評価について
「まぁ…ユージェリスさんは本当にお料理がお上手なんですね…焼き立て美味しい…」
口元を手でお上品に隠しつつ、僕の焼いたクッキーを味見するお祖母様。
気に入っていただけて何よりです。
ジーンは毒味役を買って出たのですでに食べ終わってます。
まぁ毒味とか必要ないんだけどね、王族がいるとはいえほぼ身内だし。
ただジーンが食べたかっただけだと思う。
「大奥様、使用人とかはいらっしゃらないんですか?」
「定期的に屋敷の手入れをする方々はいらっしゃいますけど、基本的には私とソフィア様だけですよ」
「大変じゃないですか?」
「旅の間も侍女のような事をやってましたから、然程。それよりもソフィア様の事を知られて周りに言い触らされる方が少し困りますからね」
あー、そっか、なんで今更王妃教育やら淑女教育やってんだって思われて、世間話の一環で周りにバレると困るよねぇ…
今の世代の人達って、殆どが帰国パーティーの時に見たっきりだもん。
まぁあの時も中々酷かったのがバレたけどさ。
「さぁ、そろそろ行きましょうか。旦那様とソフィア様だけだと会話もあまりなくて辛いでしょうから」
「確かにあの2人が仲良く談笑してる気はしない」
お祖父様、無口な方だしな…
ガゼボに戻ると、予想通り2人とも黙りこくっていた。
気まずい。
「お待たせしました、お茶の用意が出来ましたよ」
「あぁ」
「ララ、ありがとー」
僕達に気付いたソフィア様は、落ち込んではいるけど笑っていた。
うーん…ガルフィ様、来てあげればいいのに。
「うわぁ、このクッキーめちゃくちゃ美味しい!!さっくさくで軽い!!何これ!!」
「美味いな…」
「ユージェリスさんの手作りですよ、貴重なものですから、大事に味わって下さいましね」
「へ?なんで?そりゃ料理する男の子のクッキーって珍しいかもしれないけど…」
「…ソフィア様、王妃教育教本第5巻12章3節」
「うえぇっ?!だ、第5巻…えっと、えーっとぉ…!!」
慌てながら頭を抱えるソフィア様。
王妃教育教本…流石に読んだ事なくて暗記スキルさんも反応しないな。
「領域の料理、だな」
「…あぁ!!りょーいきのりょーり!!うん、覚えてる、大丈夫!!そっか、これが領域の料理なんだ!!うわぁ、凄いね!!食べて良かったの?!」
「えぇ、構いませんよ。まぁこれは普通にクッキーですし」
「ユージェリスさん…愛し子様がお作りになられる物は全て貴重なものですから、お気をつけて下さいね」
「わかった!!美味しい!!」
「全く…もう少しお淑やかにですねぇ…」
あぁ、お祖母様のお小言が始まっちゃった。
ソフィア様も『あちゃー』みたいな顔して聞いている。
「ねぇ、お祖父様。ガルフィ様はお1人なんですか?」
「いや、ソルリックが付き添っている」
「ソルリック?」
「前宰相だ。オルテス家の者、と言えばわかるか?」
「あぁ、ジェイク様のお父様で、ルーファスのお祖父様!」
僕の言葉にお祖父様が頷く。
成る程、お会いした事ないけど、旅にも同行してたんだよね。
確かパーティーの時は体調を崩して欠席してたはず。
「後は2人ほどお世話係としてソルリックの手の物を連れているはずだ。アイツにはララティエのように侍女の真似事など出来ないからな」
「どういう方なんです?」
「見た目はジェイクと似ている。ジェイクは苦労性だが、ソルリックは比較的恬淡だな。だが気付かぬうちに疲れを溜めるタイプでもある」
「…なんかルーファスに似てる感じがする」
「そうか、では孫はソルリック似なのだろう。エドワーズ様とロイヴィスはガルフィ様の二極性をそれぞれ受け継いでいるようだし、ちょうど良さそうだ」
「二極性?」
「…どんなものにも物怖じしない度胸と、人を操る掌握術。それに反して無精でものぐさな面もある。身に覚えはないか?」
「…まぁ、確かに」
僕やフローネにはそう見せないようにしてるそうだけど、父様達曰く『兄様は意外とめんどくさがり』なんだそう。
『めんどくさいから、さっさと殺っちゃお?』みたいなノリな時があるんだとか。
ほら、アッシュ君の時とか。
別に短気ってわけじゃなくて『この方が早く片付くから楽だよね』みたいな感じらしい。
そんな兄様も好きだけど。
そうか、兄様は結構王族…ガルフィ様の遺伝子が強いんだね。
「エドワーズ様とロイヴィスに付き合うのであれば、ジェイクのような性格では頻繁に倒れるぞ。ユージェリスもあの中に加わるのであれば気をつけろ」
「多分僕は倒れさせる方なので…」
自覚はあります、はい。
「お前が倒れなければそれでいい。好きなようにしなさい」
フッと軽く微笑み、僕の頭を撫でてくれるお祖父様。
きゅぅぅぅぅん、しゅき♡
ダンディなお祖父様に優しくされるとか僕の乙女心を擽られる♡
「ちなみにの話をするのであれば、ルートレールとジェイクが苦労人気質だからこそ、セテラート様の治世は成り立っているのであろう」
「どゆこと?」
「ガルフィ様とソフィア様のダメな点をよく引き継いだやれば出来るセテラート様を、ベアトリス様が手綱を握ってコントロールする。そんなぶっ飛んだ2人を下から横から、様々な方向から支えるのは1人では足りなかろうて。忠誠心だけの硬い頭の持ち主ならば、柔軟には対応し切れまい」
…お祖父様からそう思われてるなんて、父様と宰相様が、不憫っ…!!
でも否定出来ない、事実だと思うもん。
…今度、お2人にだけ何かを差し入れしようかな…