

ついでなのでソフィア様とも踊ってみたけど、意外とお上手でびっくりしたわ。

なんでもガルフィ様といっぱい踊りたくて、勉強は頑張れなかったけどダンス練習はめちゃくちゃしてたそう。

ちょっと健気だと思ったのは秘密。


それとみんなからとても褒められて、僕が満足しちゃったよ。

あと、改めて婚約した事を報告したら、お祖母様が特に喜んでいた。

ナタリーには会った事あるしね。

『今度連れてらっしゃい』と言われたので、近々一緒にまた遊びに来ようかな。

あ、ちなみにジーンも僕と同じ事をして過ごしてました。

お祖父様から鍬での耕し方が上手いと褒められて嬉しそうだったわ。


そんなこんなで、お祖父様達に別れを告げて1週間後。

今度はガルフィ様のいらっしゃる領地へとやってきました。

…お祖父様って呼んであげた方がいいのか?

うーん、難しい。

ここの領地は農地ではなく、織物や林業が主なんだそう。

だからか自然が多く、療養には確かに良さそうだった。


「どちらにいらっしゃるんでしょうね?」

「さぁ、流石に鍬は振るってないと思うけど」

「大旦那様と比べるのは如何なものかと…」

「ガルフィ様ぁー!!ガルフィ様ぁー!!今度はどこにいらっしゃるんですかぁー?!?!」

「「…」」


不意に聞こえた叫び声に、僕とジーンはお互いの顔を見合わせてしまった。

…多分、今の声ってソルリック様だよね?


「ガルっ…!!っと、これは失礼…んん…?」


物陰から飛び出してきた男性は、僕達を目に止めると少し怪訝そうな顔をした。

おー、確かに年のいった宰相様って感じでそっくりだ。

髪の長さが短いのと、目の色が違うくらいかな?


「ソルリック=オルテス様でいらっしゃいますでしょうか?」

「如何にも、私がソルリックだが…そのお顔立ち…それにその髪…まさか…」

「お初にお目にかかります。アイゼンファルド侯爵子息、ユージェリス=アイゼンファルドと申します。こっちは従者のジーンです。いつもジェイク様とルーファスにはお世話になって…」

「愛し子様っ…!!」


ザザッと膝をつき、頭を下げるソルリック様。

思ったよりも早い反応に驚いちゃった。


「お立ち下さい、ソルリック様。別に傅かれたいわけではないですから。お孫さんの友人くらいに気軽に思っていただければ…」

「は…しかしながら、アイゼンファルド侯爵家の愛し子様と言えば、ガルフィ様とアマーリア様のお孫様でもあらせられますからな…気軽に、と言われましても…」

「ジェイク様にも普通に扱っていただいてますから。ルーファスとは冗談を言い合うような仲ですし」

「ジェイクっ…!!ルーファスっ…!!」


あーらら、頭抱えちゃってやーんの。

こりゃあ本当に苦労性というかなんというか。

そんなに気にしなくていいのにねぇ?


「どうか僕の事は名前でお呼び下さい。敬語も不要です。それで、何やらガルフィ様をお探しのご様子でしたが…」

「…それでは、ユージェリス殿とお呼びさせていただく。失礼があったらすぐに指摘していただきたい。あぁ、そうだ、ガルフィ様…いや、何、先程ユージェリス殿の祖父であるファスナーから『レター』が届いてな。それを見るなり、一目散に逃げていかれて…何が書いてあったのやら」


はぁ、と深いため息をつくソルリック様。

もしかして…


「…ユージェ様が来る、とか書いてあったのでは?」

「ジーンもそう思う?僕もそれだと思う」

「ユージェリス殿がいらっしゃる事が何か?国内巡りをされている事はガルフィ様もご承知のはずだが…」

「うーんと、多分ですけど…いざ近付いてきたと思うと、気まずくなってきたんじゃないですかね?僕、ガルフィ様殴り飛ばしてますし」

「あぁ…その節はどうも…いやはや、あれは致し方なしですが…」


どうやら概要は聞いているらしい。

ソルリック様は少し気まずそうに視線を彷徨わせたが、怒るような事はしなかった。


「…あ」

「「あ?」」


ジーンが急に声を発する。

何かと思ってソルリック様とジーンを見ると、ジーンは空を見上げて口を開けていた。

とりあえず視線の先を確認してみると…


「「…あ」」


なんという事でしょう、横に立っていた大木の上に、ガルフィ様がいらっしゃるではあーりませんか。

何やら焦ったように口元に手を当ててるのは、ジーンに向かって『しー!!君、黙ってて!!』みたいな感じかしら。

だが少し遅かった、全員が確認済です。


「…なんであんなところに」

「いい歳なんですからそんなところに登らないで下さいよっ…!!」


まーた頭抱えちゃったよ。

…ソルリック様って、心なしか髪に張りがないような…

あれかな、祖父がご迷惑おかけしてますって気持ちを込めて、ヴァイリー王国の宰相様にあげたシャンプーセット渡しといた方がいいかな?

