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ベティ様の提案

遅くなりましたー!

盛大な宴会も終わった翌日、僕とベティ様はジャルネを出発した。

そりゃあお見送りは凄かったよ。

黒鉄さんからはレシピなんかを貰って、華さん達からはまた調味料や乾物なんかを大量に貰えた。

あと、最後まで『なぁベティさん、やっぱりここに残らねぇか?』と少し寂しげに言う虎徹さんと『ベティさん、行っちゃうん?』と捨てられた子犬のような目で訴えかける焔に挟まれてベティ様は悶絶していた。

でも十六夜さんがいたからか、焔のは早い段階で『また来るわね、奥さんと仲良くね。子育ては大変よぉ?』と王妃様スマイルで逃げていたけど。

十六夜さんの普段は糸目っぽいのに焔の事となると見開く感じ、クッソ怖いよね。

口は笑ってんのにね。


そんでまぁ、とりあえず跳べるとこまで跳んで、また奥様と従者スタイルでちょっとした旅をしてました。

今回は護衛の狩人役がいないので、必然的に僕が戦える従者として帯剣してたわ。

んでひ弱そうに見えると絡まれる回数が増えるから、何時ぞやの冷徹バージョンでほぼ眉間にシワ寄せて少しだけ殺気を周囲に張り巡らせて頑張った。

おかげで顔がつりそう…

ベティ様には爆笑されたし。

いいもん、絡まれなかったから報われたもん。


そしてジャルネを出発して3日後、後1回で王都に着けるという距離でベティ様が突然の提案をしてきた。


「ねぇ、騎士団長のところに様子見に行ってみない?」

「騎士団長って…アイカット様?あぁ、そうだ、会いに行こうと思ってて忘れてた」

「まだ4ヶ月くらいだから、見た目的にはそんなに変わってないでしょうけど…彼女、悪阻が酷いそうよ。妊娠出産経験者として少しだけでも励ましてあげたいの」

「ベティ様は悪阻とかあったんですか?」

「ぜーんぜん。強いて言えば食べ悪阻かしら?ずーっとドライフルーツ食べてたわ」


悪阻は個人差があるって言うもんな。

病気じゃないから魔法は効かないし、かと言って病気以上に厄介なもの。

僕は前世で体験する事なく死んでしまったから、辛さはわかってあげられない。

でも、出来るだけ力になりたいと思うんだよね。

めちゃくちゃ重い2日目の生理より辛いってんだから…

しかも出産の時はそれ以上でしょ?

無理無理、耐えられない。

男がその痛みを経験したとしたらショック死するレベルらしいから、僕ももう耐えられないかもしれないわ。

たまにいる『病気じゃないんだから生理痛や悪阻くらいで仕事休むな』とかいう奴も、1番酷い二日酔いプラス急所を定期的に強打した状態で1日過ごしてみろってんだ。

きっと改心出来るよ、うん。


「というわけで、行くわよ!」

「…先触れ出してませんけど?」

「出したら気を使わせちゃうじゃない。ちょっと寄って様子見てくるだけよ」

「はぁい」


逆らえませんし、逆らいません。

そんなわけで『ワープ』!!


