不倫一歩手前
区切り的に少し短めですー
「たーだいーまよー」
「おーかえーりよー」
虎徹さんの部屋に直接『ワープ』すると、華さんから返事が返ってきた。
…そしてこの状況はなんだろう?
「…あれ、虎徹さんですよね?どしたの?」
「んー、なんか、女神仕様のベティさんにガチ惚れしちゃったみたい」
「マジか」
視線の先には頬を赤らめて照れる若々しいキラキラベティ様を、いつもの恵比寿様感はどこ行った?なワイルド系お侍様(しかも若い)な虎徹さんが腰を抱いて不敵に笑っていた。
ベティ様、満更でもなさそう。
…僕、これ陛下に報告しなきゃいけないのかな…?
「虎徹さん、あれ顔とかいじってます?」
「ううん、昔はあんな感じだったのよ。殿に就任してからウォール・ジャルネ出しとくためにこの城にいるようになって、動かなくて太ったの」
「あぁ、運動不足か…神楽さんと東雲さんは?」
「お腹を空かせているであろうベティさんのために黒鉄のところへテイクアウトしに行ったわ。ここにいても東雲が煩いだけだしね」
「こ、虎徹さん、ダメよ、私には夫と4人の子供が…!」
「いいじゃねぇか、その夫には飽いてるんだろ?子供も纏めて愛して面倒見る。だから俺の側にきてくれや」
「はぅん…」
やっべ、ベティ様の直球ドストライク。
ちょっと強引な漢に弱いらしいんだよなぁ…
しかも虎徹さんの場合はただの俺様なんじゃなく、本当に懐の深い強い漢なわけで。
ギリギリの理性で頷かないようにしてるわな、こりゃ。
「ベティ様、虎徹さん、戻りましたよー」
「あ、あら、ユージェ!お帰りなさい!」
「おぅ、おけーり。首尾はどうだぁ?」
「…とりあえず目の毒なんで、離れてもらっていいですか?」
「チッ、仕方ねぇなぁ…ベティさん、後でな?」
「はひっ…」
ベティ様ぁ、目がハートですよぅ…
とりあえず離れて座ってくれたので、エヴァンド地区での話を進める。
途中ベティ様と虎徹さんの姿(年齢?)は元に戻った。
なんとなく残念そうなベティ様に虎徹さんがさっきと同じように不敵に微笑めば、顔を真っ赤にして目線を逸らしていた。
そこ、アオハルしてんじゃないよ。
僕の報告が終わると、ベティ様も何をしたのか教えてくれた。
…だからあんな姿してたわけね。
そして意外と手は出してないのか、実は理性的だった。
「それでね、ダメ元で出した精霊への『レター』、意外とすぐに返事が来たのよ!」
「へぇ、時間の流れが比較的近かったのかな?なんて書いてありました?」
「精霊を騙るのは構わないって、ジャルネの精霊にも聞いてくれたみたいよ」
「…うん?ジャルネの?ガジャーノじゃなくて?」
「それがねぇ、衝撃の事実なんだけども…ガジャーノに精霊はいないらしいの」
なんですと?
「…言われてみりゃぁ、そうかもしれねぇんだよなぁ…だって、ガジャーノは国として定まってないからな」
「…あぁ、そっか、少数民族の集合体をガジャーノって呼んでるだけで、国名じゃないのか」
「そうなの。リリエンハイドが言うには、だから彼らは魔法が上手く使えなかったりMPが少なかったりするんだって。彼らが自分達は1つの国だと宣言して、近隣諸国がそれを認めない限り精霊は生まれない…現状維持のままなのよ」
「成る程、納得」
そんな日がいつか来るのだろうか…
神のみぞ知る、ってか?
いや、この世界なら精霊のみぞ知る、か。
「そういやよ、ユージェリス。お前の言ってた祭壇ってのの製作者、真珠っつったか?」
「えぇ、そうスキルで見えましたよ」
「…俺の生まれる少し前に死んだ女に真珠って名前の奴がいたはずだ」
「そうなんですか?」
「あぁ、俺も歴代の転生者のプロフィールを載せた本を見た程度だが、確かそいつぁ…どっかの国と日本人のハーフで、日本語は喋れるけど書けないって奴だったな」
「…だからよくわかんない日本語だったのか。しかもミミズの這ったような字だったし」
「真珠の日記でもないか探しといてやるよ。なんでそんなもん作ったのかわかったら連絡してやる」
「日記ってどうせ英語とかじゃん…読めないやーつ」
「解読してから教えてやるよ。誰かしら読めんだろ」
「よろしくお願いしまぁーす!」
そんなもんエンターキー連打ですとも。
僕、翻訳、無理。
「さて、まぁこれでガジャーノは来ねぇだろ。来たら本物の馬鹿だな。じゃあ改めてベティさんを口説き落としに…」
「いやぁん♡」
「ベティ様、戻って来てくださーい。ジャルネと戦争になったらどうするんですかぁー」
「やだわ、ユージェったら。こんだけ距離離れてるんだから戦争なんて出来っこないわよ」
「ところがどっこい、僕がいますから。ベティ様が拒否しようとも、僕はリリエンハイド王国の愛し子として戦争ならば王命を聞かなくてはいけませんので」
「んー…ユージェリスとバトんのは流石に無理だろうなぁ…ベティさんはどっちにも加担出来ねぇだろうし。ユージェリス1人とうちの転生者全員…ダメだな、勝てる気がしねぇ」
カラカラと笑う虎徹さん。
うーん、いくら惚れた相手を手に入れる為だとは言え、自分の国の人間を危険に晒すような真似はしないか。
流石、いい漢だ。
「惜しいな、ベティさんがうちの国に転生者してりゃ、俺が娶れたってのに」
「あら、そしたら私、この見た目じゃなくってよ?」
「関係ねぇな。確かにその見た目も美人で目を引くいい女だが、それは中身が伴ってなきゃ意味がねぇんだぜ?」
「あら…♡」
「本気で旦那に飽きたらまた来いよ、歓迎するぜ」
「うふふ、そうするわね」
「クロガネヤマトでーす!お届けに来ましたぁー!」
一件落着したと同時に、神楽さんと東雲さんが沢山の紙袋を持って帰ってきた。
「後で十六夜達も来るってよ」
「あら!じゃあ宴会ね!お酒も出しましょ!」
「とーのっ、殿の秘蔵のコレクション、出して下さいなっ!」
「あぁん?しょうがねぇなぁ…おい、ユージェリス、なんかまた酒持ってきてっか?」
「えぇ、お土産に色々仕入れてきましたよ」
「んじゃあそれも出せ。ドーンとド派手に宴にしようじゃねぇか」
「「「「わぁーい!」」」」
「…俺は帰りたい…」
残念だったな、東雲さん。
これはきっと強制参加だ!
とりあえず僕もアイテムボックスに入れてある料理の数々をご披露しようかね!