とりあえず『アポーツ』でガルフィ様を下に呼び寄せる。

ちょっと抵抗されたけど、僕との魔力差に瞬殺でした。


「…やぁ、ユージェリス、久しぶりだね」

「ご無沙汰してます、ガルフィお祖父様。お元気そうで何よりです」

「うん、まさかこんなに早いと思ってなくて…ファスナーももっと早く教えてくれたら良かったのに…」


…ファスナーお祖父様は、逃げ出す事も計算に入れてギリギリに送ったんじゃあるまいか。

そんな気がしてならない。


「そんなに僕に会いたくなかったです?」

「いや、そんな事はないよ。例え君の顔を見てアマーリアを思い出して少し辛いとは言え、そんなアマーリアの血を引いた君と会える事はとても嬉しい」

「では何故?ソルリック様を撒いてまで?」

「…ファスナーが『少しユージェリスに怒られてみては?』と書いてきたから…」


…キレた僕はそんなに怖かったですか、そうですか。

ソフィア様はそういう意味では怖がってなかったけどなぁ。

…ん?もしかして、ソフィア様へのフォローがないってところに対しての怒られて来いって事…?


「…お祖父様、ソフィア様にあれ以来殆ど会ってない、とお聞きしましたが?」

「…っ!」


ビクッとした後、少し顔色を悪くするガルフィ様。

やっぱその件か。


「…別にいいんじゃないですか?お会いにならなくても」

「え?」

「あれだけ貴方に辛い思いをさせてきた相手ですもん、少しはお仕置きをかねて疎遠にしてみたって」

「あ、いや、それは…そう、なんだけど…」

「いくら淑女教育がそれなりに上手くいってて、僕に対してもまともに謝罪が出来て、見た目も年相応に落ち着かれてきてて、ガルフィ様が会いに来てくれないし手紙の返事もくれないけど自分のせいだから責められないと悲しんで耐えていらっしゃるとは言え、貴方の嫌いな奥様ですもんねー?」

「…うぅ…」


僕の言葉に頭を抱えてしゃがみ込むガルフィ様。

どうやら嫌いだから会いに行かない、というわけでもなさそうだ。

…ま、ただ気まずいだけでしょ。


「お祖父様、ソフィア様がお嫌いですか?」

「…それが、わからないんだ。情はあるとは思うけど、今更嫌いというわけでもなくて…この感情がわからない限り、彼女に会っても傷付けるだけのような気がして…」

「お祖父様、その考え、なんかおかしくありません?」

「え?」

「今の話を聞く限り、ソフィア様を傷付けたくないと言ってるように聞こえましたが?嫌いだったりどうでも良ければ、とりあえず会ってみようってなるか、絶対会わないって突っぱねる気がするんですけど」

「…あ」

「…気になってるんじゃないですか?1人の女性として」

「…そ、そんなはずは…あんな、あんな我儘なソフィアを、そんな…」

「即答で否定は出来ない、と」

「ぐっ…」


図星か。

途端に情けない顔しちゃって。

…この顔、陛下そっくりだな。

いや、陛下がガルフィ様に似てるのか。


「どんな事があっても自分を一途に思ってくれて、自分のために言動を変えようと努力してて…絆されちゃいました?」

「…そう、だね…もしかしたら、そうなのかもしれない…作られた愛情だったとは言え、それなりに長い時間彼女を好きでいて、その後も好きでいるように見せかけていて…憎い、とは思っていたはずなのに…」

「…これに関しては、僕は何も言えませんよ。ご自分でお考え下さい。会いに行くのも、会いに行かないのも、貴方の意思ですから。僕には関係ありませんし、どうぞご勝手に」

「…ふふ、なんだか、本当にアマーリアと話しているようだ…」

「アマーリアお祖母様と?」

「アマーリアも私を仕事の事で責める時は激情するのではなく、こうやって言葉でズケズケ言ってたなぁ…ユージェリス、君、本当にアマーリアじゃないの?」

「残念ながら別人物、別人格ですよ」


…なんか、アマーリアお祖母様の人物像ってマジでわからんな。

ヴァイリー王国では『百合姫』『王家最後の良心』って聞いてるんだけど…

でも、似てると言われて、悪い気はしない。


まだ生きていられたのなら、すっごく仲良くなったかもね、アマーリアお祖母様?

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