前回来た時はまだ妊娠発覚前だったし、普通に領地を少し案内してもらったんだよね。

その時、アイカット様の生家も教えてもらったから、多分そこにいると思うんだ。

人通りの少ない場所に跳び、そこから生家を目指して歩いた。

比較的近くてすぐ着いたんだけど、門の前には門番や私兵がいたので、とりあえず様子見。


「どうします?」

「普通にこんにちはー、じゃダメかしら?」

「僕達一応愛し子ですよ?騒ぎになりませんかね?」

「先に騒ぐなって命令しとけばいいんじゃないかしら?」

「…『サイレント』でもかけてから話しかけますよ」


流石王妃様、命令慣れしてらっしゃる。

僕はそんなに慣れてないんだよなぁ。

ベティ様の少し前を歩きつつ、門番さんに近付く。

うん、近付くと中々ゴツいおじ様だわ。

めっちゃ厳つい。


「…何か御用ですかな?」

「えっと…アイカット様はご在宅でしょうか?」

「…当主は騎士団長を就任する身ですので、領地にお戻りになる事は殆どありません」


…いないとは言わないのね。

まぁまだ秘密な話だもんなぁ、ご懐妊は。


「すみません、端的に言わせていただきます。アイカット様の近況につきましては第1師団長のアレックス様よりお伺いしております」

「アレックス様から…?貴方は一体…」

「失礼、《サイレント》」

「?!」


僕達とおじ様の周りの音を消す。

まだ中の私兵の人達には気付かれていないようだ。

おじ様はこちらに殺気立ちつつ、右手を剣に置いた。


「何をなさるおつもりで?」

「お控え下さい、こちらはベアトリス=リリエンハイド様であらせられます」

「なっ…?!」

「ご機嫌よう。貴方、ファニール様が騎士団長時代の左翼の副団長だったマイク=アジャンタリットじゃなくて?通り名は熊殺しのマイク」


何それ、物騒。


「…まさか、本当に、王妃様で…?」

「今はお忍びなの、騒がないでいただけるかしら?」

「は、ははっ!」


おぉ、おじ様が直立で敬礼してる。

これはこれで目立ちそうだけども。


「お、お言葉ではございますが王妃様。愛し子様とはいえ護衛も付けずに街を歩かれるのは些か…」

「あら、護衛ならいるじゃない、この子が」

「いや、成人はしていそうですが、見るからに…」

「言葉を慎みなさい。見た目で判断しない事よ、マイク。この子はユージェリス=アイゼンファルド、もう1人の愛し子で、天災級も神話級も瞬殺出来る青年よ?」

「は…?」


ポカンと口を開けたまま、ゆっくりと僕を見直すおじ様。

とりあえず貴族の礼にてご挨拶。


「ユージェリス=アイゼンファルドと申します。アイカット様とは親しくさせていただいております。先触れも出さずに申し訳ありませんが、お取り次ぎをお願い致します」

「…しょ、少々お待ち下さいませ…」


壊れかけのロボットの如く、手と足が同じように動きつつ屋敷の中へと入っていくおじ様。

『愛し子様が2人同時に外出…?愛し子様だけで…?』とブツブツ呟きながらなのが聞こえた。

まぁ滅多にないだろうね、こんな組み合わせでフラフラしてるなんて。


そうして数分後、未だ手と足が一緒に出てる状態で戻ってきたおじ様に案内されて屋敷へと足を踏み入れた。

どうやらアイカット様は自室で基本的に横になってるらしく、起き上がれないのでそちらへ向かう事になった。

無理させるわけにもいかないし、そこは全然オッケーです!


「奥様、マイクです。愛し子様方をお連れ致しました」

「どうぞ、お入り下さい」


扉の前でおじ様が声をかけると、中からアイカット様の声が聞こえた。

開けて入室すると、上半身だけを起こした状態でベッドに座るアイカット様がいた。

うーん、顔色悪いし、心なしかやつれたような…


「王妃様、ユージェリス様、態々このようなところまでお越し頂き、誠にもう…」

「「う?」」

「もう…も…う、うっ…」

「アイカットちゃん!早く吐きなさい!」


アイカット様の見る見るうちに悪くなる顔色に、ベティ様が慌てて駆け寄って近くのゴミ箱らしきケースを掴んで押し付ける。

あ、これ、もしかして僕が見たらアイカット様気にしちゃう?!

手で口押さえてめっちゃ耐えてるんですけど?!

そうだよね、異性に吐く瞬間なんて見られたくないよね?!


「僕出ます!!」

「出てって!!」


ベティ様の叫びに、勢いよく部屋を飛び出て扉を閉める。


「…体を起こすだけで、吐き気を催すらしく…調子のいいタイミングでないと起き上がれないそうなのです…」


おじ様が少し悲しげな声で呟く。

どうやら今は調子のいいタイミングではなかったようだ。


「あの…突然で申し訳ありませんが、厨房をお借りしても?何か食べられそうなものを差し入れたいのですが…」

「愛し子様は料理をなさるので?」

「えぇ、一応スキルも持ってますし、それなりに妊婦への知識もありますから食べれるものを作れるかもしれません」

「是非お願い致します。奥様は殆ど食事をお召し上がりになれていないのです。水と少量の果物…後は調子のいいタイミングでスープくらいでしょうか…ここ1ヶ月はそんな食生活で、使用人一同心を痛めているのです。厨房の者には愛し子様とは伝えず、上手く誤魔化しますので」

「そうですか…では、よろしくお願いします」


そんな食生活じゃ体が参っちゃうよな…

ただでさえ双子で栄養取られるのも倍なのに。

よーし、色々作ってみるぞー!!

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