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母親

遅くなりましたー!

「なんで…え、どうして…?なんで揚げ物なのに気持ち悪くならないでこんなに食べれるの…?寧ろ止まらない…」


先程よりも断然顔色の良くなったアイカット様が、ベッドの上で体を起こして一心不乱にポテトを貪る。

うーん…妊婦さんへ◯ックのポテト最強説は本当だったのか…

ちなみにサクサクタイプが良かったようで、ホクホクタイプはベティ様が食べてます。

美味しいらしく、とってもいい笑顔です。


結局アイカット様が完食出来たのはレモンシャーベットと、オレンジゼリーと、キャロットラペと、お粥と、冷やしトマトだった。

ミルクアイスとヨーグルトムースは食べれるけど大量にはいらないって感じで、きゅうりの酢の物は酢がキツかったみたい。

今回のキャロットラペはレモン汁で作ったしね。

素麺とお吸い物は醤油に慣れてないからか首を傾げていた。


「私も妊娠中に食べたくなってねぇ。フェルナンドにじゃがいもを揚げて頂戴ってお願いしたら、丸ごと揚げたやつ出されたわ…」

「言い方の問題では?細く切って揚げてって言えば良かったんですよ。まぁこれはそれだけじゃないですけどね」

「フライドポテトってただじゃがいも揚げるだけじゃないの?」

「まぁそれでも揚げた芋、フライドポテトですけどね。アレを再現するなら小麦粉と片栗粉と塩なんかを混ぜたやつを塗してから揚げないと」

「あら、そんなに手間がかかってたのねぇ…道理で美味しいわけだわ」


まぁ僕のも自己流だからお店で同じように作ってるかは知らないけど。


「ユージェリス様…これ、何かヤバい物とか入ってませんよね…?」


不安げなアイカット様が胡乱げな眼差しで僕を見つめる。

その両手にはフライドポテトがしっかりと握られていた。


「普通のフライドポテトですよ。ただ妊婦さんに大人気なだけで」

「あんなに油っぽいものに拒否感があったのに…これはいっぱい食べれちゃいます…」

「多分、肉系の揚げ物がダメなんじゃないですかね?今度素揚げの野菜とかを塩やレモンで食べてみては?」

「あぁ、成る程…確かに屋敷で出てきた揚げ物は肉などが多かったです。精のつくもの、という事で…」

「アイカット様の症状的には肉はまだやめた方がいいですね」


せめて安定期に入ったらだな。

僕はアイカット様の食べれたメニューを紙に記して纏める。

残った料理はベティ様がいつの間にかお腹の中に片付けてくれていた。

そのまま空の配膳台にメモを乗せて、廊下にいるマイク様に渡す。

マイク様は空っぽの配膳台を見て、嬉しそうに涙を滲ませながら笑って片付けを引き受けてくれた。

ごめん、半分くらいはベティ様が食べたんだ。


「そういえば、ユージェリス様だけではなく王妃様まで来ていただけるなんて…それに、そのお姿は…」

「あぁ、いいのよ、家出のついでだし」

「え?」

「…陛下がベティ様の逆鱗に触れまして。ちょっと遠い国まで家出ならぬプチ旅行してたんですよ。僕は移動手段として巻き込まれたんですけどね。やっと気が済んだみたいで、これから王都に帰るんです」

「…陛下…」


あぁ、頭抱えちゃった。

まぁ抱えたくもなるか。


「大丈夫よぅ、これから帰るから、多分」

「多分じゃなくて帰るんですよ。僕だって暇なわけじゃないんですから」

「んもぅ、ユージェのいけずー」

「…不謹慎かもしれませんが、こうしてお2人が態々会いに来て下さったのは嬉しいです。ありがとうございます…」

「…私、実はファニール様に貴女の事頼まれてたのよね」

「…母、から…?」

「…あの方、亡くなる少し前から私に貴女の話をよくされていたのよ。それで話の最後には必ず『私に何かありましたら、よろしくお願いします』って言うの。それで私は毎回『貴女が娘を育てるんでしょうが!』ってふざけたように笑顔で突っ込んでたけど…まさか、本当にいなくなるなんてねぇ…」

「…こんな事を聞くのは失礼ですが、先々代の騎士団長様の最期って…」

「…ある森で自然級の兎が出て、近くを通りかかった非番のファニール様が駆け付けたのよ。結果としては自然級の兎じゃなくて災害級の狼…段違いの強さに、交戦中だった狩人達を逃すため、ファニール様は囮になって…王城に搬送された時には、すでに亡くなられていたわ」

「そんな…」


悲痛な面持ちで両手を握るベティ様。

アイカット様も悲しげな目を伏せていた。


「…私が王太子妃になったばかりで、王城に篭って勉強してた時で…もし、勉強なんて放り出して、森に向かってたなら…ファニール様を、助ける事が出来たのに。そう、今でも思ってしまうの。あの時は前愛し子のローレンス様が亡くなられた後で、愛し子は私1人だったし。だからユージェが国内周りをしたいって提案に賛成したのよ。だって、報告さえ入れば、助けられる命があるでしょう?」

「ベティ様…」

「だからね、私は勝手にアイカットちゃんを娘の1人だと思ってるわけ!出産経験者としても、親代わりだとしても、頼ってくれていいんだからね?!」


ベティ様がアイカット様をギュッと抱きしめる。

アイカット様の頬からは一筋の涙が流れ、その顔を隠すようにベティ様の肩口に顔を埋めた。

…こうなったら僕は一旦退散しようかな。

ベティ様にとっては元女である僕が聞いてもいい内容かもしれないけど、アイカット様的には恥ずかしいとか嫌な気持ちになったりするかもだし。


認識阻害魔法を段々とかけていき、スッと音もなく部屋を出た。

部屋を出てからは魔法は解除する。

するとちょうどマイク様が配膳台を片付けて戻ってきたところだったので、お言葉に甘えて応接室でお茶をいただく事になった。

うーん、流石公爵家、紅茶がめちゃくちゃ美味い。


「…ありがとうございました、愛し子様。奥様のために料理などを…」

「いえ、私はアイカット様を一方的に友人だと思っていますので、ただお助けしたかっただけです」

「一方的など、奥様も愛し子様の事は大切に思われていると…!」

「んー、でも、それって『愛し子だから』という前提もあると思うんです。それがない状態だったなら、どうなっていたのやら…」

「…それは、多分、失礼を承知の上でお話させていただきますと…想い人になっていたかと」

「…僕が、アイカット様の?」

「身に覚えはございませんか?」


…ないといえば、嘘になるか。

アイカット様が常識的な思考の持ち主だったからこそ、僕に迫ってきたりしなかっただけだろうし。


「…まぁ、たらればな話は心にしまっておきましょう。それより、先程のメモは料理人さん達にお渡しいただけましたか?」

「えぇ、とても喜んでおりました。出来れば直接お話したいと申し出ておりましたが、そこはお断りしてますので」

「ははは、そんなに気に入られてしまうなんてなぁ。では、無職になってしまったらこちらで雇っていただこうかな?」

「め、滅相もない!!愛し子様なら他に適したお仕事がありましょうとも…!!」

「えー、残念ですねぇ」


ケタケタと笑う僕を見て、少し驚いた表情をするマイク様。

何事?


「…愛し子様も、そのように笑われるのですね…」


マイク様、お前もか。

どうして愛し子=お人形とでも思うのか。

まぁベティ様は普段完璧な王妃様スマイルで顔崩したりしないからなぁ。

こういう意識改革はしていくべきかもしれないなぁ、後々の愛し子のためにも。